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「愛くるしい娘だ、そなた名はなんと申す」
「え、わ、私はラリーマ・クルーシェと申します」
それが、姫様とヒロインの出会いでしたわ。
あれから部隊に別れを告げて、私達は学園の領に入りましたわ。
スーフェは特にいつもと変わらない様子ですけれど、私は少しほっとしてしまう所がありました。
やはり令嬢がいきなり戦闘訓練と言うのに、体がついて行けていなかったのかもしれませんわね。
若しくは、染みついてしまった習性と言ってもいいかもしれませんわ。
その後、一応護衛と言う事でクラーラ様とはお話しする事は有りませんでしたが、私達が後ろに居ることを楽しそうにしていたのは印象的でしたわ。
最初の学園の説明が終わり、本日は終了となった後、クラーラ様は少し探検をしようと楽しげに言って歩いて行かれたので、私もついて行きます。
そんな折に出会ったのが、キョロキョロとしているヒロイン、ラリーマ・クルーシェですわ。
ゲームと同じようにゆるふわピンクの髪の毛でとても愛くるしい顔をしておりました。
「……ほぉ」
あれはゲームのイベントを待っているんだなと分かって、少し頬を固くしてしまいました。
何せ私が国を追われる原因になったのも、同じような人物のせいでしたもの。
今でこそ感謝してもいいと思っておりますが、流石に私の他二こんなにもアグレッシブなご令嬢が居るかどうかはわかりませんし、居たとしても少数であるような気が致します。
ですので、己の欲望を満たす為に罪のないご令嬢が死に至るのは、いい気分は致しませんわ。
「愛くるしい娘だ、そなた名はなんと申す」
「え、わ、私はラリーマ・クルーシェと御申します」
正直、この時の顔を他の方に見られてなくて良かったと思いますわ。
どう考えても、少し御まぬけな顔をしていましたもの。
私が他の御令嬢も私の様になってしまったら大変だと考えている折に、まるで殿方が女性を口説くような事を言うのですから。
チラリと執事のアルさんを見ると、はぁと深いため息をおはきになられましたので、もしかしたらこれが最初の事では無いのかもしれませんわね。
それにしても、本当に良くそんな言葉を掛けようとなさったものですね……。
「ラリーマ嬢か……ラリーマ嬢ですわね、私は第二皇女クラーラ・ブレイデンですわ」
今更取り繕っても遅いと思いますわ、姫様。
私達の心の中はきっと同じことを思っていたでしょう。
流石のスーフェも頬を引くつかせておりますわ……きっと笑いたくて仕方が無いのでしょう。
それにしても、学園とは私の居た国と似たような物ですのね。
綺麗な物ですわ……規模がに三倍大きいですけど。
流石は帝国と言う事ですわね。
そんな現実逃避を致しておりますと、どうやらヒロインが何とか別れを告げて去って行きましたわ。
「では追……探索に戻ろうではないか」
そう言ってヒロインの後を追うクラーラ様。
今確実に追うと言いましたわよね!
なんだかこのお方と居ると、少し自分のペースを乱されてしまいますわ。
いけませんわアメリア、私はアメリアと言う誇りを忘れてはいけませんわ、個としてあらねば……おーっほっほっほっほ……よし、ですわ。
「お嬢様、姫様お一人でも大変な時に、声に出してやらないで下さいね」
スーフェから小声でコッソリとそう言われますわ。
流石スーフェ、私が心の中で高笑いをした事を見抜くとは。
少し進むとヒロインちゃんが後いっぽで角でのぶつかってしまうイベントを発生させるところでしたわ……。
しかし、クラーラ様がそれをそのままにする訳も無く、優雅に走り――淑女が走るのはいけませんわ姫様――ながら、男を目線で来た方向へと返しましたわ。
「また会いましたわねラリーマ嬢」
「……ごきげんよう姫様」
ヒロインは戻って行く殿方の背をうつろな目で見ながら、姫様にそう返したのですわ。
それからというもの、姫様は事あるごとにヒロインにちょっかいを掛けにいきましたわ。
そのせいでイベントのフラグがこれでもかと勢いよく折れて行きましたの。
本来であれば、男爵令嬢である彼女が一国の姫様と厚意になさっていると言う事を聞きつければ、他の御令嬢から反感があっても宜しいと思うのですが……。
どうやら、第二皇女様の本当な所は皆様ご存じのようで、あぁあの方に絡まれてしまいましたのね、頑張ってくださいまし、ぐらいにしか思われていないようでしたわ。
……そのお蔭で、私も平民と言う地位にいながらもあの第二皇女のと言う事で、特に何事も無く過ごしておりますわ。
昔から何をなさっておいでだったのは、少し聞くのが怖いくらいですわね。
ですがヒロインの方も中々に粘りを見せるのですわ。
どうにかして殿方をゲットしようと姫様との華麗なる戦を交わしながら、どうにか一つ一つフラグを作って行くのですわ。
……それも、姫様の介入で殿方から少し疎遠になってしまい、後日机に突っ伏しているヒロインを目撃するまでに、そこまでの時間はかからなかったのですわ。
そして、私はヒロインと言う物の対処を、こうすればよかったのかと、姫様を称賛しながらその行方を見守ら差て頂いておりました。




