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依頼と頼み

 亡国の女王・エアル率いる長耳族エルフ達はあらゆる意味で苦境に立たされている。


 詳細は割愛するが、当面の危機は生活費だ。

 貨幣という概念のない故郷から、貨幣を対価とした物々交換(少なくとも連中はそう解釈してる)は戸惑うところがある。


 換金できそうな代物はある──しかし、高価な貴金属やマジックアイテムを売るには信用が必要だ。


 冒険者であればギルドを介入して迷宮から出土した貴金属やマジックアイテムを売り捌くことが出来るが、ギルドへ加入するとなれば当然、身元は調べられる。


 調べると言っても職質程度のものだが、挙動に不自然さがあれば尋問に変わり、そこから彼女の正体が露見する可能性は充分にあり得る。


 ましてやネージュは一度、ギルドで揉め事を起こしてる……顔が割れている以上、ギルドを利用することはできない。


 裏道を通れば或いは買い取ってくれる店があるかも知れない……だが足下を見られ、二束三文の値打ちで買い取られる可能性の方が大きい。


 ならばいっそ、人間の中で唯一と言っていいくらい、自分達に対して忌避感のない俺を商売相手に選べばいいのでは──と、リコリス様から助言を受け、日夜俺のことを探し回っていたらしい。


 ネージュが独自に集めた情報を元に分析した結果、男は皆冒険者となって一攫千金に憧れる生き物、だから常に強い仲間を求めている。


 長耳族エルフとは言え、自分は王族の護衛を務められるだけの実力者、加えて魔術の腕も自信あり、だからきっと歓迎されるだろう──という打算で接触してきた。


「買ってくれってそういう意味だったのか」

「? どうかしたか、シラハエ殿」

「いや、こっちの話……」


 キャスト達を相手に商売しているからつい、真っ先にそういう事(・・・・・)を想像してしまうのは許して欲しい。


「それで、仕事の件だが……」

「あぁ、それね。済まないがそれは難しい」


 勿論、彼女達に差別意識があるからではなく、雇う必要性がないからだ。

 手に職を持っている以上、わざわざリスクを冒して冒険者の真似事をすることはないし、街中程度の移動なら護衛を雇う意味もないし、シャルロット一人いれば充分だ。


「マジックアイテムや貴金属があったよな? 俺なら換金する伝手があるからそっちの仕事を請け負ってもいい。多少なりとも手間賃は貰うけど」

「それは……まぁ、そうなんだが……。うん、アレだ。貴金属は我々の秘術・・を使う上でどうしても必要なものなんだ。だから、軽々に売ることができない」

「そうか」


 訳あり臭が半端なくするので追求はしない。


「御主人様、ネージュ様を護衛として雇うことはできないのですか?」


 それまで俺たちの会話を黙って聞いてたシャルロットが尋ねてきた。

 ネージュを護衛として雇う……あぁ、明日のことを言っているのか。


「あー……。彼女は激情家なんだ。だから上手く周りに馴染むことができないんだ」

「じ、自分にそういうところがあるのは認めるし、恥を承知で頼み込んでいるのは分かっている。それでも、頼む……。私のことは体の良い雑用として扱ってくれても構わないし、ちゃんと金に見合う働きもする。森と大地の精霊に誓って迷惑になるようなことは絶対しない。だから……頼む」


 うーん、よっぽど金に困っているのか。

 そりゃ二等地区の宿屋で長期間滞在していれば出費も痛いよな。


 迷宮はギルドと領主が管理しているから潜れないだろうし、外へ魔物狩りするとなれば時間も掛かる上に一人だと運べる量が限られるし長耳族エルフと知った途端買い取り拒否、なんて事態も起こりかねない。


 それにだ、根っこが庶民である俺はここまで必死に頼み込んで頭を下げている相手を商人や貴族のように頭を足で踏みつけたり蔑ろにしたり不当にチャンスを奪うような真似なんてできない。


「……明日から俺はメリビアから離れる。日程は最長で一○日間を予定している。その間、シャルロットと一緒に俺を護衛して欲しいんだが、問題ないか?」

「最大で一○日……大丈夫だ。姫様の部屋には強固な結界を張ってある。街中での襲撃を考えれば過剰と言ってもいい」


 今サラッと姫様とか言ったな、ネージュ……知らんぷりするけど。

 シャルロットは何かに気付いたようだが沈黙する……余計なことを訊かない娘で助かった。


「前金として銀貨三○○枚(三○○シルバ)、残りは仕事が終わってから払う。これでいいか?」


 ぶっちゃけ護衛の相場なんて全然分からないのでかなり適当だ。

 俺の月々の収入が平均で五○○シルバ……メリビアではどの程度の稼ぎか分からないが少なくとも一般家庭の収入よりはいい、それは間違いない。


 冒険者ギルドで張り出されているゴブリン討伐でさえ一匹につき銅貨五○枚(五○カッパ)、オークなら一匹一○シルバ……これはメリビアの相場だから地域によって値段は変動するが、大体そんなものだ。


 だから最大一○日の護衛で六○○シルバは好条件の筈だ。

 勿論、有事の際に活躍して貰うことも考慮して俺基準で少し高めに設定しているから負傷手当等は出ない……手に負える範囲でなら整体魔術を施すつもりだが。


「構わない。……それと、今後もできれば姫様の様子を診てもらえないだろうか?」

「仕事の都合上、月に一度の頻度になりますがいいですか? 診察についてはお金は結構ですよ。前回のときに充分過ぎる対価を貰いましたから。勿論、深刻な病に掛かった場合は適切な対価(銀貨一枚)を頂戴しますので」


 しかしネージュの奴、随分と腰が低くなったな……いや喋り方は堅いし偉そうってところが抜けてないけど、歩み寄ろうという姿勢が診られるだけでも進歩したもんだ。


 ひょっとして自分なりに人間のことを理解しようと帽子被って街を出歩いたりしてるのかね?


 少なくとも特徴的な耳さえ見られなければ彼女は人間の美人さんに見えるし。


「恩に着る。それで、明日の仕事というのは……」

「あぁ、さっきも言ったけど基本、俺を護衛してくれればそれでいい。あと、朝早いからこっちから迎えに行く」


 本当は今回の護衛、タツヤを雇うつもりだったんだが最近のあいつ、入れ込んでいるキャストを本気で落とそうと努力してる。


 その一環なのか、最近は貴金属で出来た珍しい魔物を狩って、それを装飾品にして送ろうと遠征関係の依頼ばかり受けているお陰で日程が合わなかった。


 店長も腕の立つ冒険者を何人か雇うだろうが、俺は俺で自衛手段を用意して置いた方がいい。


「では、明朝」


 左胸に拳を当てて、去っていくネージュ。

 必要のないことは喋らないとか軍人気質──いや、こちら風に言うと騎士気質か。


「御主人様、先程の女性とはどういった関係ですか? 姫様という言葉が凄く気になるのですが……」

「悪い事をしてる人たちじゃないけど、知らない方がいいよ。色々面倒な事情抱えているからね」


 ネージュとの話が一段落したところでデートを再開する。

 と言っても何かをするには色々中途半端な時間だ。


 なのでリア充同士のデートの定番……かどうかは元ぽっちの俺には分かりかねるが娼舘関係でお世話になっている服飾店へ向かった。


 俺とシャルロットはもう、深い関係になったし遠慮しなくていいという言質も取った……故に、遠慮はしない。


「彼女の服が欲しい。私服と寝具、二着ずつ」


 どちらも月々の小遣いでまかなえる範囲だ、マイホーム用の貯金には響かない。

 どうでもいいが服屋で寝具というのはキャスト達が着るような服のことを指す……つまりそういうことだ。


 シャルロットもその辺は理解したようで、ほんのりと頬を染めてる……初々しいな、キャスト達ではありえない反応だ。


 どこかの発情期も是非見習って欲しい。


「お、先生……ついに決心したね? いずれするだろうと思って寝具の準備は抜かりないですよ? ……ところで私服については希望ありますか?」

「お洒落着と作業着だな。作業着の方は見た目にも気を使って欲しいけどダサい服でなければそれでいい」

「先生、うちで取り扱っている作業着と言えばメイドが着るタイプの服しか扱ってませんよ? 一から作るとなればオーダーメイドになりますから時間も手間賃もかかるんで既製品をお勧めします」

「メイド服っていうとアレか? 領主邸で働いているメイド服と同じタイプか?」

「えぇ。アレはうちの針子がデザインしたもので……在庫ありますよ?」


 領主邸のメイド服……いいなそれ。

 何がいいって、使われてる生地は白と黒のみで、スカートがロングなところだ……世間はミニスカに傾いてるが俺は断然ロングがいい。


 あぁいや、別にミニスカを蔑ろにする訳ではないが、その辺の娘に限った話だが生足見た途端……なんていうか、高確率で失望感が襲うんだ。


 シャルロットやリーラ、アイリーンぐらいになれば自慢の美脚を晒してるってことになるけど、大根みたいな脚を見ても、ねぇ?


 お洒落着の方はシャルロットの意見を積極的に取り入れて、作業服は好みで購入して店を後にする。


 陽もいい具合に落ちてきた街中は灯火で照らし出され、それに会わせて一日の仕事を終えた職人達がこぞって酒場を目指す。


 かく言う俺たちは今日、娼舘へ泊まり込みだ。

 家で起きて飯食って集合するのは手間だし丁度いい……何より自宅は禁欲を強いられる、我慢は良くない。


 一等地区へ入り、開店と同時に入店するせっかちな客に混じって堂々と女神の園へ入る俺たちは利用客からすればさぞ不自然に移っただろう。


「お帰りなさいませ、御主人様。……あ、先生。ちょっといいですか?」


 ホールで出迎えてくれたキャストが俺の存在に気付き、小走りで駆け寄ってきた……なんか面倒毎の臭いがする。


 他の客達と充分な距離を取ってから彼女は部屋の鍵と一緒に手紙をこっそり渡して、案内するフリをして俺たちを遠ざける……封蝋の印を見て差出人はすぐに分かった。


 与えられた部屋へ入ると同時にすぐ鍵を閉めて、乱暴に封を開く。

 差出人は予想通り、領主様ジオドールから。

 形式文丸出しの挨拶から始まり、近況報告をしたところで本題が書かれていた。


「これはまた……」


 何故、こうも俺の嫌がることがクリティカルに起きるのだろう。

 思わず手紙を落としてしまい、それをシャルロットが拾い上げる。

 手紙の内容を要約するならこうだ。


 四英雄・クリスティーナとその娘は現在、難病を患っている、可能であれば治療して欲しい──と。

店主「体操服はいい、純白フリルのエプロンはいい。いい物といい物を合わせたら凄くいい物になるんじゃないか?」

主人公「そいつは盲点だったな! どうすれば体操服の上にエプロン着るんだとか思うが細けぇこたぁいいんだ、と言うわけで頼むシャルロット!」

シャルロット(ダメだこの人達、早く何とかしないと)


体操服と白のフリル付きエプロンって想像したら凄く良かったと思う今日この頃。

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