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『おねぇ!』
『うわ、出たな』
『妹に向かって出たなは酷くない? ねぇ酷くない?』
『毎回毎回、この絵師さん神! 何だけど、ゲームする怠いから手伝って? って私の部屋に来るのは誰だ!』
『私だ!』
『そうだよお前だよ!』
『……でも今回は違うよ! だっておねぇが大好きなあのロボRPGの続編だもん』
『あー、あれね、と言うかあれまだ納得してないんだけど私、何なの? なんでバリバリのロボRPGで戦闘かっこよくて凄い! って作品の続編が、一度崩壊したその後の世界で乙女ゲームになってるん? バカだよねぇ? 』
『ね、制作会社アホだよね、でも絵がいいから手伝って?』
『またそれかぁぁぁぁぁ! ……はぁまぁいいけどね、私も一応やるつもりだったし、それに戦闘システムも残ってるらしいし、しかしなんで乙女ゲームなんかに昇華したかなぁ、その思考は高度すぎてわかんないよ私』
『カッコイイ男でも出してホイホイしたかったんじゃん? ボイスも今イケイケの声優さんから大御所さんまで取り揃ってるし』
『そう言うのはいいのでかっこいいロボ戦闘をおくれ』
『おねぇはぶれないねぇ、私は絵と声が良ければクソゲーでも買っておねぇにやってもらうけど』
『私がやる前提で話を進めるな……この』
「愚昧がぁぁぁぁぁぁぁ! ……あ?」
「お嬢様! お気づきになられましたか!」
「……スーフェ?」
辺りを見ると、私は馬車に横になってスーフェに膝枕をされていたようだ。
それにしても先程の夢は……いえ夢では無いのでしょうね。
あれこそ、私の前世の記憶、その一部と言う事ですわね。
私には妹がいて、そして仲睦まじいのかしら? 兎に角割と仲良く生活していたと言う事ですわね。
それが事故か持病か寿命か、兎に角何かしらの要因で死んで私に転生したと言う事ですわね。
そして例の続編ロボ乙女ゲームの世界でもあり、私が悪役令嬢の乙女ゲームでもある……今の所二つの世界が融合したのが私が住むこの世界であると言う事ですわね。
結局続編とその前の前世の私が好んでいたと思われるロボRPGゲームは思い出しましたが、家族構成は妹がいたと言う事だけ、前世の私についても記憶は全然戻りませんでしたわね。
まぁそれで私が前世の人格に成り替わられるなどと言う事はありませんでしたが、ウディアードに搭乗したらもしかしたら少し影響はあるかもしれませんわね。
その辺りは致し方ないと言う事で、諦めるしか無いですわ。
何せ、好きな物ほど執着してしまうのは人として当たり前の事、それを抑制するのは自我があってこそ、自我無き魂に抑制などできませんでしょうしね。
「よかった……お嬢様いきなり御倒れになられたのですよ、覚えておりますか?」
「……えぇ、確かライリー機ヴァレリアが発見されたと言う所でしたわね」
「そうです、それと熱は……そんな!」
私はスーフェの膝から退き、自らでしっかりと座る。
特に頭が痛い事も怠い事も無いですわね、やはり記憶を思い出すときの副産物と考えれば良いでしょう。
「熱はないようですね」
その言葉に馬車に乗っている誰もが驚きの表情をする。
「あれだけの熱が……」
「こ、こわいっすね、何だったんですか」
「大丈夫ですわ、ちょっとした、そうですわちょっとした持病のような物でしてよ」
私は日が暮れてしまった外を眺めながら、不思議な物を見るような各々の目がから逃れる。
それにしても凄いスピードで走っていますわね、馬は大丈夫なのかしら。
「お嬢様、熱が引いたからと言ってご無理はよろしくありません、それに持病って」
「あぁスーフェ一度私がこうなった事があったでしょう?」
「え?」
「ほら二、三週間前ですわよ」
「……まさかそれで! だとするとお嬢様が機体を知っていたのは」
「そうですわ、それを思い出したのです」
「そんな……いえ、確かにそれ以外考えられませんし」
「安心してスーフェ、もう体は悪くないわ」
「……分かりました」
スーフェは私が言いたい事が分かったようですわね。
少し前、そう私が悪役令嬢としてのゲームを思い出した時は少し長引きましたが、高熱が出てスッと下がったのですわ。
そしてその後、スーフェには信じて貰えなくても言おうと思って口にしたのでしたね、乙女ゲームの事。
最初は信じていなかったようですが、段々と信じて行き結局は第二王子に結婚破棄されて確信を得たと言うところかしら。
だからきっとスーフェは信じてくれるでしょうが……案内人さん、その様な怖いお顔をしても私は貴方には何も語りませんわよ。
鋭い目で此方を見る案内人さんに挑発的にフフンと笑えば、相手は少し顔を顰める。
「……私にも説明して頂けますかなアメリア様」
「お断りですわ」
「スーフェ」
「申し訳ございません、その情報開示は任務外でございます、それにお嬢様の意にそぐわない事をして逃げられても知らないですよ?」
「はぁまったく仕方ありませんな、ですが機会があれば伺いたいものです」
「ならばまずは信頼関係と言う名の利害を埋める必要がありますわ、少し長い年月をかけて」
「……魔導帝国に居られるならば、叶いそうですな」
「そうですわね、スーフェも本来ならば頭が上がらないお相手のご様子、私も楽しみにしておりますわ」
「フフ、楽しい御嬢さんだ」
「おほめ頂き光栄ですわ」
私は扇子を取り出し口元を隠しながらふっと笑う。
この人は一体何者なのでしょう、スーフェの上司……の上司と考えるのが妥当ですが、その妥当で当てはまりそうにない気がしますわね。
「……ではこの話は打ち切りに致しまして、丁度夜が開ける刻に目的地に到着するでしょうな」
「あらスーフェ、私意外と寝ておりましたの?」
「はい、息遣いも荒く本当に心配したのですよ……それに良くわからない寝言を仰っていて」
「あぁ、それに関しては一寸ありまして」
「それで段々と落ち着いて来て、少ししてお嬢様が叫びながらお目覚めになったのです」
「……まぁ遺跡に着く前に起きられて良かったですわ」
「それは、全くです……それにしてもライリー皇女殿下と言う方は何方なのですか? 案内人様はご存じのようですが」
「……それは言っていいのかしら?」
私が案内人さんに目配せをすると、一つため息をつき口を開く。
「ライリー皇女殿下は古代文明の歴史に名を刻んだお方ですよ」
「……それは本当なのですか! それでは古代文明については何も分からないと言うのは」
確かに、世間では古代文明は一体どのような物なのか不明であり、その歴史も勿論闇の中だと言われておりますわね。
そしてその古代文明から発掘されるものは高度な物ばかり、ですが本当は国がその歴史を独占していたと。
「民衆に知らしめるにはあまりにも危険だとどの国も判断したのでしょうな」
「それでそのライリー皇女様はどのような方で?」
「戦場にその乙女有れば我が軍に敗北は無し、とまで言われた方で最後は……悲惨な物です」
「彼女は祖国に騙され使わされ続けたのですわよ、そうですわよね?」
「えぇ、彼女の故国は侵略を受けたとして戦争を始め、その戦争が他国をも炊きつけ相手側に組し皇国を襲った……と彼女は聞かされていましたが」
「本当はその皇国の自作自演、皇国の侵略戦争で、そしてそれにライリー皇女は使われただけ、彼女と彼女部下がそれを知り自らの皇国を陥落させ、彼女もその手傷で他国へと落ちのびた所で息絶えたのですわ」
「その通りですアメリア様」
……まさかバッドエンドに行きついていたなんて思いませんでしたわ。
案内人さんが悲惨と言った事で私は薄々気が付いてしまいましたが、主人公の一人が間違った選択をした、と言う事ですわね。
ゲームでは早い段階で皇国の動きが可笑しいと気が付き、そしてその裏を調べようとして襲われた事で他国へと逃げのびる、そこで皇国を自らの物としようとしているラスボスの存在を知り後戦闘し、皇国を救い英雄になると言ったストーリーでしたのに。
まぁ彼女も主人公の一人、他の主人公が普通にエンディングを迎えればそう言う事が起こる可能性は少なくない、と言う事ですわね。
もしかしたらゲームよりも巧妙に巧まれていた可能性もありますわね、私の知っているゲームの記憶との齟齬はこの先覚悟しなくてはいけませんわね。
「成程、その様な事が……しかしその一騎当千を行った機体が今から向かう所に……それならばお嬢様の御言葉聞いて、案内人様が普段は御見せにならない焦った顔をして馬車を急がせたのも納得です」
「……いつもの仕返しですか?」
「なんの事でしょうフフフ」
「まぁいいでしょう、そろそろ夜も開けます……目的地は近いですぞ」
私は白んで行く空を見ながら、ライリー皇女の事を思い、今後について考えるのだった。