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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
元同僚の複雑な心中
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第02話

一息つこうとして席を立ち上がると、唸るような久喜さんの声が聞こえた。

「……遠藤、もう帰れ」

突然のことに戸惑ってしまう。

「え、でも」

もう少し、区切りのいいところまで作業がしたかった。

「あと少しなんです」

「―――帰れ」

私の顔も見ずに書類に目を落としたまますげなく対応され、さすがにカチンときてしまった。

「ですが、これが終われば、来週には新しい仕事も手伝えますし!」

強めの語尾で反論を試みる。

「……もう終わるのか?」

やっと書類から顔を上げ、久喜さんが私の顔を見つめる。

「は、はい」

予想外に彼が驚きの声を上げたので、何だかおかしくなってしまった。

「正式には終わったではなく、終わりそうな状態ですが。明日の朝には、完了する見込みです」

いつもやられっぱなしだけど、この時ばかりは久喜さんの鼻を明かせた感じがして、内心ニヤニヤが止まらない。

―――なのに。

「……そんなに仕事がしたいなら、明日の朝、早く出てきて作業しろ」

ふわふわとした弾む気持ちを、目の前でぐしゃっと握り潰された気分だ。

「で、でも!」

「これは急ぎの仕事ではない」

見事なまでにはっきり、きっぱりと言われてしまった。

こうなってしまったら、もう言い返せない。

これ以上は「意見」ではなく、ただの「口答え」になってしまう。

(暖簾に腕押しって言うんだっけ、こういう、手応えがない対応のこと……)

「わかりました。明日、早く出ることにします!」

私は精一杯反抗的な声で久喜さんにそう告げると、大げさに音を立てて帰り仕度をした。

足音荒く部屋を出ると、怒りを廊下のカーペットにぶつけるように、一歩一歩を大げさに踏み出す。

そして、イライラしたままエレベーターに乗り、ロッカールームに向かった。

ほとんど社内の人が退社した時間帯で、本当によかったとつくづく思う。

なぜなら、エレベーター内の鏡に映る自分の顔に、自分でもギョッとしてしまったからだ。

(朝から10歳ぐらい、年を取ったかも……)

かろうじてメイクは保っているが、肌はガサガサ。

目の下はマスカラが滲んで、うっすらと黒かった。

ただでさえ社内では、「敏腕役員の補佐に抜擢された、元営業部の問題児」と好奇の目で見られている。

(こんなやつれ果てた顔で歩いてたら、またおかしな噂を流されちゃう……!)

明日からは昼に一度、しっかりメイク直しの時間をとろうと心に決め、エレベーターを降りた。

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