第11話
「うん、だって役員直々の判断だもん」
ピッと軽快な音を立て、ゲートが開く。
「普通、面談って上から順番にしていくもんなんじゃないの?」
「さあ……? 何が普通かはその人それぞれだし、役員様の頭の中まで俺にはわかんないよ」
私と飯田君の声だけが、広々としたロビーに響く。
「それは……そうだけど……」
全然納得がいかない。
どうして私が、重要な社の面談の一番手に選ばれたのか……。
頭をよぎるのは「解雇宣告」の四文字。
嫌な予感を抱えながらエレベーターホールに行くと、すでに上行きのエレベーターが待機していた。
「で、待てど暮らせど出勤してこない遠藤を、探す役目を俺が仰せつかったってわけ」
「ご、ごめん! 本当はもっと早く来る予定だったの。でも、その……トラブルに遭っちゃって」
(……それを真実だと立証する証拠は、このワンピースだけだけど)
ロッカールームがある階のボタンを押し、狭い個室につかの間の沈黙が訪れる。
トラブルに巻き込まれた、だなんて、寝坊の言い訳と捉えられても反論できない。だって、洋服なんていくらでも自分で汚せる。
ふと、諸悪の根源である残念なイケメン野郎の顔が脳裏に浮かんだ。
(最悪、あの男を探し出して証言してもらうしか……)
そこまで考え、ブンブンと大きく頭を振る。
(ありえない! あんなヤツ、二度と会いたくない! 顔も見たくないのに!)
忘れろ、忘れろ、と呪文のようにブツブツ唱えた。
そんな私を気にも留めず、飯田君はいつもの調子で話を続ける。
「面談は、会議室H。役員様はすでにお待ちだから、急げよ」
「うん……」
ポーンと音を立て、重厚な扉が左右に開いた。
飯田君はエレベーターの開ボタンを押しながら、私に降りるよう促す。
「あ、できるだ早く着替えろよ。お前の面談が終わってから、新年度の社長挨拶だから」
とぼとぼとロッカールームに向かおうと歩き出した直後、背後から不穏な言葉がサクッと心臓に突き刺さった。
「全社員、お前の面談が終わるの、待ってるから」
「……は?」
振り返ると、エレベーターからひらひらと飯田君の右手だけが出ている。
「ちょ……それ、どういう意味!?」
絞り出した声は、我ながらカスカスだった。
「俺も、部長も役員も、全社員!」
追い討ちをかけるように、私の胸を真正面からえぐる言葉の刃。
「あ、社長も含め、お前待ち!」
トドメのハンマーは、ガツーンと脳天に振り落とされた。
(なぜそんな重要なことを、もっと早く言わない~!?)