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遭遇

登場人物欄を更新しました。

 同居人が一人増えたところでやることが増えた訳じゃない、寧ろ私生活の面では大いに楽ができるようになった。


 朝起きるとシャルロットが当然のように朝食を準備しているし、掃除だって積極的にしてくれる……流石に水汲みは大変だろうから俺がやることにしてる。


「私は奴隷ですから、このぐらいは当然です」


 そう言い切るシャルロットに思うところがない訳じゃないが、とにかく俺は楽ができる……これぞまさに実家のような安心感だ。


 楽ができると言えば、仕事でもシャルロットはなかなか使える。

 順番待ちをしているキャスト達に対して足裏と背中のマッサージをするよう指示してやらせていたんだが、ここで意外な効果が発揮された。


 事前にマッサージを受けたキャストの身体の変化、ざっくり言えば整体魔術がより効率的に効果を発揮するようになった。


 正式名称は分からないので便宜的に『ツボが開いてる』と呼んでる。

 正しくマッサージを行えばより効率的にツボを開き、整体魔術で練り上げた魔力が浸透しやすくなるので、シャルロットにはとにかく場数を踏ませてマッサージ技術を磨かせる。


「シャルロットちゃんが来てからますます身体の調子がいいわ」

「仕事柄、お酒も入るから二日酔いがすぐ治るのって本当ありがたいわね」

「足裏は足裏ですっごく気持ちいのよ~」


 このように、彼女は顧客達の間ではすこぶる評判がいい。

 真面目に仕事に取り組んでいる姿勢も相まって、人間関係はまさに良好と言ってもいい。


 ……だからと言ってちょくちょくシャルロットに何かを吹き込むのは辞めて欲しい、悪影響が出たらどうするつもりだ。


「あぁ、先生。申し訳ないんだけど可愛いお弟子さん、借りるわね。女の子同士、ちょーっと内緒話したいから。あ、帰りは馬車手配するから心配しないでね」


 という訳で今日の俺は早上がりして久々の一人だ。

 火傷跡の治療は未だに継続中だが、もう二回治療すれば完治する。


(ふむ……考えてみれば一人きりというのも久しぶりだな……二週間ぶり? そんなに久しぶりって程でもないか)


 良い娘だし、我が儘言わないし、積極的に手伝ってくれるし、何より可愛い。

 胸は……名誉の為に追求しないが大した失点にはならない。

 さて、久しぶりに一人になったのはいいがぶっちゃけやることがなくて困る。


 メリビアで娯楽と言えば呑む・打つ・買うのどれかだ……劇場は首都にしかないし、旅一座が来たという話も聞いてない。


 家に帰って家事仕事をしようにも、無駄に仕事のできる奴隷のお陰で俺の出番が全くない……というか俺より上手いから手を付けると余計な仕事を増やしてしまう。


「……久々にギルド併設の酒場で飯食うか」


 一等地区だと高級感ありすぎて逆に引くし、三等地区のご飯は食べたくない。

 何だかんだで二等地区の飯は可も無く不可もない、丁度いいレベルの飯屋が丁度いい価格で出されている。


 ギルド側から中へ入るとつい今し方、ダンジョンや討伐先での荷運びの仕事を終えた出稼ぎで来た農夫達が一杯引っ掛けているところだった。


 メリビアの冒険者支部のスペースは広く、食事スペースだけでも優に一○○人は収容できる。


「おい、いい加減にしろ!」

「お前らに出す依頼なんてないんだよ、とっとと失せろ!」


 ただ、どうやら今日に限って言えば何やら騒がしい。

 よせばいいのにと、冷静な自分が告げている一方で、好奇心旺盛な自分は理性に反抗するように身体を騒動の元へ誘導する。


 騒ぎの元凶は受付付近で順番待ち……を、していたであろう冒険者達と、瀟洒な服を纏った女性が頭を下げ、その女性を護るように立っている騎士。


 前者の女性は黄金を煮詰めたような金髪の持ち主で、騎士もまた金髪ではあるが、こちらは肩まで揃えている。


 ついでに二人とも、俺が面倒見ているキャスト達に劣らぬ美形だ。

 それだけなら騒ぎの理由が分からなかったが、ある部分を見た時、騒動の原因を察した。


(エルフ? こんな街中で?)


 エルフと言えばファンタジーでは定番の種族とも言える、アレだ。

 美形揃いで、スレンダーな身体の持ち主で、総じて魔力が凄いあの種族だ。


 その偏見に漏れることなく、この世界のエルフ達は生粋の魔術師と言ってもいいぐらい、魔術の才能に恵まれている。


 長命で才能豊か、そして他種族を見下している──人里でお目に掛かる機会など滅多にないのでエルフを知る術は噂を調べるか、根気よく探し回るかのどっちかになるが、あの二人に限って言えば高慢な態度とは無縁のように見える。


「お願いします。どうしてもお金が必要なんです。ですからどうか依頼を受けさせて下さい」

「頼む、この通りだ……」

「ふざけるな! エルフに出すような依頼なんてねぇ!」

「どうしてもやりたいならドラゴンでも狩って来るんだな。そしたら金貨一○○枚でも二○○枚でもくれてやるよ!」


 あー……これそういうパターンね。

 新聞で得た情報だとエルフ国はレッドドラゴンの襲撃に遭って陥落した。


 で、命辛々生き延びたエルフは生活費を稼ぐ為にメリビアへやって来たまでは良かったものの、過去自分達がしてきた振る舞いと二○年前の戦争で傍観を決め込んだのが原因で、こうして迫害を受けている、と……。


「おい……」


 ひとまずこれ以上、騒ぎを大きくされたら面倒極まりないので仲介に入ることにする……ギルド職員でもないのに何故俺がこんなことを、と思わなくもないけどさ。


「なんだテメェ、エルフの肩持つ気か?」

「お前達は冒険者だろ? そんなみっともない(・・・・・・)ことするな」


 言外に、『エルフなんかに手を出すのは三下のすることだ』と告げる。

 冒険者もまた、貴族と同じ面子を大事にする節がある。

 俺には到底、理解できない感情だがそこを上手く突けば、或いは……。


「……チッ、そうだな。お前の言う通りみっともない」

「行こうぜ、エルフなんかに構ってたら冒険者の格が落ちちまう」


 こちらの読み通り、彼等はエルフに対して興味をなくし散っていく。

 やはりこの世界ではエルフに対して強い差別意識が残ってるらしい……まぁ俺は当事者でも何でもないからそこまで酷くはないが。


「平気か?」

「済まない……恩に着る」

「私からも御礼を言わせて下さい……危ないところを助けて頂きありがとう御座います」


 瀟洒な服を着たエルフがお辞儀をすると、騎士エルフもそれに追随する。

 噂は所詮、噂でしかないのか……或いはこの二人だけが特別なのか判断に困るところだが、目的は果たした──


「それで……助けて貰った手前、こんなことを言うのは厚顔無恥であることは重々承知しているのだが……」

「…………」

「……仕事を、くれないか?」


 ──前言撤回、どうやらまだ用事は終わってないようだ。


「い、いや! 仕事でなくてもいいんだ! 例えば……そう、買い取りだ! マジックアイテムの類ならいくつか持ち合わせがあるんだ!」

「えーっと……」


 どう対処すべきか少し悩むな。

 マジックアイテム……研究職の魔術師達の間で盛んに研究されている分野だが、下級貴族であっても購入には相応の資金が求められる高級品が多い。


 戦闘用に開発されたマジックアイテムは……少なくとも俺は聞いたことがない。


「マジックアイテムの他にも装飾品は如何ですか? 私の身に着けている物になりますが」


 回答に窮しているとお姫様っぽいエルフが身につけている装飾品を指差しながら勧めてくる。


 ダイヤモンド、ガーネット、トパーズ、クリスタル、サファイア、エメラルド……ネックレス一つ取っても、それらが贅沢に使われているにも関わらず華美な印象は受けないのはデザイナーの腕だろう。


「その前に一ついいですか? 何故あなた達はお金が必要なのですか?」


 正直、金の無心をするなら冒険者ギルドはかなり分が悪い……というか何処へ行ってもエルフは歓迎されないと思う。


「それは……」


 チラリと、騎士エルフはお姫様エルフを見て視線で尋ねる。

 小さく頷いたのを確認してから、騎士エルフは口を開く。


「……殿下の姉君が病に伏している。その治療費を捻出するのに、金が要るんだ」

「最初は、この街の治癒魔術師に頼み込もうとしたのですがお金がなければ診断はしないの一点張り。エルフ国家には人類国家のような貨幣が出回っている訳ではありません。ですから、どうしてもお金が必要なのです」

「病気か……」


 それなら俺の整体魔術でどうにかなるかも知れない。

 肺癌とかペストとか、そういうヤバいのはもう治せる自信はないけど。


「……もしかして、貴方はお医者様であられますか?」

「一応……という言葉が付くけど」

「で、でしたら姉を診て貰えないでしょうか!? 勿論、相応の謝礼は致します! ですから……!」

「私からも頼む。……どうか、姫殿下を治して欲しい」


 あぁ、これはもう断れないパターンだ。

 静かに溜め息を吐いた俺は『診るだけ診るけど期待はするな』と、釘を刺して引き受けることにした……もう少し冷酷な人間になれたらもっと楽な人生歩めたかも知れないのに、はぁ。

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