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一日の終わりに

登場人物を更新しました。

 聖武器・魔武器が生み出す試練の迷宮とはどんなところか?

 過去、そこに潜ったことのある冒険者の証言によれば多くは純粋な力試し的な構造になっている……らしい。


 出現後、すぐに攻略された二つの迷宮は一本道を進むと大部屋にぶつかってボスと戦い、最新部を目指す……というものだったそうだ。


 攻略された試練の迷宮は魔物も何も生まない、ただの空間となったのでそのまま倉庫として活用されている。


 で、問題はこれから俺が宵闇の鷹の面子たちと潜る魔霧の迷宮なんだが、中ボスが待機してる部屋が二つ、本命のボス部屋が一つ、そして突入する度に部屋までの道順が変わる迷路……ローグライクみたいなところだ。


「とまぁ、ワシが体験した魔霧の迷宮はそんな感じじゃ。他に何か質問はあるかの、先生」


 夜、パルシャークに話をつけてジオドールとの面会を希望したところ、その日の夜にお目通りがかなった。


 内容は当然、魔霧の迷宮について。

 ギルドでも情報は出回っているけど、やっぱりこういうのは本人の口から直接聴くに限る……と言うかこの人が魔霧の迷宮に潜っていたことを今の今まで忘れてた。


「ジオドール様から見た宵闇の鷹はどうですか? 正直、冒険者にはあまりいい思い出がないので強いだけ、というイメージが拭いきれないんですが」

「ふむ……ワシも奴等が直接戦うところを見た訳じゃないから断言はできんが、クランの戦力を用いればレッドドラゴンは倒せる程度には強いからのぉ。アレはワシ等が現役だった頃でも面倒な奴じゃ。戦力面から言えば問題はなかろう」


 うん、その点は俺も心配してないんだ。

 問題は不測の事態が起きた?とき、俺が真っ先に切り捨てられるか否かってこと。


 細かい打ち合わせで聞いた話だと宵闇の鷹は迷宮内に生息する魔物は把握済みとのこと。


 下手を打たない限りは問題ないと断言している。

 更にボスのいる大部屋では毒霧が充満していないので、そこで治療行為を行えば迷宮制覇率はグンと上がる。


 一流クランのトップともなれば大言壮語を吐くなんて朝飯前って訳だ。


「先生は不安か? 迷宮に潜るのが」

「えぇ、まぁ……」


 こういう時、信頼できる冒険者がいれば頭を上げて同行を願ったかも知れないが俺にそんな知り合いはいない。


 シャルロットは純粋な実力不足だし、何よりキチンと信頼関係を結べている自信がない……裏切られたら夜通し枕を濡らす自信がある。


 かと言って冒険者ギルドに出入りしている人間はどいつもこいつも筋骨隆々で高身長、おまけに睨んでくる!


 ……到底、お友達になれる空気ではない、即時撤退一択だ。


「ふぅむ……先生、どうじゃろう。ここは一つ用心棒を雇ってはどうじゃ?」

「用心棒ですか?」

「左様。タツヤ殿も同伴するじゃろうが前線へ派遣されるとあっては、万一の事態に直面した時、すぐ先生へのフォローに回れない。しかし、私的に雇う用心棒であればその心配はなかろう?」


 確かに……俺を護衛する為の用心棒を雇えば不安はいくらか解消される、けど……あのギルドの中から選別しろって言うのか?


 顔に傷があったり、俺みたいなもやしを簡単にねじ切れるぐらいの筋骨隆々とか、殺し屋としか思えない人相した冒険者たちの中から?


「そう心配するな先生、用心棒ならおるではないか……最高の用心棒が」

「……そんな人いましたっけ?」

「居るぞ。四英雄の一人で騎士爵を授かり、机に縛られた猛々しい戦士がな。いやー、ワシも久々に身体を動かしたくて仕方ないからの」

「いや、一番駄目な人でしょ!」


 ジオドール様、一体何考えてるんですか!?

 地方村の領主ならともかく、一○○万人を超える地方都市の領主がホイホイ出ちゃまずいでしょうが!


「先生の仰る通りですジオドール様。どうかご自身の立場というものをご理解なさって下さい」


 傍に控えていた執事のアルヴィンさんが諫めるも、ジオドール様はまるで聞く耳を持たないどころか、心底不思議そうに尋ねる。


「何を驚く……別に可笑しくはないじゃろ? 貴族階級の中じゃ最下級に分類される騎士爵じゃがこれは世襲で継ぐものじゃない、実力のみで勝ち取れるモンじゃ。キャスパルの受け売りじゃが将来設計を考えている冒険者の中には武勲を立て、騎士爵を取って田舎村の領主となる者もいる。慣例かどうかは分からぬが騎士爵を叙勲して領主となった者は大抵、自ら先頭に立って問題解決に挑む傾向が強い。なら、ワシがメリビアの市民である先生の為に一肌脱いでもおかしくなかろう?」

「それは、そうかも知れませんけど……」

「先生、説得されてますぞ」

「あ……」


 なに普通に納得してんだ俺は……。

 よく考えなくてもジオドール様は総人口一○○万人を越える都市の領主様だからおいそれと前線に出ていいものじゃない。


 それ以前に騎士爵がどうして、こんな国の重要拠点を任されてるか不思議で仕方ないけど……。


「うむ。先生が納得したところで決まりじゃな。よし、そうと決まればすぐ準備せねばな。いやぁ、恩人の先生に頼まれたとあっては断る訳にはいかないからのぉ! 参った参った、ハハッ!」


 ちっとも参ってない顔で、ウキウキという言葉が似合いそうな足取りで壁に飾ってあったハルバードを手に取り磨き始める……もうやる気だ、この人。


 アルヴィンさんに至ってはもう『あぁ、もうダメだ……』的な表情を浮かべ、手で顔を顔を覆っている。


「とても豪快な貴族様ですね」


 何割か世辞の入った感想をシャルロットが述べる。

 あれを豪快の一言で済ませるあたり、シャルロットもなかなかだと思う。


「御主人様、この後はどうされますか?」

「んー……部屋でのんびりするつもり。シャルロットは?」

「私は、少しでも御主人様のお役に立ちたいので少し身体を動かそうと思います。この館には道場がありましたので許可が出ればそこで指導を受けようかと」

「それについては私の方から手配しておきます」


 現実逃避というべきか、アルヴィンさんは目の前の仕事に取り組むことにしたようだ……その気持ちは良く分かる。


 ジオドール様への用件はもう終わったのでそのまま部屋を出ると、当然のように待ち構えていた奥さんとメイド達に捕まる。


「お待ちしておりましたわ、先生」

「勿論、謝礼も用意してありますから是非、“まっさぁじ”をして下さい!」

「あぁ、うん……まぁいいか」


 こういう時はアルヴィンさんに倣って俺も仕事をして現実逃避をしよう……それがいい、そうしよう。


 奥さんに誘導される形で大部屋へ移動して、気持ちを落ち着かせて作業を始める。


 今日は商売道具を持ってきてないので内臓への効果はどうしても薄くなるが、美肌効果とダイエット効果は直に触ってやる方がいい。


 お陰でアルカーク家の人間と使用人、特にメイド達は銀貨を惜しむことなく俺に投資してくる……顧客が増えるのは喜ばしいことだが、その為にわざわざ屋敷まで足を運びたいかと言えば否だ。


「はぁ~……癒されるわぁ。こういうの、五臓六腑に染み渡るっていうのねぇ~……」


 キャスト達とは違い、間延びした声を上げてうっとりした表情を浮かべる。


「凄く今更な質問なんですが、年頃の男に肌を晒すのに抵抗ないんですか?」

「ん~……先生は大丈夫よ~。わたしぃ~。こう見えて人を見る目が……ふぅ~、あるからぁ~……あぁ、そこ……そう、そこ摩って……気持ちいいから……」

「何て言うか、無防備ですね。する方は楽でいいんですが」

「信頼のあかしよ~。……それより先生、結婚は~、しないんですか~?」

「相手がいないので」


 こっちにきて知ったことだが、この世界の人間はとにかく早く結婚しようとする。


 貴族の結婚事情は知らないが、身分に関係なく一五歳から二十歳にかけて結婚するのが一般的であり、二○代半ばともなれば行き遅れと言われる。


 地球と違い、まともな福祉社会がないというのもあるが魔物の脅威や盗賊の凶行、魔族の侵略、ドラゴンの災害等が突発的に起こる世界だ……早く結婚して、子供を作って自分が老いた時に面倒見て貰う、或いは護って貰おうと考えるのは当然の帰結だ。


「あの奴隷ちゃんはぁ~、どうなの~?」

「可愛いのは認めますよ。実際、ドキドキする瞬間はありますし」


 例えば着替えの時とか。

 ワンルームのアパルトメントでは着替え用の部屋なんてないから彼女シャルロットを買った翌日に胸ぐらいの高さのある仕切りを一枚買って、そこを着替え用のスペースにした。


「私は奴隷ですからそのような気遣いをしなくても結構ですよ」


 結局、押し切る形でシャルロットは説得したが故意か無意識か、座るときはよくピタリとくっついてくる……拒む理由もないし、拒絶も出来ないのでそのままにしているけど、勢い余って手を出しそうだ。


「でも、そういう無理やりってなんか嫌ですから」

「でもぉ~、嫌いじゃないのよねぇ~」

「ですね。まぁ彼女自身、奴隷であることを気にしてますから恋愛になることはないと思います」

「あらそうなの~。私に娘がいれば~、紹介してあげたんだけどねぇ~……」

「子供がいらっしゃるのですか?」

「いるわよぉ。王都でぇ、騎士をしてるのよ~」


 流石に英雄の息子ともなれば冒険者だと外聞が悪いか。

 そんな感じで世間話を挟みながら順次、希望者に対してマッサージを行っていく。


 仕事でしていることとは言え、ビフォーアフターの如くぷるぷるですべすべでしっとりした肌へ生まれ変わる過程を見て、それに感激する女子の姿を見るのは……まぁ悪い気はしない。


「なんならぁ、独身のお嬢様の紹介、するわよ~。こう見えて私~、顔が広いからぁ」

「貴族は怖いので勘弁してください。……ハイ、終わりました」


 アンジェリカ様のマッサージが終わると、次は屋敷勤めのメイド達の番だ。

 番なんだが……アンジェリカ様と同じように背中を晒し出すところを見ると、恥じらいがあるのか疑ってしまう。


(いや、俺を異性として評価してないだけだ……うん、そうに違いない)


 でなければ、イケメンでもない男に肌を晒す訳がない。


「先生のお陰でずっと片想いだった彼と付き合うことができたんです! 本当にありがとう御座います!」

「この前、お客様がお見えになられたとき、私なんて愛人にならないかって誘われちゃったんです! その人は奥さんに足踏まれてましたけど」

「ふふっ、これで街の男達は放っておかないわ。……がっつりご飯驕らせて貰わないと……。あ、勿論先生にはそんな無粋な真似しませんよ? おほほほほ……」

「そうですわ先生、この際私と結婚しませんか! 敏腕メイドな奥さん……いい響きだと思いません?」

「えぇっと……」


 こういう時、どうあしらえばいいのか分からない。

 俺の持っている金と整体魔術が目当てなのは百も承知だけど、それをストレートに言うのは露骨過ぎる……大人は本音と建て前を使い分ける生き物だ。


 二○年、三○年とこの世界で生きていくなら結婚はアリだし、どんな形で生活能力が奪われるか分からない。


 そう考えれば結婚はするべきだと思っている、けど……臆病な心が根強く残っている俺はどうしてもその一歩が踏み出せない。


(異世界転移系の主人公は何故か異世界へ行った途端アグレッシブに攻めて片っ端から女の子と仲良くなってハーレム築くよな……今考えると凄いよあれ。他にも積極的に奴隷買ったりして……あれ? それ考えたら結婚じゃなくて奴隷買えば済む話なんじゃないか?)


 意外なところで解決策が見つかった。

 相手の面倒をキチンと見て一定の信頼を勝ち取れば老後の面倒とか見てくれるかもしれないし、名案じゃないか。


 ……と、思ったけどそもそも奴隷には人頭税がかかるからその辺も詰めていく必要がある。


「まぁ、好みの娘がいたら……」

「先生は、どんな娘がお好きなんですか? やはり料理の上手な娘がいいですか? それとも、実はエッチな娘が好きだったりして?」

「もぉ、アンタじゃないんだから。そりゃあ先生だって男だし、そういうのに興味はあるでしょうけど露骨過ぎるわよ」

「そうそう、殿方って変なところでシャイなんだから……そういうのは、寝室で二人きりの時に、ね?」

「……詳しいですね。恋人がそういう人なんですか?」

「もぉ、先生ったら……独身に決まってるじゃない。今のは受け売りよ。それにさ、こういう仕事しているとなかなか出会いがないのよ。だからこそ、貴族様が開く婚活パーティは誰もが命懸けになるものよ」

「子供が出来ないと人口の低下に繋がって国力の低迷に繋がる……というのは貴族の受け売りね。だから、私達のような使用人にもそういう出会いの場を設けてくれるのよ」


 そうか……この世界は平民でもするんだ、婚活パーティ。

 どんなパーティか知らないけど、合コンみたいに個室でワイワイするんじゃなくて庭でする立食パーティに近いかも知れない。


「先生もどうです、婚活パーティ。先生の能力を売り込めば愛人囲むのだって夢じゃないわよ?」

「腕っ節が致命的ですから。何かあったとき、頼れるのは純粋な力でしょう?」


 日本の女と違い、この世界の女共が男を決める基準の一つに腕っ節がある。

 最高を言えば貴族に見初められることだが、現実的な落とし所を思えばそこに行き着く……魔物が蔓延る世界だから当然と言えば当然だ。


 加えてこの世界の男共はイケメン揃いだ。

 勿論、ジャニーズ系のイケメンも多いがそれはもっぱら貴族達で、冒険者はスポーツ選手のようなイケメンが多い。


 ああいう人達って普段はそんなに印象に残らないけど試合中の顔はなかなかいいと思える……つまりはそういうことだ。


 商人も貴族ほどではないが人気ではあるものの、そういう知識人は相手にも相応のモノを求める傾向が強いので倍率も高い。


 メイド達も俺の言葉を受けて苦笑を零しながら頷く。

 その反応が、全てを物語っている。


 メイド達へのマッサージが終わると、報酬の銀貨を受け取ってあてがわれた部屋へ案内される。


 屋敷の客室は今、聖凰騎士団の関係者で埋まっているので離れにある使用人が使う宿舎へと案内された。


「先生をこのような場所へ案内するのは筋違いかも知れませんが……」

「いえ。キチンと眠れる場所であれば何処でも構いません」

「そうですか。それと、この部屋の周りは誰も使っていませんので」

「? ……はい」


 なんでそんなこと言うんだ?

 首を傾げながらも宛がわれた部屋へ入り、椅子に腰掛けて頼んでおいた新聞を受け取って読む。


 今朝は時間がなくて見ることの出来なかったニュース欄をじっくり見て、詰め問題をうんうん唸りながら解いて、さぁもう寝ようかと思った時、ノック音が響いた。


「御主人様、まだ起きていらっしゃいますか?」

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