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「もういいわよ、そんなに仲良くしたいなら私もしてあげよーじゃないの!」
あれから幾日かたっても結果は変わらずでしたわ。
ヒロインは机に突っ伏し、かわいそうな目線を送られる。
まぁヒロインの狙いを知っている者がいれば、以前私の学園で起きたような忠告も頻繁に起こっていたとは思いますが、姫様が絡むとそんな王道を進むなんでできなくなるのですわね。
そのことを目の前で今まさにまざまざと見せつけられておりますわ。
そして少しして、突っ伏しながらつぶやいた言葉がこれですわ。
きっと精神的にも可笑しなところまで来てしまったのでしょう。
なんにせよ、これでヒロインがヒロインであるということを放棄したに等しいですわね。
放課後、姫様とヒロインは向かいあっておりましたわ。
「姫様、なぜそこまで私の事を邪魔するのですか?」
「なんだ、そんなことか? そんなのラリーマに害が及ばぬようにに決まっているだろう」
「何ですかそれ」
「君がいつも目線で追っているのは、爵位の高い者たちばかりだ、しかも何かに取りつかれた様にふらふらとそいつらに群がる」
「……私の役目はそうして男を侍らすこと……私は間違っていない」
「役目、か……なら我の役目はラリーマをかわいがることだな!」
姫様の部屋は割と広いですわ。
ですから、椅子を立ち相手の座っているところに回り込み、そして後ろから撫でるという行為に全くの支障はありませんでした。
「なっ! 私は女性とお付き合いはしません」
「我もだ」
「なぁ!」
「だがまぁいいだろう、我は姫として必ずどこかの男と結ばれねばならない身だ、学園の中だけでも好き勝手させてくれ」
そういった姫様を優しく見守る私たち……とはいきませんわ。
特にアルさんの目のなんと冷たいことでしょう。
その目が雄弁に語っておりますわ。
貴女はいつも好き勝手やっているでしょうと。
まぁ、学園に入ってからしか知りませんが、私もそれには同意を送らざるとえませんわ。
しかし、姫様は絞めるときは絞めるお方ですわ。
授業も真面目に受けておいでですし、成績も悪くない。
ですが、姫様という立ち場ですから、もしかしたら学園で習う内容はすでにお城で把握済みだったかもしれませんわね。
まぁなんにせよ、そんな冷たい緯線など意にも返さず目の前ではほほえましい? 光景が広がっておりますわ。
その翌日から、姫様の行動がさらにエスカレートしましたわ。
「やぁおはよう」
「……部屋で出待ちとか、勘弁してくださいよぉ」
それは本気で疲れた声でしたわ。
もうため息が何十回と聞こえてきそうなくらい真に迫った。
「まぁそういうな、我の迎えを無下にすると不敬だぞ」
「……不敬というなら、もうたくさんしちゃいましたけど」
「なんだ自覚があったのか」
「はぁ」
「ここでは基本的に不敬は問わないという方針でやっているのだ、公の場でわきまえればいいだろう」
……言っていることはなんだがあっているような気もしますが、やりすぎはだめだと思いますわ姫様。
ですが、なんだかんだと楽しそうなお二人を見ていると、私にもあの時違う道があったとまざまざと見せつけられているようで、こちらもため息が出そうですわ。
「お嬢様、お嬢様と姫様ではいろいろと違いますから」
「えぇスーフェわかっているわ、それに此処にこれたことは間違っていなかったと今でも思っておりますわ」
スーフェに心配されてしまいましたわ。
さすが私のメイド、私の事ならお見通しですわね、おーっほっほっほっほ。
あれから約二週間、本当にお二人とも仲良くなられましたわ。
この二週間の間に私も少しヒロインもといラリーマ様とお話する機会がございました。
「……じゃあアメリアさんは悪役令嬢だったんですか?」
「えぇそうですわ、思い出したのもぎりぎりとところでしたので、逃亡を上手く図れるくらいの時間しかありませんでしたの」
「……もし私が普通に攻略していたら、どうなってたんだろう」
「そうですわね、一番考えられるのは、排除した令嬢が敵国にそのまま吸収されるというのが一番妥当な線だとは思いますわ」
「敵?」
「えぇ、もうこの国は目に見える戦争はやっていないにしても、情報や物流の戦争は開始しておりますわ、あとは一気に爆発するだけ……ですわね」
「そ、そんな……」
「そんな中ヒロインが荒らしまわったら、敵国としてはかなり大助かりになっていたと思いますわ……さすが姫様ですわね」
「そんなことになっていたなんて、私全然…………それと流石姫様は納得がいきませんけどね!」
「あのお方は野放しになされば益を生むようなお方ですわ、ですから姫というお立場でもあのように自由な振る舞いが許されているのだと私は考えておりますわ……今回だってそうでしたでしょう?」
「ぐぅ……それにしても、アメリアさんも同郷の人なのに、話し方がすごくお嬢様っぽいですね」
「あ、違うのですわ、私はただ少しだけゲームについての記憶を知っている、いわば夢の中で紙芝居を見ただけですわ、ですので私はこの世界で生まれこの世界しか知らないのですわ」
「そうだったんですね……でもなんだか前世のアメリアさんにも会ってみたいと思います」
なんてもう無理だけどとそういって少し悲しそうに笑う彼女は、獲物を追いかけていたハンターの時よりもよっぽど魅力的に思えますわ。
特にその見た目も相まって、とても庇護欲を駆られますわね。
「今のように自然でいいと思いますわ」
「え?」
「なんというか、わたくしの目からは少し無理をしているように見えましたから」
「……あの、スーフェさんもそう思います?」
「はい、使命感はよろしいかとは思いますが、それで無理をしては意味がないとみておりました」
「……あの方も、それに気づいていたのかな」
「姫様ですか?」
「えぇ」
「気づいていたと思いますわ……さぁ、その姫様があと少しで湯あみを終えられて戻ります、折角の初お泊り会ということですし、ぞんぶんにお楽しみになって頂きたいですわ」
「……ていうかなんで私姫様とお泊りすることになってるんですか、本当」
「まぁそれはあれですわ、一国の姫様が望まれたから、ですわね」
「待たせた!」
「って姫様前!」
湯浴みを終えられた姫様は全裸で現れましたわ。
それにラリーマ様もびっくりな声を上げて、姫様のもとに駆け寄ると肩にかけているバスタオルをひったくり、いろいろと拭き残しをぬぐっておりますわ。
その後ろでメイドがにやけながらお二人を見て、そのメイドを見てアルさんが頭を押さえておりますわ。
大変ですわねアルさん。
「いいですか姫様、姫様は女の子なんですからもうちょっとたしなみと慎みを持ってください」
「いいじゃないかラリーマ、公の場では慎みを持っている」
「常日頃から行っていないと、何かあったときにぼろが出ますよ!」
「まぁそれも一理あるが、ぼろが出たら後々修正すればいいではないか」
「適当すぎます、姫様!」
それにしても、ずいぶんと前に比べるとラリーマ様もなつきましたわね。
まぁあれだけ付きまとわれても、本気の拒絶をしなかったところを見ますと、もしかしたらどこかで止めてほしかったのかもしれませんわね。
それはきっと彼女が前世でも素敵な女性だったからでしょうか、それとも姫様のお力でしょうか。
ですが、もし止められたとしたら、あの時私はどちらを選ぶのでしょうか。
この記憶を持って戻れるならば、ヒロインを排除して、裏の組織をつぶして、それで私は楽しめたのかしら……いいえ、きっと戻れたとしてもこちらを選びますわね。
だって今が楽しいですから、おーっほっほっほ、おーーっほっほっほっほっほ、おぁーーっほっほっほっほっほ。