第05話
会話の内容が内容なだけに、メモを取るのも気が引ける。
ふう、とこっそりため息をついて、膝の上で両手をもじもじさせていたら、急に名前を呼ばれてビクッと大げさに反応してしまった。
「遠藤君」
「は、はいっ?」
バッと顔を上げ、久喜さんを見つめる。
大事な面談中だと言うのに、彼に真顔で見つめられると、やはりまだ落ち着かない。
「君は、2年前まで営業部で勤務していたね」
「……は、はい」
今日の久喜さんは、淡い水色のシャツと深いブルーのスーツに、パステルピンクのネクタイ。
控えめだが、春らしい雰囲気のスタイルだ。
明るいグレーのスーツに、赤いネクタイを合わせている飯田君と並ぶと、まるで違う会社の人のよう。
(2人とも、洋服にお金かけてるな……)
どうでもいい考えが頭をよぎったが、すぐに気を取り直し、次の久喜さんの言葉を待つ。
「飯田君の仕事ぶりは、君から見てどうだ?」
ドキッと心音が跳ねるのがわかった。
(ま、まさか……。私の意見が、飯田君の“これから先”を左右する判断材料になるんですか~!?)
彼とは4年間一緒に働いてきた。勤務態度や働きぶりを聞くには、確かに私が適任かもしれない。
……でもこれは、責任重大な指令だった。
「あ、はい」
私は頭の中で慎重に言葉を選ぶと、1つ1つ確かめながら意見を述べ始める。
「飯田君は……まず、取引先の方に好かれやすいです。好感を持ってもらいやすいと言うか……」
他の部署ならまずいかもしれないが、営業部においては、彼の見た目のチャラさはいい意味で飯田君の武器になっていた。
「他の方よりも断然、覚えていただきやすい特徴を持った人だと思います。それに、外見はイマドキ風に見えますが、内面は非常に古風で情に厚く、気配り上手でもあるので……」
「んんっ、ごほっ」
……飯田君がむせている。
(私だって、面と向かって同期を褒めるのは、ちょっと照れくさいんだから……!)
「そういうギャップも、却って他の方には好印象で受け止められるのではと、私は思っています」
「……続けて」
「はい。営業の仕事で重要になる、報告と確認、情報共有もスピーディーですし……。面倒見がいいので後輩にも慕われて、上司にも可愛がられる。営業の資質を全て備えた人だと思います」
―――目の前で、飯田君がいたたまれなさそうに目を泳がせているのも気になるし、隣の席から私をじっと凝視している久喜さんの視線も気になる。
(これは一体、何の板挟みなの……?)
気まずさに耐えきれず、久喜さんと飯田君、2人のちょうど中間の位置にあるテーブルの中央に、私は視線を落とすしかない。
狭い部屋に居心地の悪い沈黙が流れた。