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私はパスワードを入力し、ヴァレリアの起動に成功しましたわ。
大きなモニター……と言うよりも本当に外が透けて見えているようですわね、ただ視点が胸の位置からでは無く、頭部からの視界ですから確かにこれはモニターに映っているだけなのでしょうが。
辺りを見渡すと、研究者と調査員がワイワイと騒いでおりますわね。
……それにしても一応この機体はライリー皇女専用機でしたけど、私が乗ってしまって宜しいのかしら。
『パスワードヲ確認、受諾、ライリー様ヲ検索……失敗……再試行……失敗……』
そんな事を考えていると、システム音声がコックピット内に響く。
『地域拡大……ソナー開始』
その瞬間、私の体がヴァレリアと一体化したような感じがした後、力が抜けるように体から何かが抜けて行くのが分かる。
いえ、何かでは無くこれがきっと魔力で、一体化したのは回路が正常に繋がったと言う事なのでしょうね。
そのせいなのか、このシステム音声が何をしているのか分かりましたし。
……システムと言えど悲しいですわね。
世界にソナーを発してライリー様をお探しになっても既にこの世界にはいらっしゃりませんわよ。
『……検索失敗……搭乗者トライリー様ノ整合率検索……四十パーセント、搭乗者ヲ認定……ヨウコソ新タナマスター、御名前ト魔力ノ登録ヲ』
魔力の登録は良いとして、私とライリー皇女の整合率が四十パーセント? これが全くもって分かりませんわね。
これは聞けば答えてくれるのかしら。
「私の名前はアメリアよ、魔力の登録は任せるわ、それとライリー皇女との整合率とはどういう事かしら?」
『――音声認識中――ヨウコソアメリア様……魔力登録完了……アメリア様トライリー様ノ遺伝子二同一性ヲ確認、アメリア様ハライリー様ノ御子孫又ハソレ二近イ物デアルと判明、パスワード入力成功及ビ遺伝子ノ整合率ノ基準ヲクリア……アメリア様ヲ主二認定、コレヨリ機体名称ヴァレリアハアメリア専用SVHヴァレリアト成リマス』
成程……って驚きの事実でしてよ!
まさか私……いえ、アゲット公爵家がライリー皇女と近しい者の末裔だったなんて、そんな話聞いた事もありませんし。
そもそも一度滅びて、と言うのは人間がでは無く文明がと言う事なのですわね。
そこからまた滅びることなくその血は薄まり、そして私に宿りしかも素質も高く、またこうしてヴァレリアに乗っていると言う事ですわね……何というか、ロマンチックとでも言えばいいのかしら。
それとも何の因果が働いたかと、見えざる神にでも睨みを利かせればよいのかしら。
兎にも角にも、何やら色々と動きだしそうな気がいたしますわね。
それに、此方の魔導帝国での乙女ゲームへの介入具合も考えなくてはなりませんし、兎に角やることが多いですわ、……ですが成り行きに任せればよいでしょう。
私は悪役令嬢アメリア・アゲットでしてよ! 必ず困難は退けて差し上げますわ。
「おーっほっほっほっほ、おーーーっほっほっほっほっほ、おぁーーっほっほっほっほっほっほ……はぁ久しぶりに思いっきり高笑いが出来ましたわ、これから高笑いをするときはヴァレリアの中でするのも良いですわね」
さて、辺りを見渡せば私……と言うよりもヴァレリアの頭部部分に何やら人が集まってしきりに此方に呼びかけているようですわね。
私は右手付近にあったボタンを押し、周囲の音を拾い、そして私の声も周囲に届くようにする。
「……か!」
「大丈夫ですかお嬢様!」
「あらスーフェ」
「お嬢様!」
「起動は問題無くてよ」
「それは良かったです……そろそろ調査班及び研究班は必要な機材を馬車に詰めて引き上げるそうなので、その機体はお嬢様に運んで貰う事に成りますが、宜しいでしょうか?」
「えぇ、どうせ私しか動かせませんしそれで構いませんわ」
「一応V型ヴァメリティには私とチェイスが乗りますので、道案内兼護衛とさせて頂きます」
「スーフェ貴女ウディアードに乗れるのですか!」
「え? 乗れますよ? 何を今更な事を言ってるんですか」
「いえいえいえいえ、今更も何も初耳でしてよ!」
「ウディアードの調査に派遣されている私が、ウディアードに乗れなくてどうするんですか? 最悪相手の機体奪取も私の仕事の内ですので」
「……今サラッと恐ろしい事を言いましたわね」
他国から機体奪取って……そんな危なそうな任務も命令されればこなせてしまうと言うのですかスーフェ……。
……フッ、流石は私のメイドですわーーーおーほっほっほっほ。
「お嬢様、心の高笑いが出ちゃってます」
「っほっほ……あら失礼、それで私の準備は何時でも大丈夫ですわ、どのくらいで出発ですの?」
「荷物の方は既に運んで、もう此処を出た人たちもいるっす、なので自分たちが搭乗次第出発っす」
チェイスさんの発言に、周りの研究員さん達は大わらわで準備をしてその場を離れて行く。
どうやら出発の心構えが出来ていなかったのですわね。
私はそんなおおわらわの人たちと、対象的にゆったりとヴァメリティに搭乗する二人を見ながらふぅとため息を吐く。
そう言えば、本当にここ数日は怒涛の毎日ですわ、ゆっくりお風呂に浸かりたいですの。
……ハッ! まさか今の私にお……いえ、公爵令嬢たる私が臭うなど……って私もう公爵令嬢では無いのでしたわ……、それでもお風呂には入りたいですわね。
私はそんな事を思いながら二機を見ていると、搭乗した二人が私の前でクロスされている剣を背に背負うように仕舞う。
「それで、どうやってここから出るのです?」
私達は今この四角い空間にとらわれていて、出口は人サイズですから、壊して出るのでしょうか?
「それは問題ないっす、そろそろ開く筈っす」
チェイスさんが言うと同時に、何やら大きな振動と音が鳴り響く。
そして出口の真上にウディアード用と思しき出口が現れる、両開きの扉がスライドして割れ通路が望む、きっと外に通じているのでしょう。
「それじゃあ自分が先に行くっす」
「次に私が、お嬢様は五秒後に続いて下さい」
「分かりましたわ」
タイミングを確認し合い、先ずチェイスさんの機体が歩き始め、フワリと浮いて滑走路に着地、そこからダッシュで外へと駆けて行く。
なんだか少し間抜けのような姿ですわね。
そしてその後をスーフェが同じように続き、五秒数えて私も出発する。
一応どのようにして操るかは分かっておりますが、それでも初めてというのは気分の高揚とそして緊張が伴う物ですわね。
足元のペダルを踏み込みながらレバーを操作してフワリと上がり、私は歩かずその状態で出口へと飛んでいく。
す、すごいですわ!
このような巨体が私の意のままに動かせるなんて……フフフ、これは本当に楽しくなりそうですわね。
そして直ぐに外へとたどり着くと、その風景は私の首を傾げさせるには十分の物でしたわ。
「漸く最後の一機が出て来たか、この墓荒らし共めが」
そこには、馬車が何代も止まり、その馬車に剣を突き付けているヴァメリティ、そしてそのヴァメリティとヴァメリティが睨み合う。
簡単に言えば、私達以外のウディアードが現れて、いきなり墓荒らし扱いをして挙句馬車を人質に取りながら、スーフェ機とチェイス機と睨み合っている状況ですわね。
相手は四機、どれもV型のヴァメリティ。
……もしやこれは所謂、プレ戦闘を自ら提供して頂いていると言う事でしょうか?
そんな事は無いと思いますが……しかし既に私の中ではとても殊勝な心がけを持っている方たちにしか見えませんわ……その心がけに免じて私とヴァレリアがお相手致しますわ!