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その上司、俺様につき!  作者: 皇ハレルヤ
とにかく出会いは最低最悪
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第14話

当然湧き上がる疑問を正直にぶつけた。

すると、

「……私の独断だ」

100歩譲っても、到底回答とは思えない言葉が返ってくる。

「はあ!? ちょっと、どういう意味なんですか!?」

「君の、”会社員”としての能力に期待している」

久喜善人は「これで話はおしまいだ」とでも言いたげな一瞥を私にくれてから、きゅっと踵を返した。

「ちょ、ちょっと! 勝手に話を始めて勝手に終わってんじゃないわよ!」

会議室を出ようとする背中に、私は思い切り、思いの丈をぶつける。

「部下が納得できるまで、ちゃんと説明するのが上司の仕事でしょ!?」

明らかに私よりもポジションが上だとわかりきった相手だったが、この時の私は敬語の「け」の字も念頭になかった。

「上司は部下への説明義務ってもんがあるでしょうが!」

彼は流れるように滑らかな動きで体の向きを変えると、私にビシッと人差し指を突きつけて、

「上司への言葉遣いをわきまえたまえ」

と、感情のない声で言う。

こんな状況でも、惚れ惚れしてしまう動作だった。

「……すみま、せん」

思わず、口が勝手に謝罪の言葉を述べる。

(どんなに器が整っているからって、中身がこれじゃあ最悪だわ……)

けれども、彼の指摘は至極まっとうだ。私は一旦頭を下げ、でもすぐに気を取り直して抗議する。

「でも! 私はまだ納得できてま―――」

なおも引き止めようと言い募る私を完全に無視して、久喜善人は会議室を出て行った。

閉じられたドアのガチャッという音が、私の”取り残された感”を一層引き立てる。

「信じ……らんない……」

まるでコントのように、両膝をガクッと床のカーペットについてしまった。

「今日は……年度始めの日で……待ちに待った、期待に満ちた1日になるはずだったのに……」

全身の力が一気に脱力し、そのままペタンと座り込む。

「なんで……こんなことに……」

大きく裏切られた期待と予想に、思わず涙が滲んだ。

まさか会社で泣く日が来るなんて。

異動が決まった日も、泣くことだけは絶対にすまいと堪えに堪えたのに。

マスカラが落ちないように注意して涙をぬぐっていると、社内に一斉放送が流れた。

「2階ホールにて、9時45分より、社長の新年度のご挨拶があります……繰り返します……」

「あ……私も行かなきゃ……」

ヨロヨロと立ち上がり、テーブルに手をつきながら何とか移動を始める。

夢なら覚めてほしいけれど、未だ覚めないあたり、これはまごうことなき現実らしい。

ならば、泣いても笑っても結局最後には、折り合いをつけて受け入れるしかないのだ。

「あの野郎、絶対に鼻を明かしてやるから……!」

切り替えは早い方だと自負している。

私はブツブツと呪いの言葉を吐きながら、這いずるようにして会議室を後にした。

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