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「と言う事で、お主らは我の付添で学園に行く事になったのだ」
「宜しいでしょうか」
「うむ、申してみよ」
「……流石に平民の私達をお仕いになるのは、姫様のお立場上問題だと思うのですが」
「問題ない、我の護衛として信頼できる騎士を選んだまで……それにお主らはもう九番隊では無い、二番隊に異動になっているからな」
今日の朝方、先日S型との戦闘が終わった後にやって来た執事の方が私たちを尋ねに参りましたわ。
何でも急で悪いが、昼ごろにお城に来てほしい、急でも申し訳ないと謝り倒していらっしゃいましたわ。
シャルロ嬢は何か悟った様なお顔を成されておりましたが、一体どうなさったのでしょうか。
とりあえず、呼ばれたのは私とスーフェ、それからグレースさんにシャルロ嬢ですわ。
一応貴族に対するので外ではシャルロ様とお呼びしておりますが、誰もいない間では、気持ち悪いので嬢でいいと言われましたわ。
なにやら、どうせ私も平民か若しくは首を斬られるし、と苦笑いをしておりました。
まぁ確かに、姫様を攫って匿った上、敵の手に落としたなど、普通に考えれば首を跳ねられても問題は無いでしょうが……この場合色々と問題になりますわね。
勿論姫を簡単に他の場所に移せたと言う根本の事もそうでしたが、九番隊の事を知っていながら安易に放置していた貴族の皆様にも責任がありますし、とまぁ色々と緩く脆い部分が浮き彫りになってしまったと言うことろですわね。
兎も角、私は三人に事情を伝え、騎士服に身を包み、お城へとやってまいりましたわ。
時間よりも少し前に行くと、既に執事さん……アルさんが待っていらっしゃいましたので、私達はその後について行きますわ。
王城を幾重にも曲がり、たどり着いた他の扉よりも少し大きな扉の部屋。
皇帝陛下と会った扉よりは小さいですが。
中に入ると、広い中にも質素でつつましく、シックなテーブルとソファー、本棚などがありましたわ。
奥には二つほど扉がありましたので、奥はバスルームやベッドルームと言った所でしょうか。
そして綺麗な銀の髪を緩くロールした髪に、ホンワカとした印象の女性がソファーに腰かけておられましたわ。
その女性はゆっくりと立ち上がり、綺麗に礼をなさいました。
「私は帝国ブレイデンの第二皇女、クラーラ・ブレイデンと申しますわ……本日はいきなり呼び出してしまって申し訳ないわ、非公式ですしお客様と言う事で、そちらのソファーにお座りになって下さいまし」
お姫様と同席などして良い物かと逡巡致しましたが、ここで断るのは更に不敬と言うことで、私達も一応礼を取り自己紹介をしてから、ソファーに座りますわ……シャルロ嬢を除いては。
シャルロ嬢は、ずっと頭を下げていらっしゃいます。
「シャル、貴女も座りなさい」
「……申し訳ございませんでしたクラーラ様」
「シャル、その件に関してはもう処遇は決まったのです」
「ッ」
「それは家に帰ってから、貴女のお父様から伝えられます、此度の事は様々な者達が暗躍しておりましたので、間に割って入り我を通しましたの」
「しかし」
「くどいですわ、いいからさっさと座る! 」
「……姫様、既に口調が」
「はぁ、もういい、我も面倒だ」
ゆったりと奥まで腰かけて、手で面倒と言う風に両手を上げる仕草は、先程までの御淑やかさの欠片も有りませんでしたわ。
この方が本当のクラーラ様、と言う事ですわね。
シャルロ嬢は渋々と席に着きましたわ。
「先ずは我を助けてくれたことに礼を言おう、父上の礼状も預かっておる、流石に今は会えぬそうだ」
色々とありましたし、この期に私に会うなど、何か企んでいますと言っているような物ですものね。
しかも、その人物が第二皇女殿下に近づくとなれば、なおさらですわね。
「勿体ないお言葉ですわ」
「それでな、お主等に頼みがある」
「私たちで出来る事であれば、何なりとお申し付けください」
「そうか、ならば我の護衛として起用する」
一瞬呆けてしまった私と、未だ呆けている三人を置いて、執事さんはため息を、メイドさんは何故かにこやかにしていますわ。
そんな事はお構いなしに、第二皇女殿下がお話しになりますわ。
曰く、今年から学園に入る事になる。
その護衛は型っ苦しい奴は嫌なので、私達に任せたい。
働きは自分の誘拐事件で良く知っている、それに加えて元令嬢であればきっと上手くいく。
「と言う事で、お主らは我の付添で学園に行く事になったのだ」
「あの宜しいでしょうか」
「うむ、申してみよ」
「……流石に平民の私達をお仕いになるのは、姫様のお立場上問題だと思うのですが」
「問題ない、我の護衛として信頼できる騎士を選んだまで……それにお主らはもう九番隊では無い、二番隊に異動になっているからな」
「姫様の御立場が悪くなられないのであれば良いのですが」
「そもそも学園に入学するわけでは無いのだ、そこのシャルを除いて、まして護衛や従者など平民が多いのだだから、問題などない!」
はっきりと仰いましたが、それはもっと下級貴族の方のお話しでは無いでしょうか。
普通王侯貴族の付添人や、護衛と言えば貴族の出の者が殆どだと思うのですが。
「兎に角、お主等が学園に行くのは決まったのだ、父上も認めて下さっておる」
……既に拒否権等無いのは分かっておりましたが、最後の砦も落ちましたわ。
まさか皇帝自ら了承するとは、何といいますか、遊び心のある御方たちですわ。
まぁ私も退屈せずに済みそうで、嬉しいと言えば、嬉しいのですけれど。
「それにアメリアは、あちらの学園に通い、元王妃候補として学んでいたと聞いている」
「その通りにございますわ」
「ならば、学園でも色々とアドバイスを貰う事も出来よう、なにやら退屈しのぎだと思っていた学び舎が、面白く輝いて行くな、はっはっはっは」
私はチラリとシャルロ嬢を見ると、困惑の中にも安堵が混ざっておりますわ。
私の視線い気が付いたのか、此方を見ながら苦笑いをし、そしてゆっくりと首を左右に一度振ります。
多分、これが素で逃げ道など無い、姫様はこういう方だ、だがそこがいいと言う意味でしょう。
確かに魅力的な方ですわね。
所謂カリスマ的と申しましょうか、人民を引く何かをお持ちのようにも思えますわ。
ただ、だからこそ敵も多いのでしょう。
ですが、継承権の上の方が数人いらっしゃることで、使える駒程度の認識なのは、良いのか悪いのかと言った所ですわね。
こういう方は遊ばせておいた方が逆に良い結果をお持ち帰りになりますから、所謂たちが悪いお方ですわね。
「では、後の事や立ち回りは追って連絡する、後は茶でも楽しもうではないか、色々と聞きたい事もある」
と言う姫様のお言葉で、メイドがお茶を入れて、茶菓子を並べますわ。
それから、ウディアードの戦闘はどうだったのか、どのように操縦しているのか。
ヴァレリアに出会った時の心境や最初の戦闘についてなど、根掘り葉掘り聞かれましたわ。
果てには、元婚約者の話を聞き、何やらメモっをしておられるようでしたが、外交のカードにでもなさるのでしょうか。
もう、捨てた国に未練はありませんが、そう言えばお父様とお母様はどのようになさっておいででしょうか。
出来れば戦争で対立関係にならない事を祈るばかりですわね。




