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夢を叶える為なら

作者:

童話なんて書いたことないですしおすし。

冬の童話祭2016用の作品です。

ある村に、一人の小さな女の子がいました。その子は、子供の少ない村に、少しだけ不満を感じていました。そうです。なぜか、その村には子供が少ないのでした。子供はいないのに、大人だけが増えていくのです。女の子の友達は、隣の家の男の子と、近くの林に住んでいる小鳥だけ。女の子は、いつか聞いた大きな街を夢みていました。

「私も遠くに行ってみたい。いろんな子と遊びたい。そこで、お母さんやお父さんと一緒に暮らすのよ…」


ある日、家の庭で、隣の男の子と遊んでいた女の子は言いました。

「ねえねえ。あなたは私だけで満足なの?」

男の子は土を掘る手を休めて聞き返しました。

「え?どういうことだい?」

女の子は、(じれ)ったそうにもう一度言いました。

「だから、もうちょっとたくさんのお友達と遊びたくないの?」

男の子は、それを聞いて、目を輝かせました。

「そんなことができるの?やったぁ!」

女の子は嬉しそうに言いました。

「決まり!街に行ってみよ!」


なにしろ、小さな子供の、突拍子もない考えです。街まで、大人が走ったって二日かかるというのに、パンを二つしか持っていかないのです。それに、街に行くためには、林を抜けていかないといけません。林の中には、危険な動物がたくさんいます。夜になったら、どうなってしまうか。オオカミやクマが出てきたら、大人の男性でも敵わないのに… そんなことも考えないのが、幼児のかわいさなのかもしれないでしょうが。用意を済ますと、女の子は自分たちを元気付けようと、言いました。

「きっと、お月さまが見守ってくださるわ」

大人たちには内緒のお出かけです。強がる男の子は言いました。

「お母さんやお父さんが付いてきたら、うるさくてつまらないもの!」

夕方、二人は静かに外に出て、手を繋ぎました。

「街が楽しかったら、お母さんもお父さんも呼ぼうね!」

知らず知らずのうちに、そう決めていたのです。


少しずつ夜になってきて、ただただ広い空に星がまたたき始めるころ、女の子と男の子は大きな樹の根元に座り込んでいました。歩いても歩いても、林が続くばかり。二人はくたくたに疲れて、大きく舟をこぎ始めてしまったのです。その時。

「まあ、かわいい子供達!どうしてこんなところにいるの?」

二人の頭上から美しい女の人の声がしました。女の子が聞きました。

「ねえ、だあれ?」

男の子が見上げ、小さく感嘆の声をあげました。そこには藍色のフードをかぶった、すらりと背の高い女性がいたのです。女の人は言いました。

「私の名前はローゼル。ここの近くに住んでいる魔女よ。あなたたち…大丈夫?暗い林の中にいて、よくもまあオオカミに襲われなかったわね」

ローゼルは二人に付いてくるよう促しましたが、女の子も男の子も、ヘンゼルとグレーテルのお話を知らなかったわけではないので、なかなかためらいました。でも、ローゼルの眼の中で静かに光っている光を見ると、疑いなどは吹き飛んでしまって、ただ、優しい魔女についていく気になっただけでした。


ローゼルは、とても平和な魔女でした。自分の寝る場所も削って、女の子と男の子を気持ちいいわらのベッドに寝かせてくれたのです。そして、子守歌も歌ってくれました。優しげな声は、ゆったりと二人を眠りに誘っていきました。

二人が寝静まったころ。

「あの子たち…とても強い意志を持っていたわ」

ローゼルは、子供達の為のおやつを焼きながら、一人で微笑みます。

「ちょっと…かわいがりたくなっちゃう♪」


次の日の朝、ローゼルは女の子と男の子と一緒ににんじんのパンケーキを食べながら聞きました。

「あなたたちは、どこに行くはずだったの?」

男の子が答えました。

「僕たちの村はね、友達が少ないの。だから、街に行って、たくさんの子と遊ぶの」

それを聞くと、この優しい魔女は、ある提案をしました。それは、とても素晴らしいものでした。


「いい?始めるわよ」

おいしいおいしい朝ごはんを食べ終わると、三人は、こぢんまりとした庭に出てきました。そこにはローゼルの育てたハーブがたくさん植わっていて、子供達の鼻をくすぐります。ミント、パセリ、バジル。見たことのない、人型の薬草も見つけましたが、それはマンドラゴラというのでした。

ローゼルが、手に持った海のように青い石をいくつか放り投げると、それは一つの大きな泡になりました。ローゼルは、子供達の願いを聞いて、安全にこの子たちを街へ連れていってあげようと思ったのでした。彼女が唄います。

「私の手から生まれた玉は、私の愛する子供達を守るでしょう。私の手から生まれた玉は、子供達の願いを叶えるでしょう。私の手から生まれた玉は、私自身。私の願いも聞きどけなさい」

この唄は、もともとラテン語の詩だということでした。そして、ローゼルは言いました。

「この泡の中に入って、行きたいところを言えば、必ずそこにたどり着くわ。私は行けないの。魔女とは本来、人々に恐れられる存在… 例え悪意が無かったとしてもね。さっ、行きなさい!」

彼女が二人の肩をそっと押すと、泡は自ら子供達を包み込みました。そのまま、小さな飛行船は、高く青い空へと登っていきました。

「いつかまた……どこかで会えたらいいですね。あなたたちの祝福のために」

女の子は鋭くローゼルの声を聞きつけて、聞き返しました。

「?今、何か言った?」

ローゼルは軽く手を振って答えました。

「いいえ。何も言ってないわよ」

もうその声も届かないくらい、泡は高く飛んでいました。


さて、ここで忘れてはいけないのは、あの村の大人たちです。みんな、たった二人の子供達がいなくなることを大変恐れていましたが、それがとうとう起こってしまったのです。地面がひっくり返ったような大騒ぎ。村人は、我先にと占い師の館を訪ねていき、さまざまな占いをしてもらいましたが、出てきた結論は全てほとんど同じでした。

「小さな子供達は、意志を固め、自分たちの願いを叶えにいくだろう。再びそなたたちがあの子たちに出会うのは、ずっとずっとあとのことだ」

これは、占い師が水晶玉やら動物の骨やらを村人たちにかき回されながら、ほうほうの(てい)で言った言葉です。いくら問い詰めても、これ以上詳しいことはわかりませんでした。女の子と男の子の親をはじめとした屈強な若者たちは、これからこの国を何周も巡ることになるのです。自分の村を捨てて…

灯台下暗し。子供達は、もう、林をたった一つ越えただけの場所にある街に、辿り着いていました。


それからずーっと、ずーっとあとのこと。大人たちは、やっとの事で女の子と男の子のいる街に足を踏み入れました。…いいえ。正しくは、元女の子と元男の子が住んでいる街に足を踏み入れた、と言った方が良さそうですね。大人たちが二人を訪ねると、あどけない子供達は、美しい大人に成長していました。


お説教をたくさん受けたあと、二人は驚くべきことを言いました。結婚の意志を表したのです。これには村人たちも大喜び。すぐに承知をして、結婚式の準備を整えました。

そして、その結婚式には、あの心優しい魔女も出席しました。もちろん、人間に扮して。ですが、歳もほとんどとっていないように変わらず美しかったので、花嫁も花婿も一目見ただけで、あの頃の記憶がありありと思い浮かんだと言います。



さあ、この物語はどうだったでしょうか。起承転結の少ない物語。こんなものでも、楽しんで読んでくれたら、幸いです。

閲覧ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章の表現が上手で、登場人物の気持ちもわかりやすいです。 主人公達のあどけなさが可愛い! 魔女の様な人になりたーい!
2015/12/16 18:49 退会済み
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