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「他愛ありませんわね」
あと少しで目的地、パペーラ王国の王都といった所で襲われたのですわ。
しかも相手もウディアードを使用してきており、かなり驚きましたわ。
襲われた場所は山の中腹部、山の斜面を下り私達を挟むように四機のウディアードが現れ交戦。
グレースさんは不安でしたが、訓練通り相手を御す事が出来ましたわ。
先ずは相手が動くのを待ちますわ、勿論スーフェが相手に勧告し、道を開けろと言っておりましたが反応も無く襲ってまいりましたわ。
私の方は先ず相手の脚に弾を放ち一機を少し足止めるとともに隙を作りそこをグレースさんが攻撃、そのグレースさんに向かって行く敵を私が横からコックピットを突き行動不能に、そして一対二となっているスーフェの救援に向かいましたが……既に二機目を切り捨てているところでしたわ。
襲われるとは思っておりましたが、ウディアードが出て来た事には驚きましたが、他愛も無く終わってしまいましたわ。
そんな予想していた襲撃を乗り越え、王都へと向かい王都の城門前で一同ウディアードから降りますわ。
「此処まで無事に着け感謝している」
「いえ、任務ですので」
「そう固くならず、良ければこのまま感謝のパーティーを催させて頂きたいと思うのだが」
「申し訳ございませんが、我々は速やかに任務の報告をし、帝国に戻らなければなりません」
スーフェが淡々と断りを入れていると、城門から複数の護衛を連れて恰幅の良い男が……贅肉を揺らしながらハンカチを手に此方に向かって来た。
そして婚約者の手を取りうんうんと首を振る。
「いやいやよくぞ戻った」
「これはダルサ様、帝国の方々のご助力により我が婚約者も無事に戻りました、ご心配おかけして申し訳ございません」
「良いのだアイン君、君とその婚約者が無事で何よりだよ」
どうやら婚約者の名前はアインと言うそうですわね、初めて知りましたわ……まぁ家名は分かりませんからどの程度の爵位の方なのかは分かりませんが。
それにしてもダルサと言うのは聞いたことがありますわ。
私が聞いたことがあるという事は、それなりの地位にいる人間と言う可能性がありますわね、何せ他国の要人についてはまだあまり触れさせては頂けませんでしたが、名前や特徴程度ならば聞いております。
もしこの方が私の知るダルサと言う人物であるのであれば、この方は伯爵家、しかも権力のある……ですわ。
「君たちが魔導帝国の騎士かな、今回は真に感謝している、先程ウチでの護衛中にウディアードでの襲撃があったとか、いやはや国内がごたごたしていてすまないね、アイン君はもう言ったかな? これから感謝のパーティーがあるんだよって言っては頂けたかな? 勿論帝国には此方から伝令を入れておこう、あちらも快諾してくれるだろう」
この態度、先ずは口調は此方が貴族では無いと知っているかのようですわね。
それにどうしてもパーティーに向かわせたい何かがあるという事でしょうか。
「……」
スーフェが此方をちらりと見ますわ、それに私は一つ頷き応える。
流石にこの人物の誘いを蹴るのは色々と厄介でしょうし、しかしそうなるとウディアードが無防備になってしまいますわね。
「パーティーに参加したいのは山々なのですが、我々は我々の象徴たるウディアードから離れる訳には参りません」
スーフェがそう言って自機をちらりと見ると、相手も成程とうんうんと首を振る、どうもお腹の中が黒そうな方ですわね。
「此方が警護に、と言っても難しいでしょう、ではパーティーは我が庭で立食にしよう、そこに三機置くといい」
……これでパーティーへの参加は決まりましたわね。
流石にウディアードと一緒の場所であれば奪取は難しいでしょうが、それ以外の目的があるということかしら。
「分かりました、多大なご配慮に感謝いたします」
「いやいやよいのだよいのだ、それでは後で誘導の者をよこそう」
そういってまた贅肉を揺らしながら街へと戻って行った。
「では我々も一足先に街へと行きます、護衛して頂きありがとうございます、ではまたパーティーで」
そう言って婚約者と馬車は消えて行った。
「……お嬢様、奴らの目的は何だと思いますか」
誰もいなくなったその場でスーフェがぽつりと問う。
「……そうですわね、食べ物に何かを混入して機体の奪取も考えられますが、そこまで強行に出るとは思えませんわ、ですのでパーティーによって私達を此処に足止めしたい誰かの思惑、と言う可能性が高いですわね」
「しかし私達だけを留めても……」
「いえ、九番隊で私達はイレギュラー、それを排除した時にその場で何かしらの思惑が渦巻いている可能性がありますわ……ですので早めに帰らなくてはなりませんわ」
「でもどうやったら早めに切り上げさせてくれるんでしょうか……」
グレースさんの意見も最もですわ、時間稼ぎであるならば早めに切り上げさせたいはず。
ですが、何とかもっともな難癖か、若しくは相手の強行を誘い出すまでですわね。
「ダルサ伯爵様より貴方達を案内するように言われています、付いて来て下さい」
そんな事を話していると、向こうから一機のウディアードが近づいて来てそう告げる。
私達はその声に従い、街の塀の中を塀に沿って進んで行きますわ、どうやらパペーラ王国ではウディアードの通り道はこの内円と言う事ですわね。
そうして到着して広い庭に三機のウディアードを停め目の前のパーティー会場に入る。
「いやいやよく来て下さった」
「お招きいただきありがとうございます、しかし我々も任務故早めに切上げさせて頂きたいのですがご了承頂けますでしょうか」
「……できれば長く歓待したいのだが」
「私達はまだまだ青い騎士です、この様に歓待を受けたなどを知られれば同期から恨みを買うでしょう」
「ふむ、仕方ありませんな」
肩を落としながらスーフェに分かったと了承するダルサ伯爵、そして始まるパーティー。
何人かの婚約者とハンナ嬢の関係者と思われる人々に感謝を言われて、私達も少しお酒を飲みますわ。
「失礼少しお話宜しいかな」
そう言って私に近づいて来たのはダルサ伯爵ですわ。
「はい、なんのご用でしょうか」
「いや何、ハンナ・ヘーレ嬢に聞いたがね、君もどこかの令嬢だったそうでは無いか」
「……」
「もし魔導帝国が嫌になったらウチに来るといい」
「ありがとうございますわ、しかし私今の所そのような予定はございません」
「今は、な、君も知っているだろう小国群、そして帝国内でバタバタとある、有利な方に付く事を進めよう」
伯爵はそう言うと去って行きましたわ。
……つまりは裏切って此方に来いと言う事ですわね、帝国への愛国心の乏しい外から来た令嬢を引き込む切っ掛けと言った所でしょうか。
しかし、小国群の事を引き合いに出したと言う事は、この国ももう敵国と言う事に成りますわね……そしてそれを私に言うと言う事は、既に発表はしていなくても帝国やその他の偉い貴族は知っているという事ですわね。
そしてそれが反皇帝派と通じている場合、今九番隊は暗躍中と言った所でしょうか……これは本格的に戦争の準備をしなくてはなりませんわね。
それと一刻も早く帰り、帝国の様子に変わりは無いか見なくては、少し胸騒ぎがしますわ。
「二人とも、そろそろお暇致しますわよ」




