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一日の終わり

「よぉ先生、遅かったじゃねーか!」

「昼間からお楽しみかい? 羨ましいな!」

「俺も早いとこシャルロットちゃんみたいな美少女奴隷侍らせてぇな!」

「ネージュもこっち来いよ! 親睦深めようぜ!」


 宿泊先の食堂に戻ると護衛として同行していた冒険者達が酒盛りをしていた。

 異世界の住人達は何かに付けて飲んで、食って、騒ぐ生き物だが娯楽が少ない世の中だと思えばそれも仕方ない。


 因みに俺の娯楽事情はシャルロットやキャスト達に故郷のゲームを教えている。

 今まで教えたのは将棋、オセロ、双六、ジェンガ、大富豪の五種類。

 ……教えたゲーム以外にもやってるけどそれは本題じゃないから割愛する。

 席に座って大皿に載っている料理を適当に小皿に移す。


 冒険者らしく(?)大皿に乗っている料理は酒の肴に向いた塩辛い物や肉料理が中心だったので追加で女性でも食べやすい物を注文する。


「なんだ先生、遠慮しねぇでドンドンいってくれよ。旅の間は世話になったからな! ここは俺達の驕りだ!」

「と言いつつ言質取ってシャルロット借りるんでしょ? 指一本触らせませんからね?」

「おっと、バレちまったか。へい姉ちゃん、ビール追加ー! 先生の分も頼むー!」


 向かいに座る冒険者・エドガーが酒を頼む……このノリはもう冒険者の流儀ということで諦めてるし、わざわざ空気を悪くするのも野暮ってもんだ。


 情報交換、闘竜場の話、今後の予定が四:三:三の比率で雑談が成されている。

 闘竜場は何もない平日でも数が揃えば試合を組むし、希望すれば常時飼い慣らしている魔物が複数放たれ、誰が勝ち残るか予想する見せ物が面白かったという話題もあれば護衛の仕事が終わったら春まで何するか。


 冬でもそこそこ美味しい依頼はあるか、野外に迷宮はないか……等々。

 冬の間は繁殖力の高いゴブリンやコボルト、更には屈強な身体を持つ野生のオークも巣から出てこなくなる。


 そういう時にこそ巣を一気に叩くまたとないチャンスなのだが人間は魔物よりも遙かに寒さ耐性がない。


 四季のある気候とは言え、冬の寒い季節、特に夜は文字通り身体に染みる寒さが襲うので冒険者達も活動を休止するところが多い……迷宮でも出ない限りは。


 故に、この時期の冒険者はとにかく暇で金欠だ……だからこそ、多少割安でも護衛依頼を出せばそれに食い付くらしい。


「そういや先生、冒険者ギルドに行ったんだよな? だったらボールドネス商人の噂は聞いたか?」

「世間で知られてる程度は」


 出立前にどういう人間か、ある程度店長パルシャークから聞いてるから多分、こいつらと知っていることと大差ない筈。


「そうか。先生も知ってると思うがあれはかなりの好色家でよ、気に入った相手は片っ端から手出して自分は独身のまま。そのくせここいら一帯の通商ルートを牛耳っているっていうから性質が悪いったらねぇよ」

「ろくでもない男だな」

「そう、ろくでもない男だ。そんな男はどうも最近、裏社会の組織を密かに支援してるって噂がある……噂程度だからこれ以上のことは分からねぇが先生も気を付けた方がいいぜ? 先生の能力知ったら無理にでも囲い込んでくるだろうよ。それこそ、力ずくでもな」

「デカい商会のトップだからな、常時養っている子飼いの私兵部隊も五○○はあるって話だ。騎士団や一流クランにでも伝手がない限り太刀打ちできねぇ戦力だ」


 聖凰騎士団とのアレは伝手に入るだろうか……そこまで大事になったら流石に断るだろうけど、一応伝手には入るのかな?


 店長とガッシュさんは事前に盗賊ギルドを使ってしっかりと情報収集した上で、独自の手段で情報を集めていた。


 ガッシュさんはともかく、店長は頭の切れる人だ……予想外の事態に見舞われてもある程度は切り抜けられる筈。


 女好きということでキャスト達を使った色仕掛けで交渉に臨むそうだが、そう上手くいくものなのか?


 一応、アイリーンとは経験済みだし名実共に彼女の本気・・を味わったことがある身としては……あれ、意外とイケるんじゃね?


 いや、俺のような素人じゃない、百戦錬磨だ……いくらリーラ達でも……。


「んん? どうした先生。……その顔からすると嬢達が酷い目に遭わされてないか心配って面だな。……アタリか?」

「えぇ、まぁ……」

「まぁ心配なのはごもっともだな。ボールドネスの奴は派手に遊ぶことで有名だからな。……けど、メリビアの娼婦はこと男を骨抜きにすることに関しちゃ世界一だ。なんたって俺は貢がされてると分かっていながら貢いでまた店に通っちまうからな!」

「だよなぁ。カタリーナちゃんの褒め殺しとかもうヤバいだろ。特に──おっと、嬢ちゃん達の前でする話じゃなかったな、わりぃわりぃ……」


 何処で習ったのか、片手を顔面に掲げて謝るその仕草は何処か日本人を連想させる……髪はブロンドなのに。


 ネージュはあからさまに不快そうに顔を顰めているがそっち方面の耐性が出来上がっているシャルロットは愛想笑いを浮かべながら気にしてないとアピールまでしてみせる。


(俺と一緒に愚痴とかに付き合わされてるからな。あの男は下手とか自慢が酷いとか乱暴とか、そういうの……)


 その後、当たり障りのない話題がしばらく続き、皿のご飯がなくなったところで各自、大部屋に移動してマッサージを受ける。


 こいつら、すっかり俺のマッサージに嵌まってしまったようでこれをより効率よく受ける為だけにぶっ倒れるまで身体を酷使してくる。


「疲れていればその分、効果がある気がするし気持ちいい」


 そりゃ回復の幅が大きくなるから当然と言えば当然だ。

 お金は貰ってる……そうである以上、手を抜くことなんて俺にはできない、けど……何が悲しくて筋骨隆々の汗たっぷりの肉鎧に触れなきゃならないんだ。


 嗚呼、今だからハッキリ言える……仕事とは言えキャスト達の身体に触ってマッサージしていたのって凄く贅沢な時間だったんだな。


 勿論シャルロットのプロポーションだってキャスト達と比べても劣っているとは思わない……ただちょっと、胸囲での勝負は分が悪いだけだ。


「今回の仕事が終わったら、また姫様にもしてもらえないだろうか?」


 マッサージも終わり、ホクホク顔で部屋へ戻る冒険者連中を見送り、移動させたソファを元に戻しているとネージュが話しかけてきた。


「エ……姫様の容態、また悪化したんですか?」


 エアル様と言いかけたところで言い直す。

 別にわざわざ言い直す必要なんてないかも知れないが、念の為だ。


「してると言えばしてるが、それでもシラハエ殿と会った時と比べてば格段に良い。実際、姫様はあれから悪化しないよう、最大限の努力はしている。……がそれでも少しずつ体調は悪くなっている。と言っても、すぐにどうこうなる話ではないが、早い段階で止められるに越したことはないだろう。……実際、お前の整体魔術とやらは大したものだ、純粋に凄いとしか思えない。今日も……カティアとか言ったな、彼女と同じように魔力の流れを視て自分なりに少しでも習得できないか試していたんだが……」


 そこで言葉を句切って、何か躊躇うような素振りを見せるネージュ。

 治療中、何か変なことでもしたっけ?


「──ハッキリ言えば、お前の魔力制御は私の理解を遥かに超えていた。針の穴に描かれた龍の瞳に一滴の雫を落とす……そんな領域だった。それを感覚でやっているシラハエ殿は……異常だ」


 異常と来たか……流石にそれは傷付くな。

 けど実際、今まで魔術に詳しい人とは関わってきてないから自分の力量がどの程度なのかは知る術はなかった。


 長耳族エルフは魔術の扱いに長けている──その長耳族エルフからのお墨付きってことは相当なんだろうな……もっと分かり易い才能チートが欲しかったと思うのは贅沢だけど。


「それより御主人様、明日にはリシェラリアーナ様達が戻られますが、一日中お付き合いする予定ですか?」

「そうなるかなぁ。時間があればギルドに顔出すつもりだけど……」


 戻ってきた直後ならマッサージ受けて、ごろごろするんじゃないだろうか。

 もしそうならカティアの面倒見る時間ぐらいはあるけど、そうじゃなかったら……カティアには悪いが諦めてもらうより他ない。


 他に時間が作れるとしたら早朝だけど朝は寒いし、冒険者だってその時間はギルドに居ないんだ……待ち合わせ時間に設定するには不向きだ。


「出発前にジオドール様の手紙にあった件はどうしますか?」

「あぁそうか、そっちもあったか……」

「ジオドール……確かメリビア一帯を納める領主だったな。その者がどうかしたのか?」


 何だかんだで機会を逃したせいでネージュには説明してなかったので改めてジオドール様から届いた手紙の内容を伝える。


「……済まないが、流石にそこまで付き合うほど時間的な余裕はない。シラハエ殿には感謝しているが、私には守らねばならない人がいる」

「分かってる。ネージュはそっちの都合を優先してくれて構わない」


 これでネージュが同行することはなくなった。

 後は俺がジオドール様の依頼を引き受けるかどうかだが、今は引き受けてもいいと思っている。


 ジオドール様は平民に過ぎない俺に対しても誠意を持って接してくれたし、俺の能力を加味すればこの頼みは決して無理ではない。


 問題があるとすればジオドール様からの紹介とは言え、身元不明の自称・医者である俺を信用してくれるかどうか。


 病気の進行具合もある……最悪を想定するならミスリル針はすぐにでも用意する必要がある……魔力消費も抑えられるしな。


 そうなると今度は大幅な日程変更をしなきゃいけない。

 まずは店長に今回のことを伝えて、次にジオドール様へ手紙を出す……そしてミスリル針を作ってくれる鍛冶師を探す。


 俺の財産はメリビアに置いてあるからどのみち一度は向こうへ戻る必要がある。

 道中の護衛も新たに雇わなきゃならない。

 欲を言えばタツヤにしてもらった方が安心できるが奴を雇うとなるといくら掛かるか分からないが、かと言ってその辺の冒険者を雇いたいとも思わない。


 ……この辺も含めてジオドール様に相談してみるか。


「御主人様、日程を変更するのは分かりましたが、それでしたらカティアの件も何とかなるのでは?」

「俺も今それに気付いた」


 帰りの日程を店長やリーラ達とズラせばそれなりの時間は確保できる。

 ネージュにも一応、その辺のことを尋ねたら三日程度なら問題ないと言った。

 馬車が使えないから帰りは鈍行になるが、仕方ない。


(おかしいな……俺の悠々自適な異世界生活からどんどん遠ざかっていく)


 俺が思い描いていた異世界生活ってのは綺麗な女を何人か侍らせてハーレム維持して、ちょっと大きなマイホーム購入してそこそこの収入と適度な労働で生涯を過ごす。


 いずれは側に侍らす奴隷ハーレムも増やすつもりだし、マイホームも欲しいから仕事もそれなりに頑張っているけど……何故だろう、どんどん平穏な日々から遠ざかっているように感じるのは。

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