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「エミリー少尉! それに……ソーラ嬢とセレス嬢も!」
私達は帝国の様子が気になり、急いで帝国に戻りましたわ。
そして先日入った表では無く、裏の騎士団スペースからウディアードで入る。
朝方、まだ薄っすらと明るい時間、私は胸騒ぎに駆られながら寮へと戻り、訓練スペースを覗くと、そこには倒れているメイドとエミリー少尉、ソーラ嬢とセレス嬢が居ましたわ。
「お嬢様、これは……」
「……分かりませんわ、ですが相討ちと言った様子ではありませんわね」
そう、逆に共闘したとでも言ったように同じ方向を向いて倒れている。
私は少尉を揺すり名前を呼びますわ。
「少尉! エミリー少尉!」
「……グッ……、あ、アメリア伍長……」
「一体何があったのです」
「……! ッ……今は何時ごろだ伍長!」
「まだ夜が開けて少ししか経っておりませんわ」
「ならまだ……ッ」
「少尉!」
頭を押さえながらふらつく少尉を一度座らせますわ。
「裏手の、ウディアード乗り場に急いで……姫が攫われたの、事情は後で……ッ、だから追って!」
「グレースさんは少尉をお願いしますわ、スーフェ行きますわよ」
「はい」
「私も」
「グレースさん、お願いします、何かあったときにこんな状態の少尉を一人残しておくわけには行きませんわ」
「……分かりました」
グレースさんは少尉を見つめて私に頷きましたわ、そして私もそれに頷き返す。
そうして来た道を走っていると、丁度何機かウディアードが走って行くのが見えますわ。
どうやら本当にギリギリのタイミングだったようですわね。
まだ格納庫にしまわれていない私の機体を、混乱している格納庫付近から乗り、私とスーフェは敵が姿を消した先の森へと入る。
あの場にいなかったのはリリー嬢、彼女が騎士団の要件で相手を油断させながら機体を奪取し逃走、その混乱の格納庫付近から私達も出発、きっとあちらは大騒ぎですわね。
「お嬢様、敵は一体」
「敵はリリー嬢ですわ……いえ、敵はやはり少尉以外でしたわ」
「しかしあの場に倒れていたとなると、仲間割れでしょうか?」
「いえ、私の勘ですけど、保守派と強行派といった所だと思いますわ」
「……成程」
「取り敢えず、今は何とか探索して……敵機四機を補足しましたわ、一時の方向に真っ直ぐですわよ!」
私はウディアードを走らせながら、探索とそしてその先に見える機体の色に少し嫌な予感を感じながらも先に進みますわ。
「……どうやら、あちらは止まったようですわね……流石に要人を囲いながらこの国を出るにはリスクが高いと見たのでしょうか」
約十分程走り続けていた相手だが、不意に此方に振りかえる様にして此方を向いている。
そして私達はその少し手前まで行き睨み合いになりますわ。
「ごきげんよぉアメリア様ぁ」
それはもう本当に芝居がかった声に、今までのイメージを崩壊させるような、リリー嬢の声でしたわ。
「御機嫌ようリリー嬢、何時よりは随分と楽しそうですわね」
「んふふ、そーなのよぉ、もうしずかーに座ってお茶飲むとか、ホントあたくしってばだぁーれって感じよね」
「まぁ今のが素であればそうですわね」
「……そもそもあそこはウチラの管轄だったのにぃ、ソーラをねじ込んできやがったアイつらぁ……思い出しただけでも腹だだしぃわぁ」
「……保守派と強行派とよんでおりますが?」
「あらぁあらぁ、流石ねぇ元公爵令嬢様ぁ、そのとぉりよ、あいっつらいつまでもネチネチネチネチしててぇ、ホント全員蹂躙してやろうかと思ったぐらいよ」
そう言いながら手を上げる紫色の機体には、二本のソードが握られており、それを守るかのように四機が前へと出ていますわ。
そう、あちらの機体と私と同じくS型、特注の物ですわね。
「んふふ、そうやって会話を引き延ばさなくてもぉ、色々と教えてあげてもいいわよぉ、貴女が来てからあのソーラの澄ましていても目の中に灯る困惑のイロォ、あぁ~胸がスッとしたのよぉ」
「でしたら姫様は何処に?」
「んふふ、貴女達から見て一番右よぉ」
私はそれを聞いた瞬間、素早く一番右の機体の頭に銃を打ち込み接近、そして潰れた頭を掴みスーフェの方へと投げますわ。
勿論吹っ飛ぶほどではありませんでしたが、スーフェも此方に接近しており、コックピットギリギリに一太刀、そして中を除き保護している間は素早く私がスーフェと隣のウディアードとの間に入りますわ。
「確保しましたお嬢様」
「んふふ、手が早いのねぇ、そんなに信じて良かったのぉ?」
「何となく、リリー嬢の狙いは姫では無いような気がしましので」
「ふーん、じゃあ何かしらぁ?」
「私とこの私の機体を潰す事でしょう? 姫は囮、九番隊を殺さなかったのも私達に知らせる為、そして帰って来てギリギリになんて都合が良すぎると思いますわ」
「そうよねぇ、ま、わかるわよねぇ……そう、私も流石にこれからの戦でソイツを使われると面倒だなって思ってねぇ……同じ強行派の屋敷にこの子を隠しておいたの、そしてあなたが誘き出してぇ……潰す為にね!」
「そちらの機体の御名前を教えて頂いても?」
「んふふいいわよぉ……ラッヘ傭兵団隊長専用SV『スミエル』 ……V型特化のS型よぉ」
「……教えて頂きありがとうございますわ、それではそろそろ始めませんこと?」
「いいわよぉ」
リリー嬢がずいっと前に出ると、三機が後ろへと下がりますわ。
潰すだけなら全機でかかってくるはずですが、やはりこの方何事も自らが楽しみたい方ですのね。
「改めて名乗りますわ、ライリー皇女殿下専用SVH『ヴァレリア』でしてよ!」
「んふふ、特化型に付いてこれるかしらぁ」
私はチラリとスーフェを見ると、スーフェは少し離れた所で、私が少し広く動いても問題ない位置にいますわ、流石スーフェですわね。
銃口と切っ先を向け、相手は二本の剣を構える。
先に動いたのは私。
後ろに大きく後退しながら銃を放つ、相手はそれを左右に動きながら此方に近づいて来る。
中々早いですわね。
直ぐに詰められそうになりながらも、銃で牽制しつつ此方からも突撃の突きを繰り出す。
そして相手はそれを剣をクロスでて防御、私のレイピアを上に上げて飛びかかって来るのを銃で牽制しつつ横から蹴りを放ちますが空振り、相手はバックステップで回避しましたわ。
そのまま一定の距離を持って静寂。
次の瞬間、どちらからともなく相手は刃を此方に突出し、私は銃を放つ。
そして銃は命中しましたが肩にわざと当たりに行き、そのまま此方に剣で追撃をしてきますわ。
戦闘経験の差と言われればそうなのかもしれませんわね。
私は何とか左の肩を犠牲にしながら相手の左腕にレイピアを刺してブースターを使いながら少し大きく回避しますが、そこに剣を投げつけられ回避した所に斬りかかれて足を損傷しながらもレイピアを突出し相手の間にまた静寂。
「んふふ……予想以上にやるじゃない、でもこれで終わりよ」
確かに、どう考えても分が悪いのは私ですわね。
致し方ありませんわね。
私は機内だけに聞こえるように命令しますわ。
「ヴェークシステムを作動させて下さる」
「警告、魔力切レニヨル対内負担ガ過度ニ発生シマス」
「了承ですわ」
「了承……システム起動……完了……機体損傷ニヨリ部分起動……二十秒後展開シマス」
「遅いですわね」
「機体損傷ニヨルタメ、約十秒ノ遅延」
私はシステムを起動させて、折角の呼びかけに答えますわ。
「終わりませんわよ」
「んふふ、確かにV型特化相手によくやったけどぉ、貴女はもうジリ貧」
「そうでもないですわ……」
その時、システムの展開可能を告げる。
「システム起動、展開ですわ!」
ぶわっと体から何かがごっそりと抜ける感覚に教わり、一瞬クラリと来ましたが、立て直し相手を見る。
「それでは、反撃ですわよ! おーっほっほっほっほ!」




