冒険者の凱旋
サクサク読めるよう、出来る限り一話は短めにしてます。
三等地区の娼婦達のケアも終えた頃にはすっかり日が暮れていた。
呪具で作られた灯火(地球で言う街灯)が表通りを照らし、俺と入れ替わるように今日もお気に入りの女と一発ヤる為に駆け込む常連という名の中毒者たち。
彼女たちから得た情報を元に思えばゆっくりできるのは一週間が限界だろう。
偵察隊から得た情報をどうやって入手したかはともかく、今回出現した迷宮は希少金属として名高いオリハルコンやミスリルの存在が確認されている。
迷宮内に存在する魔物の中には貴重な素材を持つ魔物もいくつか確認されている。
つまり、このメリビアでは迷宮に潜る冒険者と、冒険者を斡旋する冒険者ギルドを中心にかつてないほど金が動く。
金が動けば人が活性化して、連鎖的に俺も忙しくなる……酷い話だ。
(どうせ忙しくなるんだ。この一週間は休む、絶対休む。仕事なんか一つも取らない)
そして男が過ごす最高の休日というのは昼間から酒を煽ることだ。
無職がやれば最悪だが仕事してる人間がやるんだ、何も問題もない。
市場で出回っている中で一番高い蒸留酒を買って、晩酌用のつまみをいくつか買い足す。
この世界、家で晩酌するのは貴族様と決まっているそうだが俺は仕事で疲れていない限りは家で晩酌する派だ。
そもそもこっちで酒呑める場所って言ったら酒場か高級料亭のどっちかになる。
酒場は気難しい職人や冒険者、港で働く肉体労働者で占められている上にどのグループにも属さない新参者が入るには勇気がいる雰囲気になってる。
なら高級料亭へ行けばという話になるが、単純にそこまでして酒を呑みたいとは思わないから消去法で卓呑みになる。
手提げ付きの麻袋──異世界版エコバック──に酒瓶と干し肉を入れてさぁ帰ろうかと我が家へ向かおうとした矢先のことだった。
二等地区の西門に作られた、三車線道路ほどの横幅と大型トラックが余裕を持って通過できる高さを誇る大門付近が活気づいている。
何だろうと思い、野次馬根性丸出しで覗いて見て、ビックリした。
即席改造で連結して縦長にした荷車に載せられた巨大な魔物の死体……。
鱗は鮮血のように赤く、全体的に刺々しくも雄々しいフォルム。
前足から伸びる爪はロングソードよりも肉厚で長く、鋭利。
そして──飛行することが目的と言わんばかりの大きな翼。
ファンタジー世界では定番中の定番、空の王者と呼ぶに相応しい魔物──
「すげぇ……レッドドラゴンだぜありゃ」
「ドラゴンの中で気性が荒い上に村一つは簡単に焼き払える炎を無尽蔵に吐く、あの……」
「おまけに奴は生半可な魔術なら弾いちまう……一体誰がこいつを狩ったんだ?」
「ばっかお前、よく見ろ。見せつけてると言わんばかりに掲げられた旗に描かれたあの模様……間違いねぇ、宵闇の鷹だ」
「行きがけの駄賃代わりにドラゴン狩るとはなぁ……。流石、トップクランともなるとやることが派手だねぇ」
「あぁ。わざわざこうやって自分たちの力を誇示するってことは自分達が潜っている迷宮で余計なことするなってことだろうよ」
「その為の誠意が金じゃなくドラゴンたぁ、一流冒険者はやることが派手だねぇ。俺もあの時冒険者になってりゃ人生変わってたかもなぁ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。テメェみたいな凡クラが夢見たところでオーガにミンチにされるのが関の山だ」
「…………」
宵闇の鷹……短い間だったけど冒険者としてやっていた頃に聞いたことがある。
世界中に名を轟かせる三大クランの一つで、魔物狩りのエキスパート。
当時は三大クランの勢力に入っていたけど今は知らない。
冒険者ギルドへ運ばれていくレッドドラゴンと、完全武装した彼等をぼんやりと眺める。
ドラゴンが市場に出回る、というのは殊の外少ない。
討伐すれば黒字なのは間違いないが、その黒字を出すのに割かなければならないリソースがあまりに多大なのだ。
ポーション類の消耗品や武具の破損、怪我による後遺症、人員の死亡、等々……。
中でも深刻なのはやっぱり後者二つだ。
優秀な人材が不慮の事故で使い物にならなくなる、或いは亡くなるということはお金で解決できる問題じゃない。
だから命知らずの冒険者でも進んでドラゴンを討伐する、なんてことはしない。
どういう経緯で討伐したかは分からないが、団員の顔は皆明るい。
そして揃いも揃ってイケメンが多い。
今もミーハーな町娘が上げた黄色い歓声に応えるように笑顔を振りまいている。
酷い格差社会だ……顔だけじゃなく腕っ節にも優れていて女にモテまくり。
……肥溜めに頭から突っ込んで死ねばいいのに。
「……三大クランともなればレッドドラゴンくらい訳もないってところか…………」
俺の独り言は、当然周囲の喧噪によって掻き消される。
これだけの大物、流石に即金での支払いは無理かも知れないが団長が上手いこと交渉して団員達を労う為の資金を捻出するだろう。
(大丈夫かね、うちの娘たち……)
冒険者は女を抱くときは紳士的……なんて言うが、メリビアの娼婦を前にすればどんな男でも野獣の本性を見せてしまう。
美貌も一役買っているけど基本的に社員教育が行き届いている上に秘伝の房中魔術に加えて純粋な技術が高いから床上手なんだよね、彼女達。
俺? 俺は……ものすんごくヤりたい、けど……心にブレーキ掛かっちゃうからできないんだよね……はぁ。
「あ、センセだ。こんばんわ」
「ん? おう、ユキネか」
鬱になりかけていた所を繋ぎ止めてくれたのは人混みの中から現れたのは魔女の舘に勤めている見習いキャストのユキネ。
教育段階ということで先輩から技術指導を受けたり、利用客の身体を洗ったり、店の雑用を押しつけられたりする毎日だが今日はもう上がりなんだろう。
「センセ、仕事あがり?」
「さっきまで女神の園で仕事してた。ユキネは?」
「ウチはなー、冒険者様見にきたんよー。ウチ英雄譚とかめっちゃ好きやけど本物英雄なんて滅多に見れへんやろ? せやからこうして見に来たんや」
ユキネもイケメンにゾッコンのようだ、それも完璧超人派ときた。
いやいや、女なら誰でもイケメン英雄に夢中になるものだ……路傍の石も同然の俺に見抜きもしないのは当然だ、冷静になれ。
「なぁセンセ、ウチご飯食べたいねん。奢ってやー。今ならもれなく美少女双子がお酌するからな? お願いや」
「という建前で、接客指導して欲しいと?」
「あ、バレた? でもセンセにお酌したいんはホンマやで?」
「……まぁいいか。その代わり、ちゃんとお客さんだと思ってやれよ?」
「やたー! おおきになセンセ!」
ということで一旦魔女の舘まで引き返した俺は双子のサクラを借りて外へ出る。
店側も俺のことは信用しているようで抵抗なく貸し出してくれた。
気分はキャバ嬢を侍らせてアフターを楽しむ富豪だ。
店を出るとき、つい今し方お楽しみをしていた冒険者を追い越す。
(あの様子……新参者か。慣れてないとがっつり搾り取られた上に簡単にリピーターになるんだよね……破産しなきゃいいけど)
「センセ、はよ行こー」
「ウチな、最近二等地区に出来たカフェテリアゆう店でセンセと優雅な一時過ごしたいわ」
「あぁもう、分かったから引っ張るな。服が伸びる」
どうやら俺の夜は、これから始まるらしい。




