第03話
「でも、これもそれも全部、久喜善人のせいじゃん!」
無人なのをいいことに、ブーブー文句を垂れ流しながら私服に着替える。
勢いよくロッカーの扉を閉めてロッカールームを後にすると、ムカムカした気分のままエレベーターで1階に下りた。
今度は極力、鏡を見ないようにしてやり過ごす。
ポーンという軽快な音を聞くや否や、扉が開ききる前に私は足を踏み出した。
そのままカツカツとヒールを盛大に鳴らし、ロビーを闊歩する。
(駅のコンビニで、まずはビールでしょ! それからコロッケでしょ! あ、CMで見た新発売のチキンナゲットも気になるな。後はデザートに、苺のシュークリームを買って帰れば完璧ね!)
今夜はやけ食いでもしなきゃ腹の虫が収まらないと、食べたいものを頭でどんどんリスト化していく。
(この時間、スーパーさえ開いていれば安くお惣菜が買えるのに! もう! なんで10時近くまで、律儀に残業しちゃったんだろう!)
会社から自宅までは、電車で約30分ほどかかる。
行きつけのスーパーの閉店時間は午後10時30分。
今から急いでも、ぎりぎり間に合わないだろう。
営業部で働いていた時は、連日のように接待や残業で午前様だったため、基本コンビニでしか買い物はしていなかった。
総務部に異動になってからは、勤務状況も変わり生活サイクルは激変したし、
給与もガクッと下がったから金銭感覚も大きく変化した。
(自炊のためにフライパンを買ったのって、総務部に移ってからだもんな……)
今夜は何を食べようか。食べ物のことばかり考えつつ、改札に社員証を押し当てた。
「……そう言えば、人事マネージメント事業推進部って月給いくらなんだろ?」
思い起こせば、嵐のように過ぎた一週間だった。
異動の同意書に判子を押した覚えはあるけど、給与面を含む待遇の説明はまだ受けていない気がする。
(今から確かめに戻ってやろうかな……?)
「あの分からず屋を、思う存分困らせてやればいいじゃない♪」という悪魔のささやきが聞こえた。
けれどどうせまた、鼻息荒く戻ったところで、
「私の貴重な時間を奪わないでくれ」
とか何とか言って、軽くあしらわれるだけだろう。
でもそれを覚悟の上で、いっそあしらわれに戻ってやろうか……などと考えて立ち止まる。
(……ダメダメ! 我ながら、おとなげなさ過ぎるわ!)
ブルブルと首を左右に振り、良からぬ考えを頭から追い出した。
自分でもどうかしていると反省しながら、正面玄関の自動ドアに向かう。
「―――遠藤!」
そのまま外に出ようとしたら、いるはずがない人の声が背中から届く。
まさかと思って振り返ると、飯田君がひらひら手を振っていた。
「飯田君!? どうしたの!?」




