安全圏にて
PV4万8千、ユニーク1万越えました。数ある作品の中から拙作を読み、ブックマークして頂きありがとう御座います。
G.W.更新は考えてませんがこのままだと中途半端過ぎるので迷宮編が終わるまでは投稿しようと思います。
進軍は滞りなく進んでいく。
主人公最強物でありがちなチート能力を持って生まれた俺は積極的にアタッカーとして活躍して、頭数の少ない宵闇の鷹の負担を減らそうと一騎当千の活躍をする。
俺の戦闘のモットーは一撃必殺……ドリ●ターズの主人公がやってたアレだ。
一瞬の踏み込みで全てを決めて、決まらなければ潔く死ぬ……とまでは行かないけどとにかく一瞬で全てを決める気概で特攻してる。
先のボス戦も我先にと先制を仕掛けて致命傷を与えた後、即座に離脱してクロスボウ隊に後を任せた後、剥ぎ取り作業をした。
戦闘は楽でいいんだがこの迷宮……噂通り毒霧が常に充満しているせいで衣服が濡れるし視界も少し悪い、おまけに精神衛生にも良くない……宵闇の鷹は何故ここを独占しようとしたんだ?
王国から依頼を受けた次点で選択の自由はあったと思うんだが……あぁ、単純に自分達が最高難易度の迷宮攻略を立候補して、そこを攻略したんだと言う泊を付けたかったんだろうな。
俺はそんなに面子に拘るような人間でもなければ道楽貴族のように贅沢三昧をしようとも思わない。
並みの生活と適度な賞賛、両側に女を侍らせられたらそれでいい。
そんなことを考えながら眼前のバイオリザードマンを切り捨て、三角飛びの要領で移動して反対側に居たハードスネークの頭部に切っ先を突き刺す。
「うし、掃除完了」
突然、背後から敵が沸いた時は陣形が崩れそうになったが予め後方にはエリオットが待機していたし、アリスティアちゃんも居たから特に問題はない。
ただ、不意打ちのせいでクロスボウ隊の何人かが毒霧を直撃してしまい、重度の毒状態となった。
「俺が担ぐ。もうすぐ安全圏なんだろ?」
「助かる。……クロスボウ隊、他に重傷者はいないか?」
「ガンツがやられました」
チッ、仕方ない……安全圏は目の前だし俺が担いでやるか……はぁ、なんで野郎を担がなきゃならないんだ、どうせならアンナちゃんをお姫様だっこしたいぜ。
「うぉ……クロスボウ隊ならいけると思ったけど、やっぱ重いな……」
「御主人様、私もお手伝いしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。つかもう目の前だろ……根性で頑張る」
へぇ……先生意外と根性あるんだな。
身体の線も細いし、どう見てもガテン系の人間には見えないからすぐ値を上げると思ってたんだが……。
クロスボウ隊の人間は後方射撃が主な仕事とは言え、そこは仮にも一流クランに属する人間……体つきはいい。
加えて、背中に背負っている矢筒にはクロスボウに装填する為の鉄製の矢が何本も収納されているし、補助防具として鎖帷子も着込んでいるから見た目以上の重量感はあるんだが、それを引き摺りながらとは言え一歩ずつ着実に前進していく先生……泥臭いが、そういうのは嫌いじゃない。
先生がえっちらおっちら重傷人を担いで安全圏に入ったとき、既に仮設拠点は出来上がっていた。
先生はシャルロットちゃんとアリスティアちゃんの手を借りながら重傷人を寝かせた後、エリオットの指示に従い解毒作業を始める。
ミスリル製の針をツボ……と、思しき場所へ正確に打ち込み、毒を抜き、その間に予備の防毒の護符を貼り付ける。
魔霧の迷宮内に入れば即座に毒状態になるという訳ではないが、この後メインイベントとも言えるボス戦が控えているからな。
「流石先生、仕事が早いな」
「あぁ、うん。解毒はまた少し勝手が違うけど普段やっていることの応用だし、そんなに難しい作業じゃないよ」
なんて、こいつは謙遜しながら言っているけどそういう当たり前のことを当たり前のように完璧にこなせる人間が、果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
(いかんいかん、柄にもなくセンチな気分になった。こんなのは俺らしくない)
仮設拠点での俺の仕事は特にないので【アイテムボックス】に入れておいた退屈凌ぎ用の本を読む。
シャルロットちゃんは積極的に食事の準備をする団員の手伝いをしているけど、流石の俺もあそこまで意欲的に働きたいとは思わない……働き者だな、シャルロットちゃんは。
(単純に先生から受けた恩を返したい……て気持ちが強いんだろうけど)
パラパラと流し読みしながら時折、周りの様子を伺う。
アリスティアちゃんは先生の護衛で、護衛されてる先生は体調不良を訴える人間に対して整体魔術を施し、団長は幹部と簡易テーブルを囲んでボス戦の方針を決めている。
俺も参加しなくていいのかと思うかも知れないが俺はゲストだし、クランの中で行われてる戦型や連携について無知も同然なので遊撃に徹して臨機応変に大雑把なりに合わせた方が効率的なのだ。
そんな調子で時間を潰すこと一時間、充分な休憩時間を取った部隊はいよいよボス部屋へと向かう。
先生とシャルロットちゃん、アリスティアちゃんは安全圏で留守番だ……そういう契約だから仕方ない。
「ほんじゃま、いっちょやりますか」
「気をつけろよ」
「おう。帰ったらまたアンナちゃんのトコに通い詰める毎日が待ってるからな」
軽口を叩いて、選ばれた精鋭達とボス部屋へ踏み込む。
……この時の俺達はまさか先生の力を借りることになるとは夢にも思わなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔霧の迷宮内に唯一存在する安全圏は毒霧の影響を受けない貴重な空間だ……非常に落ち着く。
患者達に濡れたタオルを額に当てて、整体魔術で体調を整えて充分な食事を与える……という仕事をしているとマッサージ師じゃなくて介護士になったような錯覚を覚える。
「御主人様、お疲れ様です」
仕事が一段落したところでシャルロットがサンドイッチと飲み物を渡してきた。
これはクラン内で支給されている食料を拝借したものではない、キチンと自前で用意した食料だ。
攻略中の食事はクラン持ちということになっているが、それでも有事のことを考えて自前で食料を用意するのは当たり前のこと。
「アリスティア様もどうですか?」
「なかなか気の利く娘ね。今の主人に飽きたら私のところに来ない?」
「私が主人と定めている方は御主人様ただ一人です」
「堅いわね。まっ、私はいつでもいいけど」
おどけた調子で肩を竦め、物分かりの良い人を装うアリスティアさん……この人といい、エリオット団長といい、一流クランの頭を張る人間ともなれば一筋縄じゃいかないような人間ばかりだ……だから関わりたくなかったのに。
(本当、何処で道間違えたんだ? ジオドール様の治療をしたから? ……いや、それがなかったらそもそもシャルロットとは出会わなかったかも知れないしそれを考えれば差し引き……いやでも、うーん……)
贅沢な悩みであることは重々承知しているが、俺にとっては大事なことだ。
仕事をしなければお金が貰えないし、金がなければ日々の生活もままならない……福祉厚生の概念さえ怪しく、外に出れば比喩抜きで死んでもおかしくないような世界であることを思えば有権者とコネを持つことは悪いことではない。
俺は、タツヤのようなチート無双できる主人公キャラではない……せいぜい、重要なイベントに関わっている脇役キャラがいいとこだ。
ぼんやりそんなことを考えながらシャルロットが作ってくれたサンドイッチを一口で半分ほど食べる。
塩胡椒をしっかり染み込ませた質の良い肉と白パンに染み込んだ肉汁が舌を楽しませてくれる……美少女が俺の為に作ってくれたものだと意識すると尚更美味しく感じられるのは年齢イコール彼女いない歴のオタクの悲しい性だ。
「どう、ですか……? 材料の関係であまり創意工夫ができませんでしたが」
「ん。美味しいよ。下味もちゃんと付いているし、パンで挟んだ時に肉や汁が飛び出ないよう上手く調整されてるから汚れを気にしなくていいのはありがたい」
「あ、ありがとう御座います……っ」
「へぇ……男ってそういう細かい気配りとか気付かない方だと思っていたけどアンタは違うのね。……ていうか本当に男? ちょっと女々しくない?」
「言わないで下さい。自分でも結構気にしてるんですから」
「御主人様は立派な方です。アリスティア様と言えども、御主人様を貶めるような発言は見過ごせません」
「もぉ、ちょっとした冗談なのに……」
冗談に聞こえなかったからシャルロットは怒ったんだと思うんだが?
これ以上、拗らせない為にも少し言っておくか。
「アリスティアさん、彼女はとても真面目な娘なんです。安全圏の中とは言え、ここは迷宮です。どうか戯れは自粛して下さい」
「ずっと肩肘張っているのも疲れるわよ?」
「その辺は私が制御しますので」
同居生活が始まってそれなりに経つからある程度は彼女のコンディションというものを把握できる。
俺の目から見た今の彼女はまだ気持ち的に余裕があるが、アリスティアさんのちょっかいを上手く流せてないから今後どう転ぶか分からない。
「シャルロットも、アリスティアさんのことは深刻に捉えないで適当に相手すればいいよ」
「分かりました」
はぁ……どうしてリーダーでもない俺がこんなことをしなきゃならないんだ。
残ったサンドイッチを一気に口へ押し込み、飲み物で流し込む。
患者の容態はかなり安定しているし、休めるうちに少しでも休んだ方がいいだろう……そう考えて少しだけ横になろうとしたとき、ボス攻略に参戦している筈のタツヤが血相を変えて戻って来た。
「先生、協力して! 先生の魔術でなきゃ倒せない相手だ!」