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ギルドからの依頼

 突然だが、冒険者ギルドについて説明しよう。

 冒険者ギルドの主な仕事は巷に蔓延る魔物の討伐を有償で引き受けること、突発的に出没する迷宮攻略、そして未開拓地の開拓だ。


 王都のように騎士団の威光が強い地域ならともかく、メリビアのような地方都市というは外の討伐にまで手が回らないので、魔物を討伐し、利用価値のある素材を回収してくる冒険者の存在は必要不可欠と言っていい。


 未開拓地の開拓というのは単純に、人の領域を増やす為の手段だ。

 魔物の領域へ先発隊として冒険者を送り込み、ある程度の安全を確保した上で騎士団を投入し、開拓村や砦を作っていく。


 国家間で戦争が起きた場合、ギルドに所属する人間に対して強制的な徴兵は出来ないが、自発的な参加は自己責任という形で認められてる。


 他にも、商人や貴族から下請けの仕事を受けて、ギルドが窓口となってそれを紹介したりするケースもあり、こういった冒険者でなくてもできそうな仕事は誰でも受けられる。


 冒険者ギルドというのは、元の世界で言えば就職斡旋所に近いかも知れない。

 ……その冒険者ギルドに、俺は今来ている。


(考えてみればギルド側の扉を使うのは久しぶりだな。一年ぶりか?)


 酒場側の入り口はちょくちょく利用しているけど、ギルド側の入り口は本当に久しぶりだ。


 パルシャークとタツヤを先頭に、シャルロットを隣に侍らせてギルドへ入る。

 むわっと、汗と血の臭いが一気に鼻孔を刺激し顔を歪める。

 ただ、臭いに反してギルド内はそれほど猥雑とした雰囲気ではなかった。


 打ち合わせ用として設けられたテーブル席に座って今後の方針について話し合うパーティも居れば臨時を募るメンバーも居る。


 依頼掲示板クエストボードには規則正しく依頼書が張られ、重要度の高いものは目立つよう赤い塗料を使って四角を描くように線が引いてある。


 こうして見ると何処かの待合所のように見えなくもないけど、筋骨隆々の重戦士やイケメン剣士の比率が五:五で混ざっているのはちょっとおかしい。


 ただ、やはり魔術師らしき者は見えないが、魔術師だからと言ってそれっぽい格好をしているとは限らないと思い直す。


「おい、アレ……」

「間違いない、タツヤさんだ」

「オーガの両腕を笑いながら素手で引きちぎったっていう、あの……」

「いや、俺が聞いた話だと地竜の突進を片手で止めてそのままぶん投げたらしいぜ?」

「いや流石にそれは吹かし過ぎだろ。そんなの宵闇の鷹の団長にだってできやしないぜ?」

「そういやこの前、ゴブリンの巣を掃討する時、魔術を使ってたな。なんかスゲー派手な炎がぶわーって出てた」

「横取りしようとした剣牙兵団と一戦やらかした時は全員、生きたまま戦闘不能にしたらしいぜ? あいつらの怯えっぷりを見る限りマジだろう」

「ていうかさ、隣歩いてる女と後ろの二人誰? パーティ募集してたって話聞いてないけど……」

「前の姉ちゃんもなかなか上玉だな……てか、後ろの姉ちゃん、貴族様か? メリビアの娼婦と見間違うほど綺麗じゃねーか」

「もしかして、タツヤさんの愛人? じゃああの男は……下僕?」

「だろうなぁ。いいとこ言って。大方、おこぼれに預かりたいって輩だろうな」

「線も細いし大した武器も持ってねぇ……まさかアレで冒険者名乗るんじゃねぇだろうな? ハッ、だったら俺は笑ってやるぜ!」

「…………」

「シャルロット」

「分かってます」


 俺の悪口が出て来た辺りでシャルロットがむすっとしたので念の為、諫める。

 彼女に限って問題を起こすとは思えないが、用心に越したことはない。


「それよりタツヤ、お前何やらかしたんだ? 連中、メッチャこっち見てるぞ?」

「さぁ、俺にとっては普通のことだからな。……まぁ噂されてる内容の殆どは事実、とだけ言っておこう」

「チート野郎が……死ねばいいのに」

「美少女侍らせて娼婦達から先生、先生とチヤホヤされてるお前に言われたくねぇよ」


 ごもっとも。


「二人とも、世間話はそれくらいにしてくれ。奥で依頼人が待っている」

「済みません」


 店長の上辺だけの叱責に平謝りして、気持ちを切り替える。

 今日、ここへ来た目的……言うまでもなく商談に関わることだ。


 ただ、いつもならそういう商談(・・・・・・)をする時は店長の自宅でするんだが、今回に限って何故か冒険者ギルドの会議室を利用することになった。


「ギルドマスター、パルシャーク様ご一行を連れて参りました」

「通せ」


 え、今回の依頼人ってもしかしてギルドマスター?

 そんな事を漠然と考えながら開けられた扉を通ると巨大な魔物の骨らしき素材を加工して作られた長テーブルと、これまた魔物らしき素材で作られた椅子がずらりと並んでいる。


 上座に座っているのはギルドマスター……と、思われる男。

 左目の眼帯に豊かに伸びた顎髭に、小綺麗な衣服を纏った、歴戦の強者を思わせる推定五○代のオッサン……何処かジオドール様に似ているな。


 そして向かって右隣に座っているのは三○代に見える男性で、上座の男と比べるとどうしても線が細く見えるが、決して痩せている訳ではない……比較対象が悪いだけだ。


 こちらに気付いた男性は軽く会釈をする……顔についてはもう言わない。

 負けると分かっている戦いに身を投じるほど、馬鹿ではないからだ。


「お初にお目に掛かる、パルシャークよ。ワシが冒険者ギルド・メリビア支部のギルドマスターを務めるガッシュだ。こっちはクラン・宵闇の鷹のエリオットだ」


 わぁお、なんか凄い面子が揃ってる。

 シャルロットも場の空気に当てられて完全に萎縮してるよ……何となくって理由で連れてきたけど、失敗だったかな。


「初めまして。団長のエリオットです」

「ほぉ、貴方があの有名な宵闇の鷹の団長ですか! レッドドラゴン討伐の話は私も伺っておりますが……いや、流石は一流クランを束ねる団長ですね」

「運が良かっただけです。団員達も頑張ってくれましたから。私もメリビアの娼婦の噂は聞いております。何でも、この世で最も美しい女性だとか?」

「いや、恥ずかしながら私は経営を担当しているだけでね。美しさの秘訣に直接関わっている訳ではないんだ」

「そうですか。私もこの仕事が終わったら早速楽しませて貰いますよ」


 二人の社交辞令全快の挨拶が一通り済んだところで、ギルマスがわざとらしく咳払いをして、着席を促す。


 シャルロットは座らずに壁際に待機している……奴隷だから座ってはいけないという決まりでもあるのか?


「あの……長話になるようでしたら彼女を座らせてもよろしいですか?」


 こういう場面で、こういう質問が許されるのかどうか分かりかねるが、立ちっぱなしにっせるのは不憫だ……使用人じゃあるまいし。


「ふむ……まぁよかろう」

「ありがとう御座います」


 着席許可を得たシャルロットは当然のように俺の隣へ座る。

 娼館のキャスト達に仕込まれたのか、或いは奴隷商会でそういう教育を受けてきたのか、音を立てずに座って見せたのはちょっと感動した。


「さて、本日ここにお呼びだてしたのは他でもない……ワシと、エリオットからの依頼だ。ワシからの依頼はアースランド王国に本店を構えるルーブル商会との取引の際、接待の一環としてパルシャークが経営する娼館の娘をお借りしたい。ワシも何度か足を運んだが見た目だけでなく品性、教養、技術……どれを取っても文句なしじゃった」


 遊びに行ったのかよ、その歳で……元気だなぁ。


「自慢の商品をそのように褒めて頂けるのは大変光栄ですが、娼館の娘達はあくまでも娼婦です。専門的な訓練を受けたプロの接待には及びません」

「それについてはこちらで手配しよう。ぶっつけ本番でやらせるよりは事前に訓練を積んだ方がいい。付け加えるなら見目麗しい女性に世話をされた方が男心を揺さぶるには何かと都合がいいのは主が良く理解しているであろう?」

「否定はしません。……ふむ、報酬次第では受けても構いませんが、そちらはどの程度の対価を用意してますか?」

「まず、前金として二○ゴールド渡す。商談成立の暁には倍額の四○ゴールド支払う。どうだ?」

「拘束期間はどの程度ですか? 店の娘達を借りたいと仰いますがどの程度、融通すれば宜しいですか?」

「出迎えから夜の接待までを予定しとるから……丸一日だな。接待するのはルーブル商会の店長と幹部達と合わせて五人……一人につき二人で接待させる予定だ」

「…………」


 店長の顔が険しくなる。

 一日だけとは言え、一○人のキャストが一気にいなくなるんだ……店側の経営に大きな影響が出るのは明白だ。


 女神の園は娼館で待機してるキャストを含めて三○人体制で回している。

 最近は商人・貴族連中も羽振りが良いようで二人同時を所望する客も増えている……その点を踏まえて一日限りとは言え、三分の一を引き抜かれるのは営業に支障が出る。


 休暇のキャストを臨時投入するのも一つの手だが、ギルマスが要求しているのは間違いなく店の主力だ……間に合わせのキャストでは納得しないに違いない。


 ましてや今回の仕事は不慣れな接客だ。

 風俗も立派な接客業ではあるが、土俵が違う。


 お喋りでワッショイして身体を張るのが彼女達キャストの仕事なら、接待は喋り方、案内、給仕に至るまで、あらゆる面で気を使わなければならない。


 自然、業務外の仕事を要求される彼女達もまた店側に要求をしてくる。

 そして連鎖的に俺にも被害が出る……つまり、仕事が増えるのだ。


「……女神の園から出せるのは五人までです。足りない分は聖女の後宮の店長と交渉して下さい」

「一日ぐらい店を休んでも問題なかろう?」

「その一日が、お客様の信用問題に繋がる場合があるんです。研修中のキャストでもよろしければ残りの五人はその娘達で補いますが?」

「粗相があっては困るのはお互い様じゃろ。一○人だ」

「私の返事は変わりません。繰り返しますが女神の園から出せるのは五人まで。残りの五人は聖女の後宮との交渉して下さい。それが出来ないようであればこの話はなかったことにします。私の背後関係を知ってるガッシュ殿なら無理強いは出来ないでしょう?」


 店長、さり気なくアンジェリカ様とジオドール様の威光を借りてきたな。

 そりゃ接待に娼婦を使っているなんて話が領主の耳に入れば……処罰は出来なくても何かしらの不興は買うだろう……特に社交界に強い繋がり持ってそうなアンジェリカ様とか。


「……五人なら前金は一○ゴールド、成功報酬は二○ゴールドだ」

「商談成立ですね」


 ギルマスが条件を変えると同時に素早く言葉を被せる店長。

 まぁ、店の実情を考えれば落としどころとしては充分か。


 娼館の店長をしているパルシャークさん……というかこの界隈で娼館を構えてる店長陣は支店を出す気がない。


 元々メリビアの風俗店は充分な数が揃っているから今以上に増やす理由がないし、地方へ店を構えるにも相応の教育を受けた人材がいないのと、クオリティの維持が困難(というかわざわざ他の街まで出張したくない俺個人の我が儘)である、という理由から現状維持に努めている。


 ……流石に腹の中までは読めないけど。


「詳細については後ほど詰める。次はエリオットの依頼だ」

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