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閑話的な何か

「──以上が、今回の迷宮攻略の報告となります」


 メリビアの外壁に急遽作られた野営陣地、その最奥にある一際大きなゲルの中で難しい表情を浮かべたまま、報告を聞く男がいる。


 宵闇の鷹の団長、エリオット・ジャクソンである。


「たかが一つの迷宮攻略に我がクランがここまで手こずるとはな」

「魔霧の迷宮に充満する毒に冒された団員の中には死亡した者もいます。回復した者も少なからずいますが未だに伏せているのが現状です」

「ポーションを服用すれば多少の症状緩和が認められますが、初日の消耗が尾を引いてます。賢しい商人は既にポーションの値上げをし、こちら側の値引き交渉に対しても強気の姿勢を見せてます」


 幹部達の報告を、エリオットは黙って聞く。

 通常であるならば、今後の活動を考えて大きな被害が出た時点で断念するが団長としては正しい選択だ。


 しかし、今回の迷宮攻略はクランの意志ではなく王族からの依頼だ……そう簡単に『出来ませんでした』と言える相手ではない。


(私の読み違いだ)


 宵闇の鷹は迷宮攻略を専門としたクランだ。

 団員の質、実績、そしてノウハウ……それらを加味した上でエリオットは今回の迷宮も『攻略できる』と踏んで、依頼を受けた。


 が、蓋を開けてみればこの惨状。

 まだ許容できる範囲の被害しか出てないが、慎重に事を進めなければならない。


「サイト、治癒魔術師を雇う金は捻出できるか?」

「可能です。ただ、私個人の意見としては明確な攻略の指針を打ち明けなければ雇用は難しいと思います」

「だろうな。私が治癒魔術師なら見通しの悪いプランになど乗りたくもない」


 ギシッと、背もたれに背中を預けて天井を見上げる。

 実のところ、毒に対する対抗策が全くない訳ではない。


 教会が販売している防毒の護符を買い揃えるか、クランの財産である厄避けの御守りを装備すればいい。


 但し、防毒の護符は一枚につき効果時間が一時間と心許ない上に一シルバもする。

 迷宮攻略に掛かる時間を五時間とした場合、一人分につき五シルバ、一パーティ四人が基本の宵闇の鷹なら二○シルバの経費が発生する。


 加えて、魔霧の迷宮の階層はまだ全て把握してない以上、どれだけの経費が掛かるか分からない。


 一流クランとして世間から認識されてはいるが、資金が潤沢という訳でもない。

 厄避けの御守りは一番確実と言えば確実だが、クラン内に二つしかない為、こちらも現実的とは言えない。


「…………確か、この街にはタツヤが居たな。彼の状況次第では協力を取り付けるなり依頼を出すなりしてもいいな」

「タツヤですか? 吸魔の迷宮でミスリルやマジックグラスを調達して地道に金策をしているようです。元々ソロ活動している冒険者ですし、何より今回の迷宮攻略にはあまり関心がないように見られます。娼舘に足繁く通っているようですし、しばらくはメリビアに滞在するかと」

「ふむ。入れ込んでいる娼婦がいるかも知れんな……その辺も調査しておけ。他にも有能な人材がいたら適宜、勧誘しておけ。臨時か正規かは現場の判断に委ねる」

「了解しました。……それと、もう一つ報告が」

「なんだ?」

「……数日前、団員の一人が迷宮内の魔物が吐き出す毒素に犯されました。我々としてもその者が死ぬことは覚悟してましたが、偶然街で出会った医者によって完治したという話が上がってます」

「医者だと?」

「はい」

「その医者は、迷宮の毒に対処できると?」

「一度きりの事例なので、可能性の話になりますが……」


 軽く目を瞑り、熟考するエリオット。

 優秀な部外者を雇う案は元から出ていたから考えなしに切り捨てる理由はない。

 問題はその医者がどの程度使えるかどうかだ。


 危険な迷宮内に連れていく以上、護衛を付けなければならないのは当然として、解毒作業にどれだけ時間を取られるかという点も気になる。


 ただ、迷宮へ連れて行けないにしても病人を治療できるという点は魅力的だ。

 隔離した天幕には未だに毒素と戦い、苦しんでいる団員がいる。


「件の医者とも接触を図ろう。言うまでもないが宵闇の鷹の名を貶めるような真似は決してしないように」

「優先度はどうされますか?」

「お前に任せる」

「了解しました」


 その日の会議はそれでお開きとなった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 異世界転生した頃の相葉達哉には夢があった。

 某大手小説投稿サイトのチーレム主人公みたいな力を備えた彼はその瞬間、自分の人生は約束されたも同然だと信じて疑わなかった。


 事実として、達哉の才能は現存する英雄以上と言っても過言ではない。

 それこそ、神の気紛れで片付けてられない程の才覚を……。


 ──俺は絶対、美少女だけの国を作って俺だけのハーレム帝国を作ってやる!


 小さな島の漁村で生まれ、薔薇色の未来を信じて修行に明け暮れ、ようやく大陸へ渡航する金も貯まり、新天地へ足を踏み入れた達哉を待っていたのは、無情な現実だった。


 行き交う人々の中に紛れる女達は、故郷の村人に毛が生えた程度。

 貴族令嬢は揃って白粉で肌を真っ白にしていて逆に引く。

 冒険者の女は体型こそ問題ないが、男所帯で育ったせいか性格がキツい。


 ──こ、この世界に美少女はいないのか……。


 町娘が駄目なら、奴隷商会で美少女奴隷との出会いに全てを賭け、金貨を握りしめて暖簾を潜ってもお眼鏡に適う娘はいなかった。


 美少女がいないと、嘆く原因の大半は彼自身にある。

 まず、達哉は生前古典的なオタクであった為に、三次元の女に対してあまりに無知過ぎるということ。


 そして二次元系の美少女に慣れ過ぎたが故に、現実の女への要求・理想が高すぎて美女を美女と評価できないこと。


 勿論、全く琴線に触れなかった相手ばかりではないが、『この娘は……いやでも、うーんイマイチかも……』な評価に落ち着いてしまい、自らの手でチャンスを手放している。


 富も名声もある。

 一○歳の頃に冒険者ギルドへ登録、その後は各地で様々な活躍をしてきた。


 だが肝心の女がいなければどうしようもないではないか、何の為のチート主人公並みのスペックを持って生まれたんだ俺は……ッ!


 奇しくも彼がメリビアの娼婦に手を出したのは、もはや目的を見失いかけていた、まさにそんな時だった。


「金はある。吸魔の迷宮から出土する高純度のミスリル鉱石は売れるし、そもそもまともに活動できるのが俺だけだからな。だが……」


 そして現在──彼は再び酒場で飲んだくれていた。

 金に困っている訳ではない、入れ込んでいる娼婦といい関係になれないからだ。


 彼のようにメリビアの娼婦に入れ込み、どうにか身請けしたいとうんうん唸る若者はもはや町の風物詩なので誰も関心を払おうとしない。


「指名すれば会えるけど、なんか完全商売一筋ですーって感じだし、アフターも同伴出勤もしている……何がいけない。イケメン過ぎて逆に引いてるのか?」


 完全に搾取される男の図である。

 そして微妙に自惚れ家でもあった。


「あーお客さん、スンマセンが今混雑してるんで相席構いませんか?」

「あ? ……まぁいいか。あ、ビールお代わり」

「あいよー」


 いい加減な接客態度で迫ってきた従業員を適当にあしらい、追加注文をする。

 店員に案内される形でやってきた客が若い男だと知った途端、すぐに達哉の意識は思考の海に割かれる筈だった。


「はぁ、仕事休みてぇ……」

(なんだ、こいつ。いきなり仕事休みたいとかブラック企業勤めのリーマンみたいだな。ブラックなだけに髪のブラック……んん? ちょい待てよ?)

「休みたい……できれば一週間ゴロゴロしたい……俺は社畜になる為にこの仕事をしてるんじゃないんだ」

(社畜……黒髪……もしかしてこいつ……)

「なぁアンタ……」

「なんだ?」

「変なこと訊くようだけどさ……日本って国から来た人間か?」

「…………」

「その反応……やっぱ日本人だな」


 運ばれたビールを受け取り、しかしすぐには飲まずジッと相手を観察する。

 歳の頃は一○代後半、いっても二○歳かそこら。

 適度に伸びた髪にそこそこ上等な服の上から冒険者ではなく、一般人だと推測する。


 椅子の隣にある鞄が少し気になるが、気にしないことにした。


「まぁ、確かに日本人だけど……この広い世界で同郷の人間と、こんなトコで顔合わせるなんてどんな偶然だ」

「違いねぇ。……あ、俺相葉あいば達哉たつやな。冒険者やってる」

「たつや……んん? どっかで聞いた名前だな」

「冒険者の誰かが俺のこと噂してたのを聞いたんだろ? 別にドラゴン狩りしたとか、そういう武勇伝とかねーし」

「んー……それもそっか。あ、俺は白南風しらはえ清十郎せいじゅうろう。整体魔術っていう……まぁものすごーくマイナーな魔術を使って仕事してるマッサージ師だ」

「うはっ、異世界こっちだと怪しい仕事にしか聞こえないなそれ」

「そういう仕事してるの俺だけだし、そもそもそういう職業がないんだよ。てかお前何なの、転生した奴みんなイケメンなの? 死ねばいいのに」

「サーセン。ま、折角出会ったんだ。仕事終わりなら付き合ってくれよ」


 そこからは先程までの暗い雰囲気が嘘のように吹き飛び、トントン拍子で話が弾んだ。


 どういう経緯で異世界に来たのか、こっちに来てどんなことをしているか、そして自分の悩みについて……。


 男同士が腹を割って本音をぶつけ合って話すのは難しいのは周知の事実。

 しかし、お酒の力と久しぶりに故郷の人間に会えたことは心の片隅にあった寂しさを上手く紛らわしてくれた。


 清十郎がひたすら聞き役に徹していた事も、彼をお喋りにする要因の一つだった。


「えっ、なに? じゃあお前、あの超絶美少女な娼婦相手にエロいマッサージしてんの?」

「故郷で二度、手酷く振られた人間が今更恋愛するとでも?」

「リア充が……死ねば──いや死なないで下さいお願いします!」

「……なぁ、もう帰っていいか? 明日は超久しぶりに昼から出勤すればいいから寝たいんだけど……」

「いや待った……いや、待って下さい先生! どうか、どうか私と娼婦の間を取り持って下さい、お願いします!」


 これが、達哉と清十郎の出会いだった。

ちょっと余計なキャラとかも多くなってきたので次回は登場人物をまとめた物でもあげようと思います。


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