夢の話 とある城にて
夢の中で、私は城で働く召使いの女でした。
その夜、城では月見の宴が催されたため、もう深夜だというのに私は後片付けと掃除に追われていました。
忙しい最中、ふと顔を向けると、庭に面した廊下に人影があるのに気がつきました。
西へと傾いた満月の光にその人の髪飾りが美しく光ります。
黄金の飾りは王妃しか付けられないもの。
「どうしてここに王妃様が?」
驚いた私ですが、私の身分上、声をかけることはできません。ただその場に跪くのみ。何人かの同僚も同じく。
しばらく固まっていると私たちの上司と、王妃の側仕えの女官がやって来ました。
女官が王妃様に声をかけます。
「王妃様、何も心配はございません。戦さになったとしても正義はわが方にあると家臣の方々も言っていたではありませんか。王妃様の縁者と戦うことになりますから、御心が痛むのは詮無いことかと」
そこで王妃さまが女官言葉に被せるように歌を詠み始めました。
「男の言う正義は戦さの先走り
どうして情けという道を男は知らないのでしょう
月はこの国の向こうから上り
彼の国のかなたに沈んでいきます
情けの橋を月の道をなぞって架けることは出来ないかしら」
ああ、王妃様は戦さそのものがお嫌いなのだ、戦さになること自体がお辛いのだ、と私が思った時、
「王妃様、此処は冷えます。どうぞ寝室にお戻りください。」
と女官が声をかけ、王妃様のお供に立ちました。
この中に出て来る歌ですが、実在しません。本当に夢の中で出来た歌です。
こういう夢をたまに見るので書き留めようと思いました。