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鉱山都市の実態

ちょっと文章を変えてみました。

 この世界には魔術と魔法が存在する。

 二つの違いを分かり易く説明するなら人工的な奇跡の力を魔術と呼び、神や精霊の力によって起こす奇跡を魔法と呼ぶ。


 魔術とは元々、戦時中に劣勢を強いられていた人類が魔族の使う魔法を、そしてかつて魔法を使えた長耳族エルフに対抗する為に生み出した技術。


 魔法都市はそうした時代の中で生まれた都市であり、当初は魔法の研究をする為の学術都市であったが、時代の流れと共に魔法の解析よりも魔術の改良に力を注ぐようになった。


 魔術研究が盛んな街であるにも関わらず、今でも魔法都市と呼ばれているのは当時の名残りから来るもの。


「勿論、今でも魔法の研究はされているけどね。まぁ研究と言っても昔は文字通り命懸けの研究だったみたいだけど」

「非人道的なことでもしていたんですか?」

「どうだろう? 私の知っている話だと魔族を生け捕りにして広い空間に放り込む。で、そこで人間と戦わせる。人間はなるべく多くの手札を見せる戦い方をしてそれを別室で観察している研究者が解析するって感じ?」

「……それ、研究というより見せ物ですよね?」

「でも実際、人間には魔法が使えないし協力的な魔族なんていなかったから仕方なかったと思うよ」


 アリスティアの言葉を受けて、静かに頷く。

 戦争を知らない以上、自分があれこれ語るのは気分を害するかも知れないしこれ以上の話題は避けるべきだと思い、違う話題を口にする。


「身体の調子はどうですか?」

「うん。自分でも怖いくらい調子がいい。本当、高待遇で雇って聖凰騎士団うちの専属にしたいぐらい」

「……自分自身にはそこまで効果ないから実感できないけど、そんなにいい物ですか?」


 白南風しらはえが使う整体魔術は基本的に他者に対して大きな効果を発揮する。

 自身に掛けて現れる効果は体力回復、自然治癒速度上昇、魔術回路のメンテナンス、肌の復元、各種エステ効果、ダイエット、病気・毒の治療、健康状態の維持、その他諸々の効果が挙げられる。


 整体魔術のお陰で病気知らずの上にぶっ通しで身体を酷使することが可能ではあるが、体力が回復したからと言って術者の疲労が取り除かれる訳ではない。


 付け加えると、他人に対して体力回復効果を施した場合、現代でいう超回復と同等の効果を発揮できる。


 そしてこの二つの効果はどういう訳か他人に対してのみ効果がある……ついでに施術を施したときに得られる快楽も。


「先生は普通の治癒魔術師と接点は……ないわよね?」

「職業柄、そういう人とは関わらないので」


 白南風の力でも頑張れば表面的な傷程度であれば完治させることが出来るが、その程度の傷でわざわざ治療を受けに来る人間はいない。


 白南風自身、その程度の治療で小銭を稼ごうなどとせこい考えはしないのでしたこともない。


 病気・毒の治療は基本的にキャスト達に行う。

 そこで充分な対価を貰っているので治癒魔術師達の縄張りと相場を荒らすようなことはない。


 教会所属の治癒魔術師は基本的に善良な人間、もしくは金払いの良い人間しか面倒を見ないのだ。


「治癒魔術師はセコいのが多いので」

「それは言えてる。……よし、そろそろ行軍再開しましょ。馬車乗って」


 パンッと両手を叩き、それを皮切りに休んでいた聖凰騎士団の隊員達がきびきびと動き出す。


 休憩時間、馬車を引く馬と希望者には体力回復と疲労回復の施術を施しておいたので皆、機敏に動き回って後始末をする。


 メリビアを経ってから早二日……一同は目的地へ真っ直ぐ向かっている──のではなく、ルートから少しズレたところにあるところを目指していた。


 本来ならば真っ直ぐ魔法都市へ向かわなければならないが、どうしても寄り道をしなければならない理由があった。


 切り開いた山道を移動して、五回ほど魔物の襲撃を阻止して夕暮れ頃に辿り着いたその街は鉱山都市・ガルデオ──かつて白南風の為にミスリル針を造ってくれた鍛冶職人が住んでいる街だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「鉱山都市というぐらいですから炭鉱族ドワーフが沢山居ると思っていたんですけど、普通に人間も居るんですね」

「鉱夫として雇われた人もいるからな。何でもジオドール様が領主になる前は鉱夫として出稼ぎに来る農民が多かったらしい」

「すると、今はメリビアの方に流れて廃れてしまったのですか?」

「どうだろう? 見た限りそこそこ鉱夫が居るように見えるけど……あれが鉱夫に見えるか?」


 シャルロットの疑問に答えながら白南風は鉱山へ向かう人々を観察する。

 筋骨隆々の逞しい身体は冒険者とそう変わらない……ツルハシを持っているのも分かる、大事な商売道具だからだ。


 しかし何故、鉱夫が身の丈ほどありそうな大きなリュックを担ぎ、作業着ではなく革鎧を着込み、佩剣しているのか?


 中には日本人にとっては懐かしい、ラーメン屋・おでん屋が時折引っ張る大きめの屋台車を引き、鉱山へ向かう者までいる。


「おらぁ! どけ、どけぇ! 時間が勿体ねぇだろーが!」

「一枚でも多く稼いでやる! 誰よりも早く採掘してやる!」

「徒党なんて組めるか! 報酬は全て俺のモンだ!」


 そして皆が皆、一様にして目をギラつかせ、鉱山へ駆け込んでいる。

 時間が勿体ないという理由からか、接触事故がそこそこ見られるが大事にならない限りはお互い無視して走り続けるその光景は異様だ。


「あの人達、どう見ても冒険者ね」

「分かるんですか?」

「筋肉の付き方で。……何かあったのかしら?」

「分かりませんけど、まずは店に向かいましょう。人波に巻き込まれないように」


 白南風の言葉に同意した一同は当初の目的を果たすことにする。

 とは言え、流石に時間が時間なのでまずは寝床を確保すべく宿屋へと向かう。

 だが──


「あー、悪いね。生憎と個室も雑魚部屋も満室なんだ。何処の宿も似たようなもんだぜ」

「満室って……何があったんですか?」

「んん? アンタ達も噂を聞きつけて一稼ぎしに来たんじゃないのか?」

「いえ……私は鍛冶職人のタルワールに合いに来たです」

「タルワール? ……あぁ、あの炭鉱族ドワーフの変人爺さんか。兄ちゃん、あの炭鉱族ドワーフ界きっての変人と知り合いだったのか?」

「えぇ、まぁ」


 知り合いと呼べるほど密接な関係でもないので愛想笑いを浮かべて頷く。


「タルワールならまだ店にいる筈だ。もっとも、最近は腰を痛めてしまってな。自分で仕事したいのに半人前の弟子に任せなきゃならないってのが辛いトコだろうな。店の場所分かるか?」

「お願いします」


 店の場所は覚えているが、自分がいない間に移転でもしていたら二度手間になりかねないので念の為聞いておく。


 ついでに野宿に適した場所はないか尋ねたところ、街を出て向かって左方向の地域は魔物が少ないから野宿に適していると教えてもらった。


 タルワールのところへは白南風とシャルロット、アリスティアの三人で押しかけて残りの隊員は野宿のスペース確保に割いて行動を開始。


「二人が受付の人と話している間、簡単に情報収集してみたけど例の人達、やっぱり冒険者みたい」

「冒険者様なんですか? てっきり、地元の鉱夫とばかり思ってました」

「私も最初はそうだと思ったんだけどね……」


 歩きながらアリスティアは短い時間の中で得た情報を整理しながら話す。

 事件の始まりは今から一ヶ月前にまで遡る。

 カルデオが抱えてる鉱山で新たに魔石の鉱脈が発見された。


 当然、地元で鍛冶職人をしている炭鉱族ドワーフや鉱夫として働いている住民は沸き起こり、こぞって鉱山へ向かったが場所が悪かった。


 鉱脈が発見された地域は不運にも鉱物を主食とする魔物の中でもかなり偏食家として知られるミネラルワームの住処だった。


 魔物との戦闘経験のない炭鉱族ドワーフや鉱夫達であったが、その辺の魔物ならば武器を手にして徒党を組めばどうにか出来る。


 しかし、ミネラルワームは攻撃力・防御力に長けた魔物……素人に毛が生えた程度の集団では束になったところで犠牲者を無意味に増やすだけ。


 ギルドへ討伐依頼を出そうにも鉱山に住む魔物の討伐というのは何かと嫌煙されるもの……多少、報酬が良くても好き好んでこんな僻地にまで来る冒険者は少ない。


 加えて、今はメリビアで空前の迷宮ブームが起きていることもあり、冒険者は自然とそちらへ流れてしまう。


「だけどね、どんな時代にもいるものよ。物好きな冒険者っていうのは」


 ミネラルワームの登場で魔石の鉱脈を諦めなければならないのか……変わり者の冒険者一同がやってきたのはまさにそのときだった。


 彼らはミネラルワームを討伐するだけの力がある……しかし、あの魔物は逃げ足も去ることながら繁殖力も馬鹿にならない。


 住処が文字通り山の中で、奴等の巣や縄張りに坑道が直撃しない限りは無害なので間引きされることもなく、どんどんその個体を増やしていく。


 ミネラルワームを何とかして魔石を採掘したい、しかし奴の厄介さは鉱夫をしている者ならば誰でも知っている……だから市長はこう提案した。


「そうだ、冒険者を鉱夫にしよう」


 そこからの対応は早かった。

 ミネラルワームの討伐に賞金を掛けて、持ち帰った魔石をその場で査定して買い取り、近くの町まで出向き市長自ら冒険者と交渉して、人員を導入する。


 冒険者は儲け話に弱い生き物だ。

 魔物と敵対する危険はあるが、そこは専門家というべきか……何度か威力偵察をしただけでミネラルワームの対処法を確立し、限りなく安全に採掘するノウハウを手にし、今に至る。


「荒い計算だけど、一日の稼ぎは滞在費込みで大体八○シルバぐらいじゃない? 上手い人は一ゴールド稼いでいると思う」

「一日で八○シルバ……凄いですね。鉱山ってこんなにも儲かるものなんですね御主人様」

「冒険者とはまた違う意味で鉱夫は危険と隣り合わせだからな。薄給でこき使われていると思ったけど」

「多分、相場は言葉巧みに騙されていると思うよ。チラっと買い取りカウンターの上に置かれている魔石見てみたけど大きさ・色合い、共に高品質だったよ。それが普通の魔石より五割増しで買い取りしているみたい。本来の買い取り相場の半分かそれ以下ね」

「……魔石に関する知識がないところを上手く突いた。そういうことですか?」

「シャルロットちゃんの言う通り。まぁ、それでもかなりの儲けが出ているからこのカラクリには気付かないんじゃない?」


 汚いな市長、流石市長汚い……胸中でそう思いながら白南風は目的地へ向かう。

 冒険者の波に逆らい目抜き通りを進み、坂道の手前にその店はあった。


 石を加工して積み上げた石造りの建物、表の看板には素っ気なく営業中という札が掛けられている程度……営業する気があるのか疑わしい。


「い、いらっしゃいませ……」

「……?」


 店に入ると、カウンター越しに白南風一同を出迎えたのは女の子だった。

 一○歳にも満たない、幼さが全面的に出ている娘はぷるぷる震えながらぎゅーっと胸元に抱きかかえている不格好な人形を抱きしめながらも仕事をしようと頑張っている。


(子供なんていたっけ?)


 白南風の記憶では、タルワールは独身だった筈だ。

 身内の話なんてしたことがないから確信は持てないが、少なくともタルワール以外の者を見たことがない。


 自分が話を切り出すのが筋だろうが、相手は子供だ。

 筋骨隆々の野郎どもと違い、優男とは言え男に話しかけられるよりは綺麗なお姉さんに話しかけられた方が嬉しいだろうと思い、肘でそっとシャルロットを小突く。


 白南風の意志を汲み取ったシャルロットは一歩前に出て笑いかけてから話しかけた。


「こんばんわ。一人でお店番しているのかしら?」

「は、はい……っ! えと、ぶきをおもとめでしょうか?! とーてんはげんざい、お祖父ちゃんがヨウツーでオーダーメイドのチューモンはうけてません!」

「あぁごめんね。そうじゃないの。私たち、タルワールさんに用事あってきたの。私の御主人様……シラハエ様のお名前をお祖父ちゃんに伝えてくれるかしら?」

「あ、あの! ですからチューモンはうけてないんです!」


 うるうると、瞳に涙を浮かべながら同じことを繰り返す。

 ぼんやりと『あぁ、マニュアル通りの接客するだけでテンパってるなぁー』と思う白南風と、少女の愛らしさにすっかりやられてしまい今にも抱き着きそうになる衝動を抑えるアリスティア。


 にっちもさっちもいかない状況が続くと思われたが、事態を察したように店の奥からヌッと巨体が暖簾を押しのけながら出てきた。


「おんどれか? ワシの孫娘イビっとるんわ。……て、あらん? あなたもしかして」

「ご無沙汰しております、タルワールさん」

「あらやだ、ホントご無沙汰じゃな~い! シラハエちゃーん!」

「…………」

「えっと……」


 姿を見せたタルワールを前に、二人は困惑しながら視線で『この人が……?』と尋ね、白南風が無言で頷く。


(戸惑うのも無理ないよなぁ。……説明しなかった俺も悪いけど)


 白南風よりも頭一つ高い身長は他の炭鉱族ドワーフと比べても高身長と言える。

 鍛冶職人というだけあって、体格はがっちり太く、年齢による衰えを感じさせない見事なシックスパックがピクピクと自己主張している。


 なぜそんなことが分かるのか──ごくまれに、女冒険者が着用するビキニアーマーも同然の格好をしているからだ。


 ただし、こちらは金属製ではなく布製……つまり女物の下着を付けている。


「……爺さんって聞いてたから老人かと思ったけど、これは…………」

「あらやだ。私これでもれっきとした高齢者よ。今年で一七○歳なんだから」


 炭鉱族ドワーフの平均寿命は二○○歳前後と言われている……一七○歳であれば十分、高齢と言える。


 実際、炭鉱族ドワーフ特有の髭と短い耳がなければ人間──具体的には新宿のオカマバーで働くクリーチャー──にしか見えない。


「ちょお~ど良かったわぁシラハエちゃん♪ 実はねぇアタシ、また身体の調子が悪くなってねぇ。……おばさんの身体で良ければ、好きにしていいわよ? うふん」

「間に合ってますんで」

「間に合ってる? ……あぁ、なんか女臭いと思ったら……なぁに、甲斐性なしだった癖にいっちょ前に女侍らせて。もぉ、シラハエちゃんも隅に置けないわねぇ! この、このぉ♪」


 この、このぉ……と、ニヤニヤしながら肘で脇を小突くタルワール……完全に学生のノリだ。


「あぁそうだわ。シラハエちゃん、例のアレ、やってくれないかしら? ホラ、私も最近は流石に歳でね……肌もそうだけど特に腰が辛くてもう……」

「あー、実はそのことなんですが……」


 申し訳なさそうに前置きしてから、白南風は用件を切り出す。

 針を壊した経緯と、早急に新しい針が必要なこと。

 そして出来れば治療用と戦闘用、二種類用意して欲しいとも。


「…………」


 話を聞き終えたタルワールは腕を組み、難しそうな顔を浮かべながら話す。


「シラハエちゃんの言いたいことは分かったわ。でも今すぐってのは難しいわね」

「何故です? 先生が以前使っていたのはミスリル製の針よ。ミスリル鉱石ならメリビアで大量に出回っているし、鍛冶師の炭鉱族ドワーフであるあなたなら当然確保してるでしょ?」

「ちょっと認識甘いわよ姫騎士ちゃん。メリビアのミスリルラッシュでそりゃ市場には大量に出回ってはいるわよ。けどね、その大量に出回っている鉱物は王家が抱え込んでいる神匠クラスの鍛冶師と大手工房が全部買い漁っていてね、アタシみたいな爪弾き者にまで出回ることはあまりないのよ。うちは元々魔術に強い武具はあまり扱ってないから手持ちの原材料じゃどう考えてもシラハエちゃんが扱うには不十分。だから悪いけど、材料はそっちで用意して貰うしかないわ」

「あの、私達では素材の善し悪しが分からないのですが。それに腰痛程度なら針なしでもできますよ?」

「まだ話の途中よシラハエちゃん。……大量に出回っていると言っても需要が満たされてないからミスリルは用意できないしカルデオのミスリル鉱脈は掘り尽くした後。残りは今、鉱夫紛いのコトしてる冒険者に混じって魔石を採るか、高純度の魔法鉱石をミネラルワームから取るぐらいかしら?」


 異世界に来てまでお使いクエストをやらされるのか──内心げんなりしつつも、それを表に出さないよう努めて冷静さを保ちながら話を聞いた。

次回は22日に更新します。

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