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戦果

 鉱物を主食とするミネラルワームで換金できる部位は背中に隆起しているコブのような鉱物と、体内で結晶化された魔石のみ。


 肉や血、皮膚などは全く利用価値がなく鉱物を噛み砕く歯に至っては一つ一つが小さすぎて使い物にならない……それなりに育った成体でなければ採算が取れないが、今度は討伐する為の人員の質が求められる。


 これも、ミネラルワームが冒険者や鉱夫達から嫌煙される理由である。

 白南風しらはえは物言わぬ屍となったミネラルワームの身体によじ登るとツルハシを振りかざして背中の鉱物を引き剥がし、その間にアリスティアが自前の剣でミネラルワームを解体して結晶化された魔石を探す。


(なんかリアルモ○ハンみたい)


 学生時代、ゆうに二○○時間は遊び倒した懐かしのヒット作品を思い浮かべながらツルハシを振るう。


 白南風が遊び倒した作品は開発陣のミスと思われる不具合で序盤から採掘できるとある鉱石の入手確率が異様に低かったり、ボロが結構長持ちする癖に高級品が粗悪品だったりと、多くのプレイヤーを振り回した作品だった。


「いよいしょーっと! ……まぁ、こんなもんか」


 換金可能な鉱物を残さず剥がし終え、大きめのリュックサックに詰め込んでゆっくりと死体から降りる……この世界には数メートル程度の高さなどちょっとした段差にしか思っていないような化け物がゴロゴロいる……当然、白南風はそういう人間にカテゴライズされないので凡人らしくゆっくり降りる。


「そっちはどう?」

「いいのが採れたわ」


 笑みを浮かべながら、アリスティアは手にした魔石を見せつける。

 握り拳よりも二回りほど大きい、濃い青を帯びた魔石が一つ。


 原則としてミネラルワームから採れる魔石は一匹につき一つ……稀に二つ採れることもあるらしいが、そうしうた幸運には滅多にお目にかかれない。


「私が使った火魔石よりも大きいですね」

「えぇ。市場でもこれほど大きな魔石が出てくるのは珍しいんじゃない? ましてや最近はミネラルワーム狩りなんてハイリスク・ハイリターンなことに手を出す冒険者もいないでしょうし……そうね、もし売ったら二○ゴールドぐらいするんじゃない?」

「二○ゴールド……」


 ボロアパートに住んでいる白南風ではあるが、実際のところそれなりに裕福な生活をしている彼でも、金貨ゴールド単位の金を見るのは珍しい……そこそこ物価の高いメリビアでも大手商会や貴族、荒稼ぎしている冒険者クランでもない限り金貨を見るようなことはない。


「鉱物の方はどんな感じ? ……ふぅん、まぁまぁじゃない? こっちは全部で五○シルバってところね」

「二○ゴールドのあとだと少なく感じるのは贅沢だよな……」

「御主人様、普通は五○シルバでもかなりの大金ですよ?」

「知ってる。それより分け前ってどうする? シャルロットはともかく俺は最後にちょっとだけ働いただけだから別にいいけど」

「そうね……まだ暫定だけどシャルロットちゃんの取り分は売値の五分の一で、残りを私達のクランで分けましょう。魔石が余った場合はそれを買い取ってもらって……面倒だし等分にしましょう」


 報酬の取り分が決まったところで一同はタルワールの元へ向かう。

 朝早くから狩り場へ向かったこともあって、カルデオに戻ってきたのは昼頃。

 にも関わらず、表通りは相変わらず冒険者達が往来している。


 アリスティア達は換金の為にギルドへ向かい、魔石を持つ白南風は一足先にタルワームの店へ向かう。


「老後の心配でもしてるのかね、ここの冒険者達は」

「? どうしてそういう発想になるんですか? 少しでも良い武器を揃える為に貯金しているのではないですか?」


 今一つ、主の考えを理解しかねるシャルロットが興味本位で尋ねる。

 武具の消耗が激しい戦闘職は、少しでも長く生き長らえる為により良い武具を買う為に金を溜めるが、白南風が今まで接してきた冒険者達には短期的な貯金が出来ても長期的な貯金が出来るとは思っていない。


 だがここで死に物狂いで鉱山とギルドを行き来している冒険者達は三○代半ばの、所謂ベテランが多い……若者がいない訳ではないが、そこから白南風は彼なりの推論を導き出した。


「何でって、どう考えても冒険者は一生食っていける仕事じゃないからだよ」


 冒険者の寿命は短い。

 そもそも危険と隣り合わせの環境で身体を張って魔物と対峙して日銭を稼ぐ。


 その過程で文字通り命を落とす者も居れば身体の一部を欠損、或いは後遺症が残って引退を余儀なくされる冒険者の話を聞かない日はない。


 故に冒険者として食べていく者達は徒党を組み、分け前を少しでも多く残す為に少数精鋭で事に挑む……たまに三台クランのような大所帯となるケースもあるが彼等には彼等なりの事情があるので割愛する。


 そうして運良く、修羅場を潜り抜けて今日まで生き延びてきたとしても、次に待っているのは肉体的な寿命──即ち引退だ。


 正確な統計学がある訳ではないが、一般的に冒険者デビューは一○歳から一五歳の男女がすると言われている。


 仮に一五歳からデビューしたとして、討伐報酬が良いとされる食人鬼オーガのような魔物狩りを主体とする第一線で活躍できるのはせいぜい三○半ばから後半。


 四○代からはそう易々と無理も出来なくなり、小鬼ゴブリンのような、初心者でも狩り殺せる魔物相手に細々と小銭を稼がなければならない……が、ベテラン冒険者が下位冒険者の仕事を奪うような真似は当然、推奨されていない。


 加えて、大成した人間ほど過去の栄光にしがみつく傾向が強く、そんなことをするぐらいならと思い切って引退して、大手を振って故郷に帰って崇め称えられたいという承認欲求が強い……尤もこれは冒険者に限らず、男に対するある種の国際常識みたいなところが強い。


 つまり、冒険者としての寿命はせいぜい四○前半がリミット……それ以上、冒険者として生活したいのであれば過去の栄光を捨て、誰でもできるような小遣い稼ぎに甘んじなければならない。


 もっとも、そこまで大成する冒険者は珍しく、多くの場合はほどほどのところで田舎に帰って畑仕事をするか小さな店を開業するのが引退後に冒険者が送る第二の人生(セカンドライフ)だ。


「つまり、冒険者ってのは仕事的にも短命ってこと。この仕事で富と名声の両方を手に入れるとしたら、それこそ才能と運に恵まれないといけないんだ。俺が早い段階で冒険者を引退したのもそれが理由だね。一生食っていくならやっぱり安定した仕事に就くのが一番だし」


 加えて、白南風の仕事には現在商売敵と呼べるような存在がいない。

 化粧品は販売されているがそれは未だに富裕層向けの商品。

 それに対して、彼の主戦場は娼舘……故に縄張り争いというものが起きない。


「なるほど。御主人様はそこまでお考えになられて今の仕事をなさっているのですね。ご慧眼、恐れ入ります」

「ははっ、ありがとう……うん、ありがとう…………」


 いつもより五割増しで尊敬の眼差しを向けるシャルロットに対して、何処か気恥ずかしそうに答える。


(言えない……娼舘選んだのも労働時間が短そうで楽してそこそこいい暮らしが出来そうだから選んだだけとか、絶対言えない……)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うほっ、いい男──じゃない。いい魔石ね。大きさ・純度共に申し分ないわ。……ねぇ先生、モノは相談なんだけど余った分は私にくれない? こんな上等な魔石、そう何度もお目にかかれないからさ。もし余った分を譲ってくれたらお代は要らないから」

「……まぁ、いいですけど。それと、予備の針と戦闘用……というと語弊ありますけど、それっぽい感じのヤツも欲しいのでお願いします」


 短い交渉を済ませ、魔石を大事そうに抱えたタルワールは嬉々として仕事場へ向かう。


 話では二時間もあれば完成するとのことだが、娯楽もなしに二時間も時間を潰すのは白南風にとっては大変なことだ。


「でしたら、街を見て回りませんか?」


 シャルロットにそう提案され、断る理由もないということでそれに乗る。

 その際、さり気なく恋人繋ぎをして歩き回っていたことを追記しておく。


(メリビアなら嫉妬の視線が突き刺さるけど、ここだとそういうのが全然ないな)


 地元メリビアであれば、シャルロットの美貌に目を奪われ、その次に男を見た途端に『何故こんな男と……?』という視線に晒されるのが日常であったが、カルデオに腰を据えている冒険者達はまるで周囲の人間に関心がない。


 街そのものも、鉱山都市というだけあって娯楽施設など皆無で、混雑を避ける為に大通りから少し外れたところで営業している屋台と酒場、賭場がある程度だ。


 酒は好きだが酒豪と言えるほど酒は呑まないし、賭場に至っては関心の対象ですらないので素通りして終わる。


 ひとまず鉱山都市に一軒だけ存在する酒場に腰を落ち着かせて料理を注文する。


(一品料理の値段がメリビアの五割増しとか、高すぎる)


 早くも酒場に入ったことを後悔するが、腹が減っているし時間を潰す宛もないので適当に注文しておく。


 オーダーを受けた店員と入れ替わるように地元の人間が相席をしても構わないかと尋ねてきたので快諾する。


「二人とも見ない顔だな。昨日噂を聞きつけてやってきたのか?」


 男は四○代半ば頃の、浅黒く日焼けした筋骨隆々の如何にも昔は鉱夫をしてました……と言った感じの中年だった。


 顔や腕には所々傷跡が浮かび上がり、それが仕事中に出来た傷跡であることは容易に想像が付いた。


「いえ。私達はタルワールに用事があって尋ねてきただけです」

「ほぉ。あのタルワールに。見たところ冒険者には見えないが、何の用事で尋ねてきたんだ?」

「近くを通り掛かったついでに挨拶でもしようかなと。そういうおじさんは昔、鉱夫だったんですか?」

「まぁ、な。今じゃすっかりそのお株を冒険者様に取り上げられちまってよ。こうして昼間から飲んだくれてんだよ」

(暇だから若者に絡む構ってチャンかッ)


 そう叫びたくなる衝動をグッと堪え、言葉と一緒に運ばれてきたエールで腹の中へ流し込む。


(メリビアのより不味い……。やっぱり飯は多少無理してでも美味いモン食わなきゃ話にならんな)


 シャルロットも同意見らしく、少し飲んだだけで顔をしかめる。

 この分では運ばれてくる料理も期待出来ないだろう……思い切り損した気分だ。


「なんだ二人とも、貴族様か何かか?」

「いえ。私達はメリビア住まいの市民です」

「へぇ、メリビアねえ……そりゃ立派な都会だよ若者。俺は生まれてからずーっと、ここで暮らしてきたからなぁ。外の世界ってのがどうもイマイチ想像つかねぇんだよ」


 グビーっと、ジョッキを煽りながら愚痴のように漏らす。

 このまま喋らせたら面倒だと思った白南風は無難な話題を振ってみることにする。


「それにしても冒険者の出入り、凄いですね。メリビアも迷宮のお陰でそれなりにいますけど、ここは本当に昼も夜も関係なしに冒険者が往来してて、ビックリしました」

「……なぁ兄ちゃん、本当にそう思うか?」

「それは……」


 一瞬、いつも調子でやり過ごそうかと思ったが目の前の中年の瞳に意志のようなものを感じ取り、即座に浮かび上がった作り物の答えを破棄する。


「……良くないと思います。短期的にはカルデオに大きな利益をもたらしてくれるのは間違いありません。ですが、今のラッシュが終われば冒険者はあっという間に去ります。後に残るのは掘り尽くされた坑道と仕事を失った鉱夫、そして人を惹き付けるだけのモノがない街……」

「ハッ、こうも言いにくいことをズケズケ言うとは、随分空気の読めないヤツだな。……けど、表で血眼になってる冒険者なんかよりは、信用できるな」

「誤魔化すと怒られると思ったので」

「そこまで理不尽じゃねーよ。ちと失望はしただろうが」


 会話が途切れたタイミングを計っていたかのようなタイミングで各々が注文した料理が運ばれる。


 木製テーブルの上には黒パンと聞いたことのない魔物の肉を岩塩で味付けしただけの焼き肉と、この酒場で唯一安くて量だけは一人前の野菜炒めがテーブルを彩る。


 少し大目に注文した黒パンで肉と野菜を挟んで口に運ぶ……予想通り、塩辛い味付けで酒を注文させて財布の中身を搾り取ろうという店主の魂胆が見え透いた料理だった。


「俺が若い頃はな、もっと活気に溢れてたんだ。今じゃ信じられないだろうが、これでも昔は──いや、こういう言い方するから若者に嫌われちまうんだな。とにかく、昔はもっと賑わっていたんだ。……けど、鉱脈が尽きて食えなくなると分かれば後はお決まりだ。出稼ぎに来てた連中はそっぽ向いて、残ったのは一からここを切り開いた一族だけ。今はありがたい事に魔石がバカスカ出るけどよ、兄ちゃんの言う通りそれがなくなればまた寂れた街に逆戻りよ。このままじゃ駄目だってのは分かってんだ。けど、どうしたらいいかサッパリだ」


 塩辛い料理と固い黒パンを懸命に咀嚼しながら男の話に耳を傾ける。

 白南風自身、この問題を解決できる糸口など皆目検討が付かないが、ただ愚痴を聞いてもらえるだけで気持ちが幾分楽になることもあるのを、仕事柄知っているので余計なことは言わない。


「その……採掘以外のことは出来ないんですか? 例えば鍛冶師の真似事とか」

「まぁ、出来ない訳じゃない。先祖はないものは現場で作れってのを口酸っぱく言ってたからな。坑道にも昔は魔物がウジャウジャ出たから武器の扱いにも多少は詳しいけどよ……この辺じゃ皆、メリビアの鍛冶師へ流れちまうだろ?」

「出張サービスやれば案外、いけるかも知れませんけどね」

「出張サービス? なんだそれは?」

「ただの思いつきなんで聞き流して構いません。メリビアってこの時期は農村出身の若いのが出稼ぎと称して迷宮を主戦場にする冒険者の荷運びとか手伝っているんですよ。で、中にはそのまま冒険者になるって人もいるんですけど冒険者というのは何かと出費が嵩む。しかもメリビアの鍛冶師が作っているのは初心者では手が出しづらい物が多い。だからそういう人をターゲットに絞っていけば……まぁ多少はマシになるんじゃないですか?」


 メリビアの迷宮ラッシュは今でも続いている。

 層の浅いところは優先的に出稼ぎ労働者の独占状態にしてなるべく既存の冒険者達の利益を損なわない範囲でギルドは労働者達に金を落としている。


 だが中にはやはり、これを切っ掛けに冒険者になりたがる人間もいるが、出稼ぎとして来ている手前、武器になるようなものは一つもない。


 そもそも、ギルドから与えられている仕事が荷運びだから当然と言えば当然である。


「それに、中にはもしかしたら良いお客さんになってくれるかも知れません。メリビアまで行かなきゃいけないのが難点ですけど」

「…………まぁ、方針の一つとして考えておこう。ありがとよ兄ちゃん」


 その後は特に話が弾むこともなく、三人揃って黙々と食事を取り続ける。

 特筆すべきようなことはなにもなかった……が、敢えて二人の心境を言葉にするのであれば『二度とカルデオでは外食をしない』という気持ちが強くなったぐらいである。


 勘定を済ませて、更に街をぶらぶらしながら時間を潰し、頃合いを見計らって店に顔を出すとアリスティアが店員の子供とお喋りをしていた。


「あ、おかえり。……タルワールさんまだ仕事中だよ」

「そうですか。……アリスティアさんはその娘と何を話しているんですか?」

「うん? 四英雄について。なんかね、こっちの方だと大雑把なことしか伝わってないからクリスティーナ様のことを中心に教えてたんだけど、二人も一緒に聞く?」

「四英雄……クリスティーナ様か」


 思えば自分は四英雄についてあまりに無知過ぎる。

 メリビアで領主をしているジオドール男爵が四英雄であることは知っているが、具体的にどんな活躍をしたのかと聞かれると途端に怪しくなる……ジオドール自身が自分の活躍を吹聴するような性格ではないことも一助して、彼の無知に拍車を掛けているのも原因だが。


「そうですね。折角の機会ですから教えてもらっていいですか? 四英雄について」

書きために入ります。








……マ○ライトマラソンは今でも許せない。

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[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★ ※イイネボタンがアクティブなって無いため此方で  また、一話から再読して楽しませて頂きました。 やはり面白いです。
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