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エピローグ  

 二年後……


 平成三十年八月、錦織は大学時代の友達と五人でお盆休みに恒例となったボディーボード旅行に来ていた。


 しかし今年は九十九里ではない。錦織の口利きにより茨城のひたちなか市に来たのだ。


 殿山駅を降りた五人を迎えたのは吉村守である。


「栞菜ちゃん! こっちこっち!」


「あー! 守さーん! ご無沙汰してます。お元気ですか?」


「元気元気。お袋も九十九歳になったけど、これがまだ生きちゃってんだよなあ。参るよ」


「もう、守さん。何て事言うんですかあ。あっ大学時代の友達の聖、美紅、百合奈です。今日から三日間お世話になります。お母さんに会うの楽しみー!」


「さあさあ乗って乗って。今朝獲ってきた新鮮なお魚ちゃん達がみんなを待ってるよ」


「イエーイ! お刺身ー!」


 人気俳優との別れが数日前に訪れた岡野聖がから騒ぎした。


 守に促され五人はワンボックスカーに乗り込んだ。最後に乗り込んだのは小さな子供を抱えた大沢美紅である。


 ほどなく車は懐かしい木造の家の前に到着した。杖をつきながら門の前で待ち構えていた老婆は二年前と変わらぬ皺をくしゃりと歪め笑顔を届けてくれた。


「お母さーん!」


 錦織は車から飛び出し老婆を抱き締めた。老婆は涙をこぼしながらうんうんと頷いている。


「よく来てくれたねえ。元気だったのかい?」


「はい。お母さんもお元気そうで……わたし嬉しいです」


 涙を流していた錦織がハンカチで目尻を押さえると、老婆の後ろに見知らぬ女性がエプロン姿で立っているのが見えた。


「誰?」と声にこそ出さなかったが錦織は守の顔を見た。守は照れくさそうに頭を掻きむしっている。


「守さん! ひょっとして?」


「いやー、お恥ずかしい。嫁が戻ってきてくれましてね」


「凄ーい! おめでとうございます」


「お恥ずかしい話ですが栞菜ちゃんに会った後、嫁に手紙を書きましてね。それがきっかけで戻って来てくれる事になりまして」


「素敵ー! あれ? 奥様のお腹……」


「はい。四十過ぎての初産なのでいささか心配です。女の子だそうです」


 錦織は再び老婆を抱き締めた。


「お母さん良かったですね。念願の女の子ですね」


 涙を流しながら喜んでくれる錦織を見た老婆も同じく涙している。


「ところでそのお子さんは?」


 守がそう問い掛けると、大沢はだっこしていた一歳くらいの男の子を錦織の腕に預けた。


「僕は今日一歳(いっちゃい)の誕生日を迎えた錦織絢太(けんた)でちゅ」


 まだ喋る事のできない綾太のかわりに、錦織栞菜が微笑みながらそう言った。


              ――――了――――

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