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八極伝説

作者: 宝蔵院 胤舜

八極伝説



道光二十年(1840)、阿片戦争が始まり、清朝に海外の軍事力が介入した。この外側からの圧力に加え、清朝は内部から腐敗が進み、超大国「眠れる獅子」清王朝は、内憂外患、内側外側両方からの弱体化が進んでいた。当局の保護は期待出来ないそんな世相であったので、人々は護身の為に、様々な武技を嗜む事が多かった。


清・河北部の滄州は、古より武術の盛んな土地として有名である。内憂外患は、この地にはまだ直接的な影響を与えてはいなかったが、世の不穏な事は、片田舎で細々と暮らしている彼らの心にも危惧を抱かせるには十分であり、彼らは挙って武術を修めようとしていた。

ある村に、劉という百姓一家が居た。劉家には瑞雲、瑞祥という息子が居た。彼らも例に漏れず武術の修行をしており、実戦武術と名高い劈掛拳を習っていた。二人は熱心な学生であり、見る見るその実力を練って行った。時に咸豊五年(1855)、太平天国軍が北京目がけて北上を続けている、そんな年であった。


「おい、メシ食いに行くぞ!」

道場の先輩・江に誘われて、劉兄弟は他の門人達と共に街の酒家に出掛けた。十人ほどでゾロゾロと出掛ければ、彼らには劈掛門人としての自負もあり、気も大きくなる。自然と傍若無人な振る舞いが目立って来るものである。

「世間には数多くの武術があるが、我々の劈掛拳に敵うものは無い!」

「オーッ!」

江の言葉に、皆は意気巻いて大声を上げた。怖いもの無しとはこの事である。あまりに威勢がいいので、一般の客は迷惑そうに背を向けて食事をしている。武術などをやっている者は気が短い。下手に刺激して暴れられたら面倒臭い。触らぬ神に祟り無し、そんな態度である。

「おやじー、酒だ、もっと酒を持って来ーい!」

江がそう喚いた時、彼の頭に鶏肉の塊がぶつけられた。

「何をする?」

劈掛の集団は、殺気立って一斉に立ち上がった。相手は、酒家の対角線上の、奥の席に座っていた一団であった。

「うるせぇんだよ、江」

やはり十人ほどの集団の頭らしい男が、声を掛けて来た。

「てめえか、張」江は、男に向かってせせら笑った。「何時まで八極拳などという田舎拳法を続けてるつもりだ?」

「お前こそ、両手を振り回して、そりゃ何の踊りだ?」

このお互いの挑発に、お互いが動かされた。他の客の机をひっくり返しながら互いに詰め寄り、すぐさま殴り合いが始まった。酒家の中は、上を下への大騒ぎである。店の主人が嘆息して天を見上げた。

瑞祥は、兄や他の門人と比べて、気が優しく荒事は苦手な方である。しかし、彼も男である以上、自分の腕前を頼みにしており、何よりも殴られるのが嫌いであった。八極門人の一人が彼に向かって来た。左右の連打をかわすと、瑞祥は猛烈な勢いで飛び込んだ。「倒発五雷」をもって相手を打ち倒そうとする。相手はその攻撃を捌き、背中で体当たりをして来た。思わずよろけた瑞祥の胸に、相手の右掌が打ち込まれた。瑞祥は一丈余り飛ばされ、壁に叩き付けられた。体に力が入らず、動けなくなる。

動けずにいる瑞祥の目の前で、他の劈掛門人達もどんどん八極拳の強猛な一撃に倒されていった。江も、兄の瑞雲も、八極の掌・肘に打ち倒された。

瑞祥は、初めて八極拳というものを見、それを実際に受けた。劈掛で先輩に打たれた時とは、打撃力の浸透の仕方が全く違った。力が体を貫いたようで、体を根こそぎ持っていかれた感じであった。

江も瑞雲も、びっこを引き引き帰る道すがら、声高に復讐を叫んでいたが、瑞祥はむしろ八極拳に興味を引かれていた。

その翌日、瑞祥は劈掛の道場を休むと、街へと出掛けて来た。街の東に、昨日の八極門人達の道場が在る事は、兄から聞き出していた。

道場の前までやって来ると、中から震脚の音や、激しい掛け声が聞こえて来た。彼はそうっと中を覗いてみた。それは、彼が今まで稽古をして来た劈掛拳とは、随分と風格の異なるものであった。

劈掛では、遠くから自らの腕を大きく振り回し、弾勁を以って大きく飛び込む(大開大合)事を旨としており、蹴りも里合腿や蹬脚など、高い蹴りを多用する。しかし、八極では、突きは短く腰は低く、その震脚は当に地が震えんばかりの激しさであった。

道場の中ほどでは、左右に分かれた二人が互いに体の側面をぶつけ合う稽古をしていた。

「あれが昨日やられた技だな・・・」

我知らず瑞祥は呟いていた。劈掛とは違う、爆発するような勁の迫力に心を奪われていた。

「あっ、てめえ!昨日の奴だな?」

突然叫ばれて、瑞祥は我に返った。どうやら、知らず知らずに隠れていた場所から出てしまっていたらしい。

「懲りない奴だ。仕返しに来やがったか?」

「ちっ違う!そんなんじゃない!」

瑞祥は言ったが、血気にはやった彼らは聞く耳を持たない。瑞祥を捕まえようと動き出す。

「うわぁっ!」

瑞祥は慌てて逃げ出した。しかし、昨日打たれた胸が痛み、体が思うように動かない。すぐに五・六人に囲まれてしまった。張が一歩進み出る。

「よう、若いの。昨日の今日でお礼参りとは、随分と威勢が良いじゃねぇか」

「だから誤解だよ。俺はただ見に来ただけだ」

「ほほう」張はせせら笑った。「みんな聞いたか?こいつ、俺達を偵察しに来たらしいぜ」

「違うって言ってるだろ!」

そう言いながら瑞祥は、彼らは理由はどうあれ、拳術を使いたがっているだけなのだ、という事を理解した。兄や、江と何ら変わらない、腕っ節の強いゴロツキである。

「まあ、お前をこのまま帰す訳にはいかねぇよ」

八極門人の一人がそう言うと、拳を振り上げた。瑞祥は咄嗟に防御したが、拳は彼には当たらなかった。一人の男が、その拳を捉えて止めていたのだ。

「やめとけよ。こいつはやる気がねぇって言ってるだろ」

男はそう言うと、捉えていた手を離した。

「何だよ、羅蕫の。お前には関係ない事だろうが」

「いやあ、同じ八極門人として、弱い者いじめは見逃せないからな」

張の文句を、男はきっぱりと撥ね付けた。

「判ったよ。今日のところはお前に免じて、こいつを放っといてやるぜ。小僧、有り難く思いな」

張はそう言い捨てると、回れ右をして去って行った。

「よう、ぼうず、気をつけろよ。あいつらは気が荒いからな」

男は瑞祥に向かってそう言うと、もう背中を向けてスタスタと歩き出した。しばし呆然としていた瑞祥は、ハッと我に返ると、男の前に回り込んだ。

「あの、すいません」

「ん?何かまだ用か?」

「あのー・・・」瑞祥は、暫らく間を置いてから、意を決して口を開いた。「俺に、八極拳を教えてくれませんか?」

「俺がか?」男は目を丸くした。「八極を習ってどーする?奴らに仕返ししたいのか?」

「違います」

「お前、何か武術をやってるんだろ?」

「一応、劈掛をやってます」

「なら、そっちを極めな。ひとかどの達人にゃなれるぜ。がんばれよ。じゃあな」

男は素っ気無く立ち去ろうとする。

「あ、まっ待って下さい!」

瑞祥はすがり付かんばかりである。

「何だよ」男は苦笑しながら言った。「そんなに八極を習いたいのか?」

「はい」瑞祥は大きく頷いた。「本当に気に入ってしまったんです。是非教えて下さい!」

「練習は苦しいぞ」

「覚悟してます」

男はその答えを聞くと、しばらく黙り込んで、瑞祥の目を見た。

「よし」ややあって、男は明るく口を開いた。「お前の目が気に入った。俺の老師に紹介してやるよ。ついて来な」

「はい!」

瑞祥は大きく頷いた。


男は范という羅蕫に住む男で、張氏八極門の黄四海老師について学んでいた。瑞祥は、黄老師の許に案内された。ニコニコと微笑む黄老師は、なんと言う事はない、そこいらに居そうな好々爺に見えた。

「范さん」瑞祥は小声で言った。「この人が老師ですか?そこいらの隠居じじいみたいですね」

「こらっ!失礼な事を言うな!」

「はっはっは、そんなに頼りないか」

范が一言言うより早く、黄老師が言った。

「あ、聞こえましたか。すいません」

「何、気にする事はない」黄老師はニコニコと笑っている。「君は劈掛門だそうだね。良かったら、私の腕を試してみるかね?」

そう言われて、瑞祥は目を見張った。相手は背の低い、華奢な老人である。いくら未熟な自分の攻撃でも、この爺さんには受けられっこ無い。

「心配するな」范が笑って言った。「打ち殺す気で行けよ」

「怖い事を言う弟子だ」口の中で黄老師は呟いた。

「ようし」と、瑞祥は口の中で呟いた。昨日は八極に遅れを取った。その気晴らしをしてやろうと考えたのだ。

「エヤッ!」

瑞祥は、渾身の力を込めて突進した。「馬奔槽接抄手」を以って老人を打ち倒そうとする。黄老師は瑞祥の打撃をするりとかわすと、彼の胸に軽く掌を当てた。それだけで瑞祥は吹き飛ばされた。

「くそっ!」

瑞祥は立ち上がると、何度となく飛び掛かって行った。しかし、その全てはかわされ、打たれるか、極められるかした。自分から老師の体に触れた事は一度も無かった。

「どうかね、納得出来たかね?」

黄老師は、息も切らせずに言った。

「黄老師!是非八極拳を教えて下さい!お願いします!」

瑞祥は、深々と頭を下げた。

「よし、先ずは站椿からだ」

范はそう言うと、両足を肩幅ほど開いて腰を落とし、両手を前に突き出した姿勢をとった。

「やってみろ」

言われて、瑞祥は同じ姿勢をとる。

「やりました。これからどうするんです?」

「一刻、このまま動くな」

「えっ?」

瑞祥の目が点になった。すぐにでも套路を教えてもらえると思っていたのだ。

「この站椿を練らなければ、八極拳の功夫は養われないんだ」范は冷たく言った。「別に、嫌なら良いんだぜ」

「―――やる」

瑞祥は、眉を吊り上げて答えた。


数ヶ月が経った。瑞祥の功夫は站椿から金剛八式に移り、熱心な練習のお陰でどんどん深まっていった。功夫が深まれば深まるほど、八極拳の勁の大きさに、瑞祥は益々惹き込まれて行った。劈掛をやっている時に養った気功が、八極の功夫で更に深まる感覚があった。丹田が充実し、力が全身に漲るようであった。

彼は、八極拳を習っている事は、兄には内緒にしておいた。八極門人達に仕返ししようとして、ムキになっている兄や先輩達にはとてもその事は言えなかった。彼は、昼は劈掛の道場、夜はこっそり羅蕫の道場へ通う日々を送っていた。

瑞祥が小八極まで進んだ頃である。何時ものように劈掛の道場へ出向くと、兄や先輩達の姿が見えなかった。

「なあ、先輩達は?」

瑞祥は、残っている同年代の弟子を捉まえた。

「何だ、お前、知らなかったのか?今日は仕返しに行くって、街の八極門の道場へ勇んで出掛けて行ったぜ」

「ええっ?大変だ!」

瑞祥はそれを聞くなり、道場を飛び出した。

「何が仕返しだ。お互いに憎み合って、ケンカして何が良いんだ!」

瑞祥が駆けつけた時には、既に決闘は始まっていた。劈掛側の功夫はかなりの物で、三倍近い数の八極門人達をものともせずに闘っていた。仕返しの一念が、彼らに凶悪な力を与えている様であった。

そのうち、瑞雲が弟の姿を認めた。

「瑞祥、お前、何しに来た?劈掛を極めようともせず、他の拳術を求めたお前の力は借りんぞ!」

「知っていたんですか?」

「当たり前だ。お前が仕返しに反対している事もな。お前には劈掛の門人たる誇りは無いのか?」

「劈掛の、八極のって、何で流派にこだわらなきゃならないんですか?」瑞祥はそう言いつつ、彼に向かって来た一人を「落歩双劈手」で打ち伏せた。「百歩譲って、こだわるのは結構です。だからって、力を見せびらかせて、負けたら憎んで仕返しするなんて、不毛じゃないですか。どうして、そんな小さい事でお互いいがみ合うんですか?」

「馬鹿野郎!」瑞雲は言いつつ、劈拳で相手を打ち飛ばした。「強さこそが正義だ。強くなければどうにもならんのだ。闘う為の技術だ。闘う為の練習だ。そして、その強さは劈掛でこそ得られるんだ!自分の技術に誇りを持つ事がそんなにおかしいか?」

「誇りを持つ事と、果し合いをする事とが同じだとは思えない!」

瑞祥がそう言った時には、大方勝負はついていた。八極門側は、張とその父親である道場主、そして劈掛門側は江と瑞雲、そして瑞祥の三人が残っていた。後は戦闘不能の状態であった。

「さあ、八極と劈掛、どちらが強いか、白黒着けようか」

江がそう言って一歩前に出ると、張がそれに相対した。

「江よ、だいぶ頑張って来た様だな。しかし、所詮はそこまでだ」

「ぬかせ、張。今日こそ勝負を着けようぜ」

二人の拳がぶつかった。近づけば張、離れれば江に分があったが、復讐の一念で功夫を積んだ江に軍配が上がった。張の防御を押し潰し、江の劈拳が連打で決まった。

「どうだ!」

そう息巻いた江の前に、張の父親が立った。あっという間に懐に入り込んでいた。

「うわっ!」

江は慌てて両腕を振り回し、離れようともがいたが、しかし張は離れない。ぴったりとくっ付いたまま、どんどん江を追い詰める。

「畜生!」

江が焦れて、腕を大上段に振りかぶった。張は梱歩で江の体勢を崩し、その隙を突いて背中で強猛な体当たりを食らわせた。瑞祥が受けた技だったが、その時とは威力が違った。江は吹き飛ばされ、口から血を吐いて倒れた。

「『鉄山靠』の威力を思い知ったか。しかし、八極の功夫はまだまだこんな物では済まんぞ」

張は、瑞雲を見つつ言った。瑞雲は、既にやる気で構えている。

「兄さん、だめだ!」

瑞祥が言うより早く、瑞雲は張に飛び掛かっていた。見事な上下の連係は、張の目を見張らせるほどのものであった。鬼気迫る攻め、という奴である。張は防戦一方になる。瑞祥でさえ目を見張るものがあった。攻防一体とされる八極を後退させているのである。以前の彼には見られなかった攻めである。一度の敗北が彼をここまでに変えたのである。

拳士として、強くなる事がその目標である。しかし、瑞雲の心には邪悪なものがあった。強さの為の強さ。どこまで強くなれば、「強くなった」と言えるのだろうか。

瑞祥はぼんやりとそんな事を考えていたが、不意にハッとなった。攻める瑞雲よりも、張の方が明らかに余裕があるのだ。

「待て、やめろ!」

瑞祥は二人の間に割って入ると、瑞雲と張、両方の攻撃を「雲手」を用いて受け流し、二人の胸に「打開」を打ち込んだ。さして力を入れずに打ったので、結果的に二人の間を開ける事になった。

「兄さん、もうやめましょう。これだけの相手を倒したんだ。もう十分でしょう」

「ふざけるな!奴が残っている!」

瑞雲は張を指差した。

「だめだ。今の兄さんでは勝てない」

「くっ・・・」

弟にそう言われて、瑞雲は言葉に詰まった。彼も、薄々とそれは感じていたのだろう。

「張、待っていろ!必ず貴様を倒してやるからな!」

瑞雲はそう言い捨てると、道場を飛び出した。彼はそのまま街を飛び出し、その行方はようとして知れなかった。


それから三年が過ぎた。瑞祥は相変わらず羅蕫に通い、その功夫は益々深まった。散手においても他の門人には彼に敵うものは無く、黄老師にすら目を見張らせる程であった。しかし、彼は弛まず精進を続け、功夫の研鑽に努めた。その年、瑞祥の父は病に倒れ他界し、母もまた彼を追うように世を去った。

そんなある日、瑞祥が街に出ると、かの八極門道場の方で騒ぎが起こっていた。

「どうしたんです?」

瑞祥は、野次馬の一人を捕まえた。

「いや、何でも劈掛の達人が、八極の道場破りに来たんだそうだ」

それを聞いて、瑞祥はすぐに思い当たった。野次馬をかき分けると、道場に入り込んだ。

そこでは丁度、張と瑞雲が向かい合っているところだった。他の門人達は、皆血を吐いて倒れていた。瑞雲に打ち殺されたのだろう。

瑞祥が何か言うより早く、二人が動いた。瑞雲の動きは見違えていた。夜叉の宿った動きであった。瑞雲の「掏打撩陰」が張の股間を砕き、返す手で「烏龍盤打」で脳天を連打し、追い打ちの「撞掌」が胸に決まった。張は目・鼻・耳・口から血を吐いて倒れた。即死していた。返り血を浴びた瑞雲の姿は、正に夜叉そのものであった。

「兄さん、もういいでしょう」

瑞祥がそう言うと、瑞雲はゆっくりと弟を振り返った。

「瑞祥か。この裏切り者め」

「兄さん、どんな修行をしたか知りませんが、もうそこまでにしましょう。もう拳術は捨てるんです。兄さんの心には鬼が棲んでいます」

「そうだ。俺は拳を極める為、鬼になったのだ。俺はもう、お前の兄だった瑞雲ではない」

「父さんも母さんも死んだよ。ずっと兄さんの心配をしていたよ」

「そうか―――。俺には関係ない。俺の前に立つ者は排除するだけだ」

瑞雲はそう言うと、構えも見せずに打ち掛かって来た。触るだけで切れそうに鋭い殺気が迸った。

瑞祥には、兄の動きが見えていた。彼の攻撃をすり抜け、瑞祥は掌を打ち込んだ。瑞祥の発勁が瑞雲の体に浸透する。

瑞雲の目・鼻・口・耳から血が吹き出し、彼は声も上げずに倒れ込んだ。瑞祥はその体を抱き支えた。即死にもかかわらず、「鬼を棲まわせた」瑞雲の死に顔は安らかであった。

兄を、両親の墓の隣に埋めると、瑞祥は旅に出た。彼が何処へ旅立ったかは、誰も知らない。時に咸豊八年(1858)、英仏米露の連合軍が天津に侵攻した、そんな年であった。世は風雲急を告げていた。


1994・09・09(金)了

1994・09・19(月)改

2010・12・26(日)改

※劉 瑞祥 十八歳(咸豊八年調べ)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 中国武術にも時代背景にも明るくない人間でも興味をそそられる、面白い作品でした。 強さのための強さ、力に溺れておかしくなる、という展開は格闘モノでは普遍的ではありますが、瑞祥を導いた范や黄老…
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