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「ここが遺跡の入り口でして?」
「そうっす、と言っても本来の入り口かどうかは不明っすけど」
「そうですのね、それにこの場所は確かにアーリスル王国付近ですわね」
そう言えば、私は寝ていたから気が付きませんでしたが、既に国境を越え此処は魔導帝国でしたわね。
辺りを見渡すと、此処はそこそこ標高の高い山の麓。
山を越えた先が王国。
この位置ならば確かにどちらが権利を主張しても面倒な事になる事間違いなしですわね。
馬車で移動して来た私達は、夜が明けるとともに遺跡がある山の麓にやって来て、そこから歩いて入り口と思われる場所へと向かった。
入り口には門のような物があり、ウディアードが持っている剣をクロスさせている絵が描かれており、先ずチェイスさんがその扉を開く。
中はレンガ造りのような場所で、しかし内部だと言うのに明るく天井に何か仕込んであるようで、特に松明は必要ない。
成程、この設備も超古代文明と言われる一因と言う事ですわね、一体どうなっているのかしら。
そこから一本道を進むと、途中いくつかの部屋があり、そこまで来ると魔導帝国の技術者や研究者だと思われる人物たちが忙しなく動いているのが目に入る。
「本命はこっちっす」
チェイスさんに案内された場所は、この一本道の行き止まり、そこに入り口にあったような扉が存在し、それをチェイスさんがゆっくりと開けると広い部屋へと出る。
その場所は綺麗な立方形なようで、そしてその真ん中にヴァメリティが二機、ヴァレリアを守る様に剣を交わし立っている。
そしてそれを囲むように鉄パイプのような物が組み合わさりそこに板が乗って歩けるようになっているのが分かる。
ふむ、戦闘をして帰って来ていたのにも関わらずこの機体たちが此処まで綺麗な状態と言う事は、その昔戦闘をしてボロボロになった機体をどこかの誰かが治したと言う事ですわね。
「これが専用機」
スーフェがポツリと呟いた言葉に、私も今一度三機に目を向ける。
ヴァメリティは白を基調とした無骨な騎士タイプ、長剣を持ち相手と戦う量産機。
対してヴァメリアは赤を基調とした少しスリムタイプな機体。
右手にレイピア、左手に銃を用いて戦うタイプ、銃は片手で持てるようにそこまで大きくは無いですけど、ハンドガン程小さくも無いと言う所ですわね。
私は二機を見ながら、その足元で何やら動いている人たちへと視線を向ける。
「スーフェ、あれは魔導帝国の技術者と言った所かしら」
「はい、それと搭乗者もいるようですね」
「動かさなければなりませんしね」
私達はその者達へと近づいて行く。
少し接近するとどうやらあちらは気が付いた様で、此方に礼をして来る。
きっとこの案内人さんに礼を取っているのでしょうね。
「何か分かりましたか」
「ハッ、ヴァメリティの方は問題なく動作確認が終わりました、機体も他のヴァメリティと変わらないようですが……」
「不明機については分からなかった、と」
「申し訳ございません、素質ある者でも搭乗ハッチさえ開かない始末」
「アメリア嬢」
「なんでしょう」
「どう見ますかな?」
「私が触れていいのですか?」
「こちらの技術者がお手上げである以上、兎に角今は切れる物は何でも切りたいところです」
「分かりましたわ」
私は鉄パイプのような物で組まれた階段を上り、ヴァメリアの眼前に移動して綺麗に一礼して見せる。
この魔導帝国ではどうかはわかりませんが、アースリル王国式でしっかりと美しく礼を取る。
何故こんな事をしたのか私にもわかりませんが、ヴァメリアとそしてライリー皇女に敬意を示して。
そして私はヴァレリアへと触れる。
瞬間、その機体の簡単な操り方が頭に入って来る。
「成程、これが回路を持つ者と持たざる者の差、と言う事ですわね」
回路を持つ者はウディアードと繋がる事が出来る。
それは単に動かす事が出来ると言う事では無く、動かし方も知る事で出来ると言う事でしたのね。
しかしそれでもすべてでは無く、当人の技量も相当必要になって来ると言った所でしょうか。
それにしても確かにこの機体は動きそうにありませんわね。
「普通の機体であればどのように?」
「回路が一瞬でも繋がれば、後は機体の背後のハッチが開いて、丁度人の心臓部分に入れるようになるっす」
「でもこの機体は無理だった」
確かにこれは専用機。
ライリー皇女しか載せないと言う事でしょうか……それともライリー皇女が無くなったのを感じ自らの使命も終わったとでも思ったのかしら? しかし機体がその様な事、有り得るのかしら? まぁ超古代文明ですからありそうな話ではありますけど。
ですが、ゲームでもそのようなお話しはありませんでしたし、怪しい所でしたわね。
「ん?」
なぜかしら、一瞬目が合ったような気がしましたが。
すると空気の抜けるような音と共に背部が開きコックピットへの入り口現れる。
「あら、開きましたわ」
「「「「なんだってー」」」」
「そんなに合唱しなくても宜しいでしょう、ほら」
私は開いた入り口を見せると、作業員や研究者の方は口をあんぐりと開けて驚いているようですが、御まぬけなお顔になってしまっておりますわよ。
「お嬢様、何をしたのですか?」
「それは私にもわかりませんの、此方で礼をしたら目が合ったような気がしたのですが、その程度ですわ」
「目が合った? 案内人様、その様な事今までにありましたか?」
「いえそのような事は無かったはずですな」
「兎に角乗って見ますわ」
私は背後に空いたコックピットへの入り口にためらうことなく体を入れると、そのままスルリと中にある椅子へと座る事が出来、座った後椅子が動きハッチが締まる。
コックピットにたどり着くと目の前には手を入れる筒状の先にレバー、そして足にもペダルのような物があり、他にも色々なボタンが配置されていた。
そして暗闇の中怪しく赤く光るいくつかのボタン。
『……魔力ガ登録サレテイル者デハアリマセン』
どこからかそんな機会音が聞こえてくる。
成程、専用機と言う事で当人の魔力を覚えさせてそれをキーにしているのですわね。
全ての機体にこの機能を付ければいいのに、とも一瞬思いましたが量産型にそんな機能付けたら、何時でも誰でも乗れなくなり緊急時にもたつく可能性もありますし、これは専用機ならではのシステムと言う事ですわね。
しかしそうなると、私はこれを動かせないと言う事になりますわね、それもそれで悔しいですわね。
『パスワードヲ入力シテ強制セットアップ二移行シナイ場合ハ、機体ヲ破壊シマス』
悔しいと思っておりましたが、どうやらパスワードを入力すれば動くご様子。
そして私の目の前にはパソコンのキーボードのような物が現れる。
パスワード……思い出すのですわ。
……ライリー皇女のバッドエンド。
自分では何も救えないどころか、民を混乱させてあまつさえ故国を潰してしまう。
そしてライリー皇女は願ったのでしたわね、自らが死にこの機体だけが残り、願わくば今度こそ民の希望になれるように。
そう、そうですわ、そうして最後このパスワードを設定したのですわ。
<Live in hope>
私がそう打ち込むと、先程まで暗かった機体のモニターに辺りを映し出し始める。