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「暇ですわ」
高笑いの練習も護衛中には行ってはいけないとのスーフェからのお達しがありましたので、残念ながら今は静かに周りを見渡ながら歩いておりますわ。
此処までの道のりは極めて順調そのものですわ。
なにせ、街に着く、護衛が迎える私達は待機。
朝になる出発する、歩く、街に着く護衛に引き継ぎ待機。
朝になる出発する、歩く、村に着く、村に派遣されている護衛に引き継ぐを繰り返し、今は丁度五日目、漸く目的地のパペーラ王国が見えて来た所ですわ。
三つ目の村を出発して約二時間程行ったところでしょうか、そこには関所の大きな門があり、そこには同じく大きな橋が掛かっておりますわ。
パペーラ王国に行くのに、必ず通る難所とも言っていいですわね……まぁこのルートを通るのならと言う注が必要にはなりますが。
此処を通るときには、大きな谷が存在致しますから、橋を渡るのが最も早く正攻法の渡り方ですわ。
勿論、ウディアードが通れるようにとの大きさの門と橋ですので、此処まで大きくする必要があったのですわ。
……と言っても、ウディアードが一機程度が通れる程度の大きさですわ、ですので、向かい側から来るのを一体止めて、私達が渡らなければならないと言うことですわね。
門の近くにはこちら側と渡った後の二つに小さな砦がありますわ。
ここは門を守っている、又は検問をしている騎士の方たちが過ごされている場所ですわね。
近くに村も有りますので、そちらに行かれる方もいるようですが、殆どがこの砦で過ごすと言うことですわ。
「――」
「―――」
先頭のスーフェが何やら話しているようですわね。
そして馬車の中を騎士の方が覗いて確認、その後あちらから来る人達を一度止め、私達が渡り、その後パペーラの騎士? 門を守ってらっしゃる方たちが中に要る方に敬礼し、そして直ぐに通される。
本来ならばもう少し面倒な手続きがあるようですが、今回はお仕事しかも国の問題ですもの、当たり前ですわね。
此処からはどちらに向かうのかは、門の所に迎えに来ていた方の先導に成りますわ。
馬に乗ってスーフェの前を走りますので、先導の方、スーフェ、馬車、私とグレースさんと言う並びになりますわね。
さて、ここからが何が起きるか分かりませんわ、しっかりと周りを見張る事に致しましょう。
因みに目的地は、此処から西へ向かい街を一つ越えた先にあるのですわ。
私達も街を観光してよいと打ち合わせで仰っておりましたが、流石にウディアードを乗り捨てるような事は出来るだけ避けますわ。
仕掛けてくるのであればいつ頃でしょうか、此処から道に行く間か、それとも街から街へと行く間か。
難しいですわね。
私は国境を越えて歩いておりますが、草草の中に道が通っているようなそんな何処にでもありそうな光景ですわね。
見渡しも最高ですし、流石にここでは襲ってきませんわね。
まぁ谷の底はあまり草草が生えていないようですが、関所の門を超えて少しすれば、魔導帝国もパペーラ王国も変わらずと言った所ですわね。
そんなのどかな光景を見ながら行軍していると、最初の街が見えて来ましたわ。
既に辺りは赤く染まり、次第に黒へと変わる時間になってしまっておりましたわ。
街の方もいたって何処にでもありそうな、そんな感じですわね。
人より少し高いほどの壁が街を取り囲み、その中で人々は生活しておりますわ。
人しかいないのであれば、少しは機能したのかもしれない壁も、ウディアードなどと言う大きさの物がありますから、余り効果があるとは思いませんわね。
街の入り口まで行くと、一度ウディアードを下りる事になりましたわ。
なにやら、婚約者様が降りてきてほしいと声を上げておりましたので。
「先ずはパペーラまで無事についた事を感謝している」
「いえ、任務ですので当然です」
「街へは帝国と同じように別に護衛が国から派遣されているので、君たちは自由時間にしてもらって構わない、街を見るのであれば案内の物をよこすが」
「我々は外で待機しております」
一応私達が外に出ましたが、やり取りをしているのはスーフェですわ。
と言うか、こんな所でわざわざウディアードを放って行くようなお馬鹿さんは此処にはいませんわよ。
ボーッと成り行きを見ていると、少し食い下がったいた婚約者さんだが、身を引きではと挨拶をして街の中へと入って行った。
「……少し強気に出てこられましたわね」
彼らが完全に行った後、独り言の様にぽつりと呟く。
「そうですね、帝国内ではこのようなことはありませんでしたし、やはり何かしら企みがあると見ていいでしょう」
「でも、ハンナさんの事はやっぱり気になります……」
グレースさんが少しため息を吐きながら街の方を見る。
二人は可笑しなお茶会の中でも一緒に居ることが多かったようですし、確かに気になると言えば気になるのでしょう。
「ですが」
「あ、分かってます大丈夫です! 流石に機体を置いてはいけないです」
苦笑いをしながら答えてくれるグレースさんにひとつ頷く。
「取りあえずは様子を伺う事に徹するしかありませんわ……情報を集めるにも中々難しいでしょうし」
「そうですね、私がかつての部隊であれば、適当な部下に命令できたのですが、今の立場ではそれは無理ですからね」
「あぁ、そう言えば何でしたっけあの方、チェイスさんでしたか、あの方今頃何をなさっているのでしょうね」
「……きっとその辺の情報収集に駆けずり回っていますよ」
「流石、情報を扱う部隊ですわね」
「お嬢様、宜しければ折角なので何か食べ物でも買ってまいりましょうか?」
「……そうね、私とグレースさんでスーフェの機体を守る様にしておけば、大丈夫だとは思いますが、そもそも入れるのですの?」
「大丈夫です」
……そこは詳しく聞くのは止めて起きますわ。
どうせ仮の身分証か何かを多数所持しているような気はしておりますもの。
「ではお願いしますわ、出来るだけ早く帰って来なさい」
「わかってますよ」
スーフェはそう言うと、私達がウディアードに乗り込むのを待って、自らのウディアードから黒い外套を引っ張り出しフードを被り、さっさと行ってしまいましたわ。
その間私達はスーフェの機体を挟みながら背中合わせに警戒態勢を取っておりましたが、特に誰かが来る事も無くスーフェは無事帰ってきましたわ。
「これは美味しいですわね」
私はスーフェの買って来たスープ――小さな鍋ごと買って来て、此処で木皿に分ける――とパンを食べますわ。
スープは鳥でしょうか、とてもダシが出ていて美味しいですわ。
それにその中に入っている腸詰や野菜に程よく味が染みて、またスープにも旨みが溶け出して更に美味しくなっておりますわ。
そこにパンを付けて食べる。
最近は携帯食のような物ばかりでしたので、こう言った物は大助かりでしてよ。
「前この街に来たときに此処のお店は美味しかったのを覚えておりました」
「良くやりましたわスーフェ、流石はスーフェですわ、おーっほっほっほっほ!」
「本当に美味しいですね! でも今度はちゃんとお店で食べたいですね」
「そうですわね、もし多くの暇が出来たら他国の美味を求めて歩くのも楽しいかもしれませんわね」
「アメリアさんはずっと騎士でいるんじゃないんですか?」
「そうですわねぇ、未来は分かりませんわよ、ただそういった未来も素敵だなと、そう思いますわ」
「確かにそうですね! 私も小さなお店とか家族と開けたらなって、最近思うんです」
「それは素敵な夢ですわね」
私達はそんな話をしながら、久しぶりに満足のいく食事を摂ったのですわ。




