能力測定
PV10万、ユニーク2万突破しました。
なんだかんだで大きな数字は嬉しいものです。
仕事が終わったので残りの時間はシャルロットの訓練へ付き添うことにした。
付き添うと言っても初心者程度の技量しかない俺では既に訓練に付いてこれないレベルに達している。
具体的に言えばシャルロットは今、盾持ちの剣士、槍使い、両手剣使いの三人を相手に必死に食らいついてる……シャルロットさん、才能持ち組みですか?
俺も一応、ギルドで冒険者登録した時は死なない為にと訓練はしたけどあそこまで上手く立ち回れなかったし、周りの駆け出しと似たり寄ったりな技量しかなかったのを覚えてる。
気になったので直接の教官に話を伺ってみた。
「いいスジをしてる。剣術と違って槍術には複雑な動きがない。射程という利点も活かせる。何よりあの持ち方……薙ぎ払いを主軸にしつつ刺突も織り交ぜている。センスの塊だよあれは。……本人には言うなよ?」
かなり才能があるらしい。
そう言えば彼女はホーゼという山奥の村で生まれ育って、そこではたまにコボルトに畑を荒らされる被害が出ていたと言っていたっけ。
きっと、被害に遭う度にシャルロットもああやって武器を手にとってコボルトを駆逐したんだろう……そう考えれば彼女には武術の基礎があった、とも言える。
「いやぁ、君の奴隷本当可愛いよね」
いつの間にか俺がマッサージをした団員の一人が隣にやってきた。
金髪紺碧という、イケメンと言えば日本人が真っ先に想像するような感じの男だ……なんか香水臭いんですけど。
「自慢の奴隷ですから」
「そうだね。でも、彼女みたいな娘はもっと裕福な生活を送るべきだと思わないかい?」
「そういう誘いは本人に直接して下さい」
「奴隷を説得しても主人がダメって言ったら意味ないじゃん。だから直接こうして来ている訳」
もっともな意見だ……そして馴れ馴れしく話しかけるイケメンはウザい。
「聖凰騎士団さ、これでも一流クランだから金もコネもあるんだけど、どう? 譲ってくれない?」
「彼女一人口説き落とせないような男には渡せません」
「でも君の経済力じゃ女を幸せにするには心許ないと思うけどね。アパルトメント暮らしなんでしょ? 部屋も狭いし食事も人並み……シャルロットちゃん、すっごく良い娘だし自分は奴隷だからって本音を言えずに満足ですってやせ我慢してると思うけどね?」
そんなことはない──と、思い切って反論したいところだが暮らしがアレなのは認めざるを得ない事実。
言い訳にしかならないが今よりもいい場所へ移ること──それこそ借家を借りることぐらいは出来るけどマイホーム購入の為の資金に充ててるのでどうしても現状はアパルトメント暮らしを余儀なくされる。
「彼女の幸せを思うなら、君が身を引くべきだと思わないかい? 何もタダで手を引けって訳じゃない。金貨二○枚で手を打とう」
シャルロットの購入金額と同じじゃねーか。
当然、頷く理由もないしこんな男に屈する訳にもいかない。
「なんだ、不満なのか?」
「先程も申した通り、私は女一人口説き落とせないような男に自分の奴隷を渡すような人じゃありません。まぁ私のような弱い相手でなければまともに交渉できない程度の器量しかない男ですから、うちの奴隷を口説き落とすなんてできないでしょう」
「……おい、団長に気に入られたからっていい気になるなよ? それともマッサージ程度のことで優位に立てたと勘違いしてんのか?」
どうしてこの世界の冒険者ってのは短絡的なのかね。
舐められないように行動してるって意味では正しいのかも知れないけど。
「今回の件とそれについては何も関係ありません。それとも、あなたもやっぱり気に入らないことがあれば力尽くで来る大衆冒険者と変わらない人間ですか? だとしたらアリスティアさんとクリスティーナ様は大変な恥をかきますね。聖凰騎士団も地に落ちたものだとね……」
「全くその通りね」
俺達の間に流れ始めた邪険な雰囲気を察して他の団員が割り込んできた。
やって来たのはアリスティアさん──ではなく、片腕のネリスさん。
「先生の言う通り、女一人正面から口説く度胸のない男に安心感を覚えないというのは同意見よ。彼がこう言っているんだからお言葉に甘えて口説いたらどう?」
「副団長、これは俺とこいつの──」
「聖凰騎士団は、シラハエ先生に対して危害を加えるつもりはない。今後も彼とは良き関係を築く、それがクランの方針よ。それでも文句があるなら──剣で語りなさい」
いつの間にか抜剣した副団長は切っ先をピタリと喉元へ狙いを定めていた。
比喩でも何でもない……本当に気付いたら抜剣していたんだ。
魔術のある世界だから、人間の身体能力が魔術強化によって人外の領域へ達することがあるのは知識として知っていたけど、間近で見るととんでもない。
「剣で語って勝ち取れば私は何も言わない。だけど──女一人の為に命を賭ける度胸のない男を認めるほど、私は甘くない」
「…………」
「私を敵に回したくなければ回れ右をしなさい。だけど、この件はキチンとアリスティア様に報告する。それが嫌なら私の言う通り剣で語りなさい」
「…………」
ギリッと、奥歯を噛み締めた男は立ち去って行く。
気持ちは分かるけどね……直接向けられた訳じゃないけど隣にいる俺でもネリスさんの殺気はマジ怖い。
「済まなかった。あの男は私がキチンと処罰する。だからどうか、この場は怒りを収めて欲しい」
「組織である以上、全ての人間を統率するのは不可能であることは理解してますのでもう気にしていません」
嫌な思いをしたぐらいで打ち首しろとか言うほど子供じゃない。
それに副団長みたいなお堅い人間が下す処分なら間違いはないだろう。
「御主人様、どうしました?」
休憩時間に入ったのか、小走りで近づいてきたシャルロットが会話に参加してきた。
あんな嫌な奴のことなんて話す必要がないと一瞬思ったけど、注意喚起ぐらいはしておいた方が良いと思い直して先の出来事を軽く話した。
「そうですか。ですが、私は御主人様以外の人に仕える気はありませんので安心して下さい」
「良い奴隷を持ったわね。……ねぇ、折角だから能力測定してみない?」
「能力測定?」
「えぇ。まだ広く普及はしてないけどクリスティーナ様の見立てだと遅くても一○年後には当然のように普及するシステムよ。簡単に言えば人の強さを数値化する計測器で、これが全ての冒険者ギルドや騎士団で導入されるようになれば強さの基準がより明確化できるようになる代物よ。より多くのデータが欲しいからって理由で聖凰騎士団にも一つ支給されているんだけど、どう?」
能力の数値化……RPGゲームでいうステータスって奴か。
たまに異世界転移モノでそういうのを導入している小説があるけど、基本的に日本人って数字が好きなところがあるからどうしてもそういうの気になっちゃうんだよね。
(それに、数字とは言え目安があればシャルロットも努力目標も立てやすくなるかな?)
「御主人様、私は興味あるのですが受けても宜しいですか?」
「いいよ。俺も能力測定に興味あるし」
「分かりました。……済みませんが、少しの間彼女を借ります」
シャルロットに指導していた教官に断りを入れて訓練を中断したシャルロットと共に、訓練所の隅に儲けられた部屋へ移動する。
六畳程度の広さに部屋の奥に鎮座している長方形サイズの装置にビッシリ文字が刻まれ、両端に手を乗せる低い台が取り付けられ、その中央には羊皮紙が一枚置かれていた。
「そこの両端に手を付けて。細かいことは私がやるから」
装置の裏へ回りながら副団長が説明する。
シャルロットは興味あるみたいだけど何かあるとまずいのでまずは俺から計測してもらうことにした。
「手を乗せるだけでいいの?」
「乗せるだけよ」
簡単でいいな、それは。
今度機会があればタツヤの計測も頼んでみよう──そんなことを考えながら両手を端に付ける。
ぽぉっと、装置が淡い青色の光りを発すると共に副団長が装置に魔力を流し込む。
掌を通じて内側を何かに浸食されるような感覚が襲うが我慢できない程の不快感はなく、少しくすぐったい感じでもある。
時間にして一○秒程度だろう、光りが収まると同時に焼き印を押したような文字が羊皮紙に浮かび上がった。
一言断りを入れてから羊皮紙を受け取って、計測結果を見てみる。
名前:白南風清十郎
レベル:5
属性:無
攻撃力:15
防御力:12
敏捷力:13
持久力:16
魔力量:950
魔強度:300
魔操作:1000
(ピーキー過ぎる……)
冒険者時代に多少なりとも魔物討伐の経験があるからレベルが上がっているものの、これは酷いと思わざるを得ない。
魔力関係だけ桁がおかしいけど深く考えないことにする。
「計測結果を見せて頂けますか?」
「ん? いいよ」
魔術師よりの能力でありながら魔術師向きでないとはこれいかに。
副団長は羊皮紙を受け取り、目を通すと顔を真っ青にした。
何か変な項目でも──あぁ、多分魔力関係がおかしいからそういう表情になったんだろう。
本職でそう感じるんだからきっと俺はおかしいんだろう。
良いか悪いかはさておいて。
「ネリスさん、どうしました?」
ただ、自然回復するのを待っていると時間が掛かりそうなのでなるべく相手の様子に気付いてない風を装って声を掛ける。
呼びかけられた副団長は正気に戻ると誤魔化すように咳払いを一つ。
「な、何でもありません。それで、次はシャルロットさんで宜しいですね」
「はい。お願いします」
俺の立ち位置と入れ替わるようにシャルロットが装置の前に立つ。
副団長が羊皮紙をセットしたのを確認してから同じように両手を付いて、測定を受けて検査結果を受け取ってから訓練に戻った。
名前:シャルロット
レベル:3
属性:水
攻撃力:12
防御力:10
敏捷力:21
持久力:18
魔力量:15
魔強度:3
魔操作:1
シャルロットはこんな感じでした。