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買い物タイム

「服と日用雑貨を買おう。話はそれからだ」


 これは、真っ先にやらねばならないことだ。

 何かの植物で編んだサンダルと麻の貫頭衣ではあまりに酷すぎる。

 火傷の跡目立つというのもあるけど、それを差し引いても見窄らしい。


 ただでさえご近所づきあいがアレなんだ……その上、こんな格好の女奴隷を連れ込んだと知られた日には……。


「でしたら、まずは服を買いましょう。私と先生が贔屓にしているお店があるんです」

「へぇ……。お前あまり服に頓着しているようには見えないけど」

「いや、こっちは経営相談の類だ」


 娼舘相手に商売を始めた当初、店のシステムはあまりに単純だった。

 キャストを選ぶ→部屋に入る→お楽しみ→終わり


 一○年、二○年続く取引先であって欲しい事、店長が経営のことで悩んでいた事、二つの理由から大々的にテコ入れをした。


 その中の一つがコスプレ衣装であり、その為のデザイン案だ。

 実際、コスプレは評判がよく瞬く間に流行り、キャスト達にも受けが良かった。


「なぁ、ここにある服さ、魔女の館で見たことあるんだけど……」

「魔女の館だけじゃないぞ。三等地区・二等地区の娼館で使われてる服は全部ここで卸してる。因みにデザイン案出したの俺」

「……魔女の舘の娘達の名前がやけに日本っぽいのもお前が?」

「源氏名のこと? あぁうん、それも考えたの俺。これは全店舗共通」

「先生は画期的なアイデアを次々と打ち出して、あっという間にメリビアの色町をもり立てたんですよ」


 リーラが我が事のように自慢するが、本当の意味での先駆者は俺じゃないので正直、微妙なところだ。


 子供二人の歩行速度に合わせてのろのろ歩き、時々気にしながら服屋を目指す。


 シャルロットは無言で俺の後ろを付いて歩いてる。

 面接の時から分かっていたけど、積極的に喋る娘ではない。


 話を振ればキチンとした受け答えが帰ってくるだろうけど、何を話せばいいのか分からないし……あぁそうだ、服の話題だ。


「シャルロットは何か希望する服はあるか?」

「服ですか? 私は奴隷ですので三等地区にある古着屋で充分です」

「却下。あれは不潔だ」


 本当に不潔かどうかはさておき、誰か着たか分からないような着古した服が平然と売られているんだ、そんなもの着たくもないし、俺の奴隷にも着せたくない。


 どうせ着せるならちゃんとした服がいいに決まってる。


「仕事を手伝ってもらう以上、服装には気をつける必要があるからな。遠慮しなくていい」

「分かりました」

「…………」

「……」


 どうしよう、会話が途切れた!

 いや、これは俺の話し方が悪かったのか?


 何となく気まずい雰囲気になったので何か話題を──と、思ったらリーラが目配せをして、さり気なくシャルロットの隣に移動する。


「シャルロットさん、少し宜しいかしら?」

「はい。何でしょう?」

「えぇ。実は──」


 リーラは当たり障りのない世間話から切り出し、シャルロットと話し始める。

 ……流石、ナンバーワンキャストともなれば話術もお手の物か。


 加えて、リーラの体躯はシャルロットよりも一回り大きいから通行人の視線からガードする役目も担っている。


 それに気付いたのは移動してからだったので、俺も遅れながら壁役に徹する。

 そんな調子で和やかなムードのまま、歩き続けているとあっという間に目的地へと到着する。


「いらっしゃい。……これはこれは、先生にリシェラリアーナさんではありませんか。本日はどのようなご用件で?」

「この娘に見合う服と下着をくれ。仕事用と普段着、予備はそれぞれ三つで」

「かしこまりました」

「先生、俺はちょっと外の空気吸ってくるから。店先にいなかったらお前の家に集合な。晩飯になりそうなもん買ってくるから」

「分かった」


 確かに子供の服選びであいつが居る意味はない、そもそも俺の奴隷だし。


「あの、御主人様……本当によろしいのですか? ここに置いてある服はどれも高級品のように見えるのですが……とても奴隷が着ていい服ではないと思うのですが」

「問題ない。このぐらいの出費で懐が痛むほど稼ぎの悪い仕事はしてない。だから、遠慮するな」

「先生の言う通りですわ、シャルロットさん。それに……折角女の子に生まれたんですもの、お洒落ぐらいしても罰は当たりませんわ」

「まぁ、そういうことだ」

「そうです。……それで先生、ズバリ訊きますわ。シャルロットさんにどんな服、着せて脱がしたいですか?」

「リシェアリアーナ様、お戯れが過ぎます。御主人様はお優しい方だとは思いますが私のような汚い身体ではお目汚しになることはあっても興奮するようなことはありません。それに、リシェアリアーナ様のような方が御主人様には相応しいかと存じます」

「そんなことありませんわ! シャルロットさん、あなたには将来性があります。それはこの私が保証しますわ。それに私、貴族のお嬢様みたいに愛人を許さないような度量の狭い女ではありませんよ? 今から大人用の服を買っておくのもアリだと思いますわ」

「えっと……」

「シャルロット、リーラのこれは平常運転だから適当に聞き流していいぞ。……店長、服の在庫状況は?」

「もぉ、先生ったらいけずですわ」


 店長と一緒に奥へ行き、服の在庫を片っ端からひっくり返す。

 一応、普通の服も販売している筈なんだが最近は俺が教えた女子校風の制服に触発されたのか、そういう服を中心的に作っている。


 別にこの店の店長が何を意欲的に作ろうが、俺は構わない……だがこれだけはハッキリと伝えておきたい。


「店長、スカートは絶対ロングだ。ミニスカが悪いとは言わんが俺の中では邪道だ。よってこれは認められない」

「何故ですか先生? あのひらひら具合、ニーソックスとスカートの間から顔を覗かせる生足、風に煽られて白日の下に晒されるパンツ……最高じゃないですか!」

「俺は、ロングのゆらゆら揺れる感じが好きなんだ。あと外へ連れ回すのも考えてズボンも用意しとけ」

「先生、ここはミニスカート布教の為に是非! あれは素晴らしいものです、あれが日常的な光景になれば私は服屋の息子として生まれてきた意味を見出せます!」

「お前の趣味に付き合う気はねぇしそもそもあの状態の娘にどうしてミニスカ穿かせる発想が出てくる!? つか商売人なら客の注文通りのモン持ってこい!」

「先生、ミニスカートなら壁に手を付ければそのまま楽しめますわよ?」

「やらないしやったら一発で部屋追い出されるから! てか何で詳しい!?」

「先生に犯って頂きたいシチュエーションの一つですわ」

「さいですか……」


 リーラも店長も、俺を何だと思っている?

 俺はブサメン、甲斐性なし、腕っ節なしの底辺這いずり回ってるだけの人間だ。


 この世界、男女問わず顔のいい人間は例外なく才能に秀でていることが多く、またモテる男の条件に腕っ節が含まれている。


 魔物が蔓延り、戦争だって何時起きても不思議じゃない世界のことを思えば腕っ節がモテ男の基準と考えても不思議じゃない。


 俺は魔物と戦う術が……ない訳じゃあないが、ハッキリ言って駆け出しに毛が生えた程度の腕しかない。


 暴漢とタイマンなら勝てないこともないが二対一だと多分無理。

 そもそも冒険者やってる連中はどいつもこいつも筋トレしていない筈なのにやたらと筋肉質で怖い。


 話が逸れたが、服は議論の末にシャルロットに選んで貰うという形で落ち着いた。


 何よりこれから冬を迎えるということを考慮すればミニよりロングの方がいいに決まっている。


「先生……もしあの娘の発育がいい具合になれば体操服など如何です? 先生、お好きでしたよね? 勿論、商売の恩人であられる先生からお代は取ったりはしませんよ。丁度、体操服を作るのに相応しい素材が手に入りましたので」

「……冬が過ぎたら、譲歩してやらないこともない」


 帰り際にしっかりと弱味を握られたことは最大の油断だった。

 巨乳に体操服……あれはいいものだ、奴隷を買った今なら夢じゃない。

 服を持って店を出るとタツヤはいなかった……何処まで散歩していることやら。


「ふぅ……先生ともう少しデートしていたいのですが、今日はこれから仕事ですの。はぁ……世界はなんて残酷なんでしょう。私はただ、先生に美しいと囁かれていれば、それだけで満足できますのに」

「リーラは綺麗だよ」


 これはお世辞でもなく本気でそう思っている。

 但し、存分に男の欲望視点からの評価だが。


 二の腕をすっぽり挟めるほどの立派な胸は重力に逆らうようデンと聳え立ってるし、腰だって細すぎず太すぎない……のは俺が調整したからそうなってるけど、プロポーションはリーラに限らず満点を付けてもいいキャストが多い。


 中でもリーラは元の素材が良いだけあって体つきといい顔つきといい、出会った女性の中でも間違いなくベストスリーに入るレベルだ。


「ありがとう御座います、先生。でも出来ればそれは、もっとムードのある時に仰って下されば言うことありませんでしたわ」

「悪いな、空気読めない男で」

「いいえ。殿方は少しぐらい空気が読めないくらいが丁度いいと思います。……では先生。またお店で」


 まるで洗練された貴族令嬢のように優雅にお辞儀をして人混みの中へと消えていく。


 後に残ったのは一抹の寂しさと、彼女が愛用している香水の残り香。


「さ、行こうかシャルロット」

「はい」


 店の更衣室で買った服に着替えたシャルロットと一緒にリーラの姿が雑踏の中へ消えていくのを見送ってから、我が家へ向かう。


 この娘の処遇についてはまだ漠然とこうしようというビジョンしかないけど、買った以上は最後まで面倒を見る。


 理想は自立できる能力を身に付けてから解放する。

 そこで俺の元を去ったなら……その時は仕方ないと割りきろう。


 目抜き通りを避けたいところだが、一歩裏へ回れば治安が悪くなるのはファンタジー世界のお約束であり、大した自衛手段を持ってない俺は進んで危険地帯に足を踏み入れる勇者じゃない。


 人混みに攫われないよう、細心の注意を払いながら進んでいるつもりなんだが、今日はやけに人が多い。


 それも見窄らしい格好をした年若い男が皆、一様にしてギルドのある方向へ……て、あぁ、もうそんな時期か。


「もうこんな時期か」

「こんな時期?」


 聞き慣れない言葉にシャルロットが聞き返す。


「あぁ、うん。晩秋頃から晩冬にかけて農村部は畑仕事をお休みするんだ。作物が育たないからね。で、畑仕事がなくても仕事はしなきゃいけないからこの時期は男達が一斉に仕事を求めてやってくるんだ」


 ギルド関係者もその点は心得ているのでこの時期はわざわざ仕事として出す必要のないような雑用の仕事を紹介する。


 例えば冒険者ギルドなら冒険者に同伴させて荷運びの仕事を紹介したり、徒党を組ませてゴブリン討伐に参加させて相場以上の金を落としたりする。


 港区に行けば大型船の荷下ろし、倉庫の整理と言った仕事が待っている。


「ホーゼ村は違うのか?」

「はい。面接の時にも話しましたが私の村では栽培した薬草を行商人に売って、そのお金で食料を買います。村の周りは険しい山に囲まれているので出歩くのも命懸けなんです。街と反対方向にある山なら比較的安全なので、冬前には村の男達が総出で狩りに出て冬支度をします」

「なるほど……」


 山に囲まれた村……そういう環境だからこそ、薬草を栽培するのに適しているのかも知れないな。


 シャルロットの説明に感心しながらそれとなく男達の会話に耳を傾ける。


「はぁ、今年はあんま豊作っちゃ言えねぇべ。ほんだらがっつり稼がねぇと飢え死にしちまうだ。来年には子供生まれるし」

「お前さんまーた子供生まれたべか? 奥さんべっぴんさんだからってやりすぎだべ?」

「せやなぁ、今年は魔物の動きが活発やった。蓄えもあまりあらへんから不安やねん」

「隣ん村もやられたみたいやし……なぁ知ってるか? エルフ国が落ちたって話」

「おっがねぇドラゴンさに襲われたって話だべ? オラの親戚の親戚がでけぇドラゴンさ見たって騒いでちょっとした騒動だったべ、ありゃ」

「まぁな。けど、そのドラゴンも宵闇の鷹がぶっ倒したって話だ。しばらくは安心だろ」

「いくさが終わっても争いやなくならねーらん……クヌ国やなんくるないさーやがや?」

(なんか色んな方言混ざってる……)


 なに、何なの……田舎の人間って皆そうなの?

 標準語話してる人もたまにいるけどさ……ファンタジー補正なの?


「……皆さん、生きるのに必死なんですね」

「そうだな」


 千鳥足でギルドへ向かう若い衆を傍観しながら足を進める。

 にしても、エルフ国が落ちたって話は新聞で知ってたけど、いざ自分に耳で聞くとやっぱり衝撃的だな。


 二○年前の戦争ではエルフ国は人類国家にも、獣人国家にも、当然魔族国家にも関わらず鎖国を貫いてきた……と、聞いている。


 ……ヤバイ、俺のラノベ脳が厄介毎が起きるから準備しとけーと警告してる。

 冗談じゃない、ここはラノベの世界じゃなくれっきとした現実だ。

 テンプレやお約束が現実のものになってたまるか。

 ……いかん、余計にフラグっぽく聞こえる。

 その後、自宅前でタツヤと合流できたので少し早めの夕食の支度を始めた。

二次元でもロングが流行らないのはおかしいと思う。

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