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独り言

 シャルロットとアリスティアさんと一緒に俺達は一足早く仮設拠点へ移動してすぐ怪我人の受け入れ体制を作った。


 受け入れ体制と言っても簡易ベッドを用意したり食事の準備をしたりと、野営陣ですることと何も変わらない。


 程なくして迷宮内の毒にやられた患者が運ばれてきたので整体魔術による解毒作業と肉体の疲労、魔術が使える者には追加で魔術回路の掃除を行い、シャルロットが出来た料理を片っ端から運ぶ。


 甲斐甲斐しく世話をするシャルロットに対して団員達は、奴隷だからと言ってドサクサに紛れてセクハラを働こうとする不埒者の手をアリスティアさんが容赦なく剣の鞘で叩いて俺の仕事を仕事を増やし、『そんなヤツの治療なんかしなくていい』という言葉を無視しつつも最低限の治療だけして痛みは残しておくという、微妙な嫌がらせをする。


 治療行為が全て終わると遅れて死者を弔う会……という名の酒盛りに参列した。

 酒盛りと言ってもこれがそのまま夕食になるから参加せざるを得ない。

 賑やかな席が苦手という訳ではないが、部外者だからか、はたまた話題に乗り切れないせいか、どうも馴染まない……はぁ。


「今日は大活躍だったな。医者とは思えない胆力……見事だったぞ」


 よく働いた団員達を労う為か、エリオット団長自らカップに酒を注ぎ周りながら一人一人を労っていく……当然、俺の持つカップにも注がれた。


「タツヤとアリスティアさんのお膳立てがあってこそです。私一人ではとても突撃なんて無謀なこと、できません」

「だが、凡人ならあの圧倒的な火力を目にすれば脚がすくみ上がって動けなくなるか、一目散に逃げるかのどちらかだ。君は逆に、あの猛威へ挑む選択をした。お膳立てがあったとは言え、勇気がなければできない。違うかね?」

「それは……」


 一つ一つ自分の行動を分析してみると、確かにそうかも知れないが、俺にとってはガーディアンゴーレムの大火力も、剛力を誇るオークの薙ぎ払いも、規模が違うだけで同列にしか見えない。


 もし今回の相手がドラゴンで、大気を揺るがすような大咆吼を聞いていたら、多分エリオット団長の言う通り、動けなくなるか逃げ出していたに違いない。


「少し君のことを調べてみたんだが、昔は冒険者をしていたそうだね」

「各ランクに定められている依頼の規定回数と期間の違反で登録は消えてますから今はただの平民ですけどね」

「そして、娼館の専属医者として街で活躍している」


 流石に一流クランともなれば情報収集は欠かさないか。

 特に情報操作している訳でもないし、一流クランに属する冒険者でなくてもこのぐらいは酒場で聞き込みすれば得られる情報だから動揺したりしない。


「君の治療を受けた団員達は皆、口を揃えて言っていたよ。自分の身体が入れ替わったようだ、とね。確かに治癒魔術は便利だし、前線を維持するには不可欠だ。だが治癒魔術それはあくまで傷を癒すものであって、毒を消したり体力を回復させるものではない。そして君の秘伝魔術……とでも言うべきか、それは毒の治療だけじゃない、体力の回復を可能としている」

「勧誘ならお断りしますよ。性に合わないので」

「ただの独り言だよ。何せ今の私は羽目を外して少しばかり飲み過ぎて酔っている。だからつい、不用意にクランの内情と私の信条を口走ってもおかしくはないだろう?」


 随分と質の高い独り言だな……これ見よがしに酒を一気飲みしても少しも酔っている風には見えない。


 こっちは言質取られないよう必死なのに……。


「シラハエ、君はクラン単位で活動する冒険者が大型種を討伐した後、休止期間を設けること、そしてそれがどの程度の期間か知ってるか?」

「……一週間、ですか?」

「二週間だ」


 こちらの答えを一刀両断するように、エリオット団長は断言した。


「消耗品の補充、武具の修理や購入、団員の死亡事故による部隊の再編成や募集、そして新人の育成……余所のクランはどうか分からないが、うちはそれを加味した上で最低二週間、最長で一ヶ月の休止期間を設ける。中でも深刻なのは団員の欠員とその補充、隊の再編成や一時的な離脱による戦力低下だ。例え治癒魔術で傷は治っても、手や足に障害が残れば、その者は第一線から退かなければならない。第二線で通常の依頼クエストをこなしてクランの縁の下的な存在になることもあるが、大抵は冒険者を引退しなければならない。これは、大型種と干戈を交える時は必ず起こる弊害と言ってもいい」


 クランの強みは組織力……頭数による数の暴力だ。

 数が揃えばその分、難易度の高い高額報酬の依頼クエストを受けることができるが、先のようなリスクもある。


 人によってはクランより小回りの利くパーティを維持した方がいいと言う人もいるが、どちらも一長一短だ。


「……つまり、何が言いたいんです?」

「治癒魔術とは、怪我を治すものだ。子供でも知っていることだ。けど、本当に怪我を治しているかと言えば難しいところだ。団員の中にも治癒魔術師はいる。だけど、治癒魔術を受けたにも関わらず死んだ事故例もある。そもそも障害だって立派な怪我の一つだと俺は思っている……にも関わらず、そうしたものには効果がない」

「…………」

「ジオドール様は二○年前の戦争で足に傷を負った。それこそ、一生治らない程のね。だが先日、そのジオドール様とお会いする機会があった。以前お会いした時は足を庇うような仕草が見て取れたが、その時のジオドール様はしっかりと両足に体重を乗せていた」


 鋭い……この人鋭いよ。

 直感系チートでも持ってるんじゃないのか?


「興味本位で訊いてみたら教えてくれたよ。腕の良い医者に治してもらった、と。身元は教えてくれなかったけど、今日の君の仕事ぶりを見て確信したよ。……君の魔術の本質は解毒や体力の活性化だけじゃない、後遺症を治すものだね?」


 惜しい……ピッタリ賞ではないにしろ、かなり正確な読みをしてる。

 ここまで情報が出揃っているからそういう結論に達するのも当然か。


(あぁでも、ジオドール様にしっかり口止めしておかなかったのは俺のミスだな)


 契約書は書かせたけど、その中に他言無用の類は一切なかった。

 ただ、契約書の件がなくてもエリオット団長の洞察力の前では同じ結論に達したかも知れない。


 例えば、俺にカマを掛けてその反応から推理するとか。


「宵闇の鷹は今、優秀な人間を求めているし、団員を守る為の後ろ盾も申し分ない。何処かにいる(・・・・・・)優秀な人材がウチにくれば幹部クラスの待遇を用意する。ウチの幹部も、女を複数侍らせている者もいる……それが許される程度には自由だ。場合によっては貴族令嬢との仲も取り持ってもいい」

「…………独り言ですよね?」

「独り言さ。既に余所と専属契約を結んでいる君に言ってる訳じゃない。ただ、他人の言葉を聞いた結果、自分の意思で(・・・・・・)方針を変化させることだってあるだろう?」


 かなり際どいところ攻めるな、団長さん。

 けど、俺がガチガチの戦闘系クランに商売相手を変えるなんてことはまずない。

 そもそも、冒険者が身を置く刺激的な日常は俺には合わない。


 そういう世界に憧れを抱かないと言えば嘘になるけど、そうした憧れは史実を元に書かれた英雄譚を読めば満足できる。


 根本的なところで、俺は冒険者に向いていないんだ。


「団長さんが片思いしている人が、いつか振り向いてくれるといいですね」

「じっくり行くさ。それに……相手が泣きついてくる可能性もあるしね」


 あぁもう、これだから嫌なんだよ、利口な人間は。

 やりきれない気持ちを誤魔化すように、俺は酒を一気に煽った。

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