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通常のブースターは足裏に小さい物と、腰に主な物が付けられてていますわ。
しかし、ヴァレリアには他にも股や肩、足のかかと部分、腕などにブースターが付けられ、パイロットの消費魔力を根こそぎ奪いながらもそれを全て発動させることが出来ますわ。
更に手に持つレイピアに魔力をコーティングさせ威力や強度を、銃から放たれる魔力弾はその威力を倍以上に、その展開が『ヴェークシステム』。
相手からはきっと本来可視化できない魔力が、湯気の様に赤い機体を赤い靄が包んでいるように見えているのかしらね。
「……うふふ、それは、なんなのかしらぁ」
「お答えしかねますわ!」
私はただ一歩進む、そして眼前には敵のウディアード。
私はその勢いのままレイピアを突き刺す。
相手は虚を突かれた様で動きが鈍く、ガードなど間に合いませんわ。
本来なら突き刺して引くのでしょうが、この状態ならば横に引きちぎる様に引き裂く。
相手のコックピットの少し下を抉り、更に突撃しますわ。
コックピットを狙いましたが寸での所で少しずらされて突き刺し、今度は引き戻しそして突き刺そうとして上から剣が降って来るのが見えましたので、一歩引きますわ。
しかしこの状態での一歩は既に相手の射程圏外ですわ、そして動かなくても反動で揺れるぶら下がったままの腕と銃を、動きの反動で相手に向ける。
そして撃ち出された弾が更に相手の左腕を貫通する。
「う、うふふ……撤退よぉ、あんたら足止めなさい……まさかこんな化け物だったとはねぇ」
そう言って逃げ出すリリー嬢、立ちはだかる護衛と思しきウディアード。
この護衛を無視しては進めませんわね、無視すると姫様が人質に戻りかねませんし。
しかし量産機等今の私に勝てるはずも無く、突き刺し蹴って飛ばすを繰り返すとそこに邪魔する物が居なくなりましたわ。
この戦闘と先ほどの戦闘を比べれば、やはりS型と言った所ですわね。
私は、逃げた逃走者を追おうとして踏み出そうと致しましたが、踏み出せませんでしたわ。
「警告、機体破損率ノ上昇ヲ確認」
よくよく調べてみると、機体がどこもかしこも損傷してますわね……。
足は平気かと思いましたが、システムを使う前に余波を貰っていたようですわね、そこを蹴って傷口を抉ってしまったと……失態ですわ。
しかし、これは教訓ですわね、やはり実践は訓練などとは違うと言う事の。
「システムダウン」
「承認……通常モードヘ移行シマシタ」
なんだか急に体がだるくなりましたわね、これが魔力を使いすぎた弊害と言う物なのかしら……。
「……お嬢様!」
あら、スーフェが呼んでいますわ、でも今は私とても眠いのですわ、少し眠らせて下さいまし。
そうしてスッと私は意識を手放した。
*****
「……んー」
私はスッキリとした目覚めで伸びをしますわ。
えっと何がどうなったのでしたっけ?
……あぁそうですわ、私戦闘を行てヴァレリアの中で寝てしまったのでしたわね。
コックピットの中は光が一つも無く静かで、私が辺りを見渡すと画面に一文文字が現れましたわ。『起きられますか?』と。
「えぇ、起きますわ、辺りの様子のモニターも含めて頂戴」
ブォンと言う機械が立ち上がる音と共に、辺りを映しだし…………私は降りるのが億劫になりましたわ。
なにせ、私の周りはお祭り騒ぎでしたもの。
何やらウディアードが何機かおり、それが整備と護衛、そして技術者らしき人とそうは見えない伝令役のような者、それが足元でてんやわんやしておりましたわ。
「おい! 起動したぞ!」
「王城に伝えに行きます!」
そんなやり取りが私の耳に入り、一つため息をついてからコックピットの中から出ますわ。
出た所は勿論ウディアードの上で、その為下より風が強いためか髪がなびきますわ。
その髪を耳に掛けながら久々の空気を胸いっぱいにすってーはいてーと深呼吸をしてから下に降りますわ。
下に降りると何やらポヤンと私の顔を見ている執事服を着た青年が、ハッと意識を持ち直して私に駆け寄り礼を取りますわ。
「失礼いたします、ご気分は如何でしょうか」
「悪くはありませんわよ?」
「……アメリア様は約一日ウディアードの中におられたため、皆様心配しておられます……申し遅れました、私第二皇女殿下付き執事のアルと申します、この度は姫様をお救い頂き真に感謝しております、後日正式に王城への招待が御座いますので、よろしくお願い致します」
「分かりましたわ」
「……それと、姫様は貴女様の戦闘中にお目覚めになられまして、お越しいただいた際に多大なご迷惑をおかけしてしまうと思いますが、先に謝らせて頂きたく思います、申し訳ございません」
「い、いえ、私はただの平民、姫様のお望みとあらば」
少々頬を引くつかせながら礼を取ると、相手はそそくさと帰ってしまいましたわ。
さて、それでは私は家に帰るとしますわ。
「嬢ちゃん! わりーけどこいつ! 工房に運んでくれー!」
「分かりましたわー!」
まだ、帰れそうにありませんわね……、まぁ頑張りますわよ、だって私はこの機体のパイロットですもの、おーっほっほっほっほ!
―――――
とある王城でとある執事が、たった今持って来た情報を、自ら仕える姫に告げていた。
「うむ、パイロットは情報通り女性であったのだな」
「はい、それにしてもお綺麗な方でしたよ」
「それは良いな! 更に九番隊と言う事は元令嬢だ、礼も出来るピッタリではないか」
「……しかし今は平民ですよ」
「そんな物どうとでもなるわ……いや、する!」
「まぁ、こうなった姫様に何を言っても無駄でしょうけど」
「姫様紅茶、お注ぎ致しますね」
青年がはぁっとため息をつくのと同時に、近くに立っていたメイドがカップに紅茶を注いでいく。
「それで、外見は調べた通りだったのか?」
「はい、金髪に青い目、少しツリ目で凛々しい印象が伺えましたが……その、あー」
「なんだ、歯切れの悪い!」
「髪がなびきまして、それを耳にかける仕草と言うのは見かけられると思いますが」
「それが何だ」
「……壊れかけのS型の上で風にあおられた髪を優雅に耳へかけると言うのが、まるで一枚の絵のようでして」
「……あの赤いウディアードの上で、パイロットが……クソォ! 我も見に行きたいぞ!」
「既に撤収されたかと」
「アル! アルッ! 今すぐ投影だ! 頭の中から投影するのだ!」
「無茶を言わないで下さい! それからそんな口汚い言葉を使わないで下さい!」
「今は三人しかおらんだろうが! ……はぁ、まぁいい、今度画家にでも描かせるか」
メイドと執事は次なる標的となった女性の命運を祈るばかりであった。




