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貢ぎコース

 俺の名前は相葉達哉、異世界へ転生した冒険者だ。

 大手小説投稿サイトで流行りのチーレム主人公のように剣と魔術に才能に秀でた、イージーモードで始まったネクストライフは順風満帆も同然。


 そんな俺は今、最近地下水路に突如として現れた試練の迷宮攻略の為に貿易都市メリビアに来た。


 地方都市とは言え、メリビアは総人口一○○万を超える巨大都市だ……呑む・打つ・買うに困らないからしばらくは退屈せずに済む。


 中でも有名なのはやっぱり娼婦で、冒険者の間では死ぬ前に一度は絶対メリビアの娼婦を買うことが一つの目標というぐらいには有名だ。


 商隊の護衛としてメリビア入りを果たしたのが数日前、適当に見繕った試練の迷宮へ潜り込んだ俺はさえ渡る剣術と超高等技術とされる複合魔術を駆使し、無双展開であっさり迷宮を攻略……イージー過ぎる。


 俺の予定ではもっとこう、歯ごたえのある迷宮を期待してた。

 やっぱり第一陣としてメリビア入りした宵闇の鷹みたいにドラゴン狩ってちょっとしたパレードでも──いや、人雇うのメンドいからやらなくて正解か。


 ただでさえソロで目立つ俺はなるべく周りの軋轢を避けるべく、大金が手に入ったときは酒場の冒険者達に驕るようにする……チートがあっても人間関係だけは努力でどうにかしなきゃならないからな。


「なぁ、メリビアで一番の娼舘って言ったら何処だ?」

「そりゃ、女神の園に決まってるだろ。……ただなぁ、あそこは一見さんお断りだから余所から来た奴は門前払いされるだろうな」

「利用客の大半が大身の商人だったり貴族だったりするからな、そういう人から紹介状でも貰えれば利用できるんじゃねぇの? つっても俺は魅惑の花畑にいるエミーナちゃん一筋だけどね」

「まずは試しに二等地区にある魔女の舘にでも行ったらどうだ? 二等地区じゃ一番デカい店だから大体待ち時間なしで利用できるぜ?」


 という訳で早速俺は紹介された娼舘・魔女の舘に向かった。

 正直な話、異世界の女にはあまり期待はしていなかった。


 女の冒険者や平民の女って基本的に化粧しないから美少女かどうかはすぐ見分けが付くけど、髪はくすんでたりパサついてたり枝毛や毛先が酷かったり肌もかさかさだったりすることが圧倒的に多い。


 貴族令嬢はコルセットや化粧で誤魔化したりしているけど、それでも限度がある。


 だから噂は所詮噂でしかないだろうと思ってたし、せいぜい冒険者仲間達と酒の席で話す肴にでもなればいいや、ぐらいにしか思ってなかった──


「いらっしゃいませ、御主人様。魔女の舘へようこそ……ちゅ」


 ──出迎えてくれた女の子を見るまでは……。

 ハッキリ言おう、全く別次元の生き物……いや、美少女がそこに立っていた。

 しかも、当然のように濃厚なキスをしてお出迎え……不意打ち過ぎる。


 体型がハッキリと分かる、貴族が夜会で着るようなドレスを着た女性は出るところはしっかり出て、引っ込むところはキチンと引っ込んでいる。


 何より注目すべきは肌と髪……櫛を通しても絶対引っ掛からないほどサラサラしていそうなくらいいい状態だ。


 肌だって大した化粧をしていないにも関わらず──というかノーメイクなのになんかもう人間とは思えない。


 これはあれだ、二次元の美女が三次元になったらこうなったってレベルだ。

 俺の拙い語彙力ではこの辺が限界だが、とにかく娼婦とは思えない美少女が出迎えてくれた。


「お一人様ですか?」

「あ、あぁ……」


 おかしい、こっちに来てからイケメンとして生まれた俺は女なんて話飽きている筈なのに、なんでこんなにドキドキするんだ……。


 リードされるまま、小スペースへ案内されると空いている女の子がディスプレイのように立ち並び、微笑を浮かべている。


 中には嬉しそうに笑いながら手を振っている娘もいて、それがサービスだって頭では分かってても本物の美少女への免疫がゼロな俺はそれだけで舞い上がりそうになる。


 それよりもここは写真のようなものがない世界だ。

 パネルマジックを警戒しなくていいのはとても有り難い。


 体つきを調べる程度なら触ってもいいそうなので一言断ってから触ってみればどの娘も素晴らしい身体をお持ちのようで甲乙付けがたい──と、言うか一度に一○人以上の娘を並べられて選べと言われても逆に選べないと思う。


「御主人様、当店のご利用は始めてですか?」


 まるで俺の心を見透かしたように最初に会った女の子(ネームプレートにはアンナって書いてある)が控えめに尋ねてきた。


 見栄を張っても仕方ない、素直に訊こう。


「あぁ、メリビアの娼舘は凄いって噂で聞いてたけど噂以上でさ……金さえあれば全員指名したいぐらいだよ」

「ふふっ、始めてメリビアの娼舘にやってきた人は皆、御主人様と似たような反応をするんですよ?」


 悪戯っぽい光を瞳に浮かべながら妖艶に笑うアンナちゃん……すごくドキマキした。


「それでは御主人様、僭越ながら私など如何でしょう? 私も候補の一人として数えられていますので。生憎、ナンバーワンのエレナは今日一日、予約が入ってますので後日ということになりまけど、初回サービスということで翌日になりますが一番風呂として予約させて頂きますがどうします?」


 一番風呂……文脈から察するにその日の最初に相手するお客様ってことでいいのか?


「いや、今日は空いてる娘でいい。その代わり、オプションでサービスしてくれると嬉しいかなー、なんて」

「畏まりました。それでしたら店長お勧め、複数人同時の達人と言われているノゾミちゃんとヒトミちゃんがお勧めですよ? 実の姉妹ということで興奮する御主人様も大勢います」

「へ、へぇ……」


 アンナちゃんに呼ばれて件の姉妹が一歩前に出る。

 ノゾミちゃんはもう数年すれば大人の女性という言葉が相応しい美少女に成長する感じの娘で、ヒトミちゃんはお姉ちゃんより大きな胸に反比例するような童顔だ。


 ……いい、凄くいい組み合わせだ……けどやっぱり第一印象が大事なのかな、最初に会ったのがアンナちゃんで、そのときのインパクトがまだ抜け切れてない訳で……。


「そうだな……二人は次の機会にして、今日は俺を出迎えてくれたアンナちゃんで」

「畏まりました。それではまず、身体を洗わせて頂きます。こちらへどうぞ」


 こうして俺はメリビア自慢の娼婦の御技を隅々まで体験し、サキュバスの如き色気を纏ったアンナちゃんに絞り尽くされた。


 お風呂で念入りに洗われて、マットで楽しんで、即効性の精力剤を提供されてベッドの上で第二ラウンド……オプション込みとは言えサービス良すぎる。


 娼舘から出たときはちょっと足取りがふらついていたが、上には上がいる。

 メリビア娼舘・初心者レベルの俺を差し置いて美女二人を連れてアフターを楽しむお客さんが俺を見て『フッ、この程度で骨抜きにされるとは……まだまだだな小僧。そんなんじゃこの先生きのこることなんて出来ないぜ?』的な嘲笑を浮かべやがった……ッ!


(冗談じゃない、美少女に翻弄されたまま終われるか! 娼婦だろうが関係ねぇ、絶対にアンナを振り向かせてみせる……ッ!)


 この瞬間、俺の貢ぎコースが確定した。

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