30
私は今、久しぶりにヴァレリアの中におりますわ。
ウディアードには何度かヴァーチャルでの戦闘の為乗っておりますが、実機に乗るのはヴァレリアと出会った日以来ですわね。
ですが、調整やらなんやらで数回整備をしている場所にお尋ねし、ハッチなどを開く事は有りましたが、それは回数には入れておりませんわ。
ですので、久しぶりのヴァレリアの感覚を楽しみつつ、勿論周囲を警戒しながら、目の前の馬車を踏みつぶさない様に歩いておりますわ。
私達に任務が下ったのち、護衛対象であるハンナ嬢の婚約者と思しき人物とそのお連れと打ち合わせを致しましたわ。
婚約者様の方は、黒い髪に少し細い目で、何ともつかみどころの無さそうな雰囲気を纏っておりましたわ。
そしてハンナ嬢は、婚約者を待っていたとの事ですので、たいそうお喜びになっていると思っておりましたが、とても沈んだ顔をされておりましたわ。
それだけで何かあったと分かるのですから、この婚約者様がどれだけつかみどころが無かろうと、ハンナ嬢を見れば掴みとれる情報は多そうですわね。
しかしこのハンナ嬢の表情が演技と言う可能性も捨てきれないのですが、それはとても低い確率ですわね。
打ち合わせの内容はとても簡単な物でしたわ。
スーフェが先頭、次いでハンナ嬢と婚約者様御一行の馬車、最後尾に私とグレースさんがつきますわ。
打ち合わせの場でエミリー少尉が出来るだけ速やかにお送りするように、と言明しておりましたので、魔導帝国も厄介だと感じているのですわね。
さっさと出て行って欲しいオーラ全開と言った所でしょうか、それに私でさえ色々な可能性に気が付くのですもの、魔導帝国の上層部の方達も色々と勘ぐっているに違いありませんわ。
……と打ち合わせの事を少し思い出しましたが、実際ここまでの道のりは特に何かある訳でも無く、逆になさ過ぎて暇なくらいですわね。
しょうがありませんわ、此処は一つ高笑いの練習でもしておきますわ。
「んっん」
それでは音を立てない様に息を吸って。
「おー「お嬢様」っほっほっほ? あら何かしらスーフェ」
折角練習を開始しようとしていたところでスーフェが通信して来ましたわ。
「はぁ、お嬢様、一体何があって高笑いなどなさっていたのですか?」
「いえ、特に何があったわけではなりませんの、何かあったときの為に高笑いの練習をしていたのですわ」
「……とりあえず、前方に敵影なしとだけ伝えておきます」
「わかりましたわ」
まぁまだ帝都を出てから三時間程度しか経っておりませんもの、流石にこんな所で打って出てくるような事はしないでしょう。
パペーラの国までは約五日の行軍になりますわ。
ウディアードだけであればもう少し早く着けるのですが、馬車では馬も休めなくてはなりませんので、致し方ありませんわね。
途中二つの街と三つの村を通り過ぎてパペーラに入るのですが、そろそろ一つ目の街が見えて来そうですわね。
ここで一度休息をして、夜までに次の街へと向かい、その街の領主亭にてパペーラ一行は休息、私達はウディアードの中で待機。
ウディアードの中で待機は窮屈ではとグレースさんは心配しておりましたが、実際に乗ってみるととてもリラックス出来ますから、何も問題は有りませんわね。
……一応私は問題ありませんが、後でグレースさんに大丈夫か確認を取っておきましょう。
もし何かしら辛いのであれば早めに対処しなければ、賊と出会ってからそのせいで戦闘が出来ません等と言う状況になったら目も当てられませんもの。
さてそんな事を考えているうちに最初の街ですわね。
街中はその街を収めている領主に話が行き、その領主の持つ護衛を付ける事になっておりますので、私達は出発の時間まではウディアードにて待機ですわ。
「グレースさん」
「ひゃぁ! び、びっくりしました……どうしたんですかアメリアさん」
「驚かせてしまったようで申し訳ありませんわ、ウディアードの中は大丈夫かと思いまして」
「あ、大丈夫です! 窮屈かと思ったけどそんな事無かったから大丈夫です、心配してくれてありがとうございます」
「いえ、大丈夫であるならば、それでいいのですわ」
どうやらグレースさんの方は何も心配いら居ないようですわね。
これで一安心ですわ。
それから少しの間空を眺めながら、これからの事について考えておりましたわ。
元々は王妃になるのだと育てられ、それが仕方ない事であり私に出来る事だと信じて生きて来て、その後前世と思われる記憶を思い出して、結婚を破棄されて帝国に来て騎士に成りましたわ。
実際に面白そうだからと騎士になりましたが、確かに面白いは面白いのですが、そう言えば騎士になる事を目標に魔導帝国まで来て、その後の事を考えておりませんでしたわ。
今は九番隊を少しでもどうにかできたらとは思っておりますが、何故と聞かれると少し答えに困ってしまいますわね。
それは騎士になると言う目標の付属のような物にすぎませんもの。
私は騎士になった。
では次はどうしましょうか。
この後何も無ければ九番隊を卒業し、他の部隊へと転属になりますわ、それが此処のシステムですもの。
そして配属されたその場所で指導されながら騎士として洗練されていく。
それもまた素敵な道だとは思いますわね。
ただ一つ気がかりがあるとすれば、今後起こるであろう乙女ゲームの事ですわ。
此処魔導帝国内でも、そろそろヒロインが現れ攻略に励むか、それとも身を潜めるかは分かりませんが、どちらにしろ、何かしらありそうな気がいたしますわ。
そうなると、私と同じように損な役回りの方がいるかもしれませんわ。
実際ゲームでは悪役として引き立たせるために、命に関わるような苛めを行っている場面もありましたが、本来貴族の子女であるならばそのような事は絶対にしませんわ、私も行わなかったですもの。
私と同じように、殆ど何もしないにも関わらず、魔導帝国から非を問われるのは苦痛であるかもしれませんわ。
私の様に面白そうだからとそれに乗っかり他国で騎士になるような精神を持ち合わせておられなかったり、魔導帝国の王妃となりたかった、皇子が好きだったなどと言った場合、それはとても悲しい結果になってしまいますわね。
「お嬢様」
「あらスーフェ、時間かしら」
「はい、後数刻で時間です……考え事でもしていたのですか?」
「えぇ、ほら私がヴァレリアに乗った時に思い出した中に、魔導帝国でも私と同じような事が起きるかもしれないと言ってあったでしょう」
「はい、たしかあの女の様に男を誑かす輩が出るかもしれないと」
「それについて少しばかり考えていたのですわ……あれはただの学園ものではなく、ロボット戦闘RPGの続編ですもの」
「……そのロボなんたらは分かりませんけど、ただの学園ではないと言うのは?」
「少しばかり戦争が起きて、そこで愛を深めると言うシナリオですのよ、まぁ元がウディアードの戦闘メインのお話し……超古代文明期のお話しですから、それも最もと言えるでしょう」
「……戦争が?」
「もし、本当にゲームの、私の前世のシナリオ通りに事が運ぶのだとすれば、私達が行っているこの護衛も、その戦争に繋がっているかもしれないと考えてしまいますわ」
そうでなくとも、今は小国を束ねようと戦をしている国がある。
その国が大きくなれば小国は戦っても無意味、出来るだけ被害を少なくするように立ち回るしかありませんわ。
その火種が魔導帝国を狙う物だとすれば、魔導帝国が戦火に巻き込まれるのは必須。
そして騎士である私が投入されるのも然りですわ。
「まぁ未来の事等、本当にあっているかはわかりませんわ」
「ですが、このまま時間が過ぎればいつ戦争になっても可笑しくないほどはありますね、最近の魔導帝国周辺は」
「そんな中で、反皇帝派が動いたら大変ですわね」
「……お嬢様は今回の事には魔導帝国の内部の息もあるとお思いで?」
「当たり前ですわ、国と言う物は一致団結などほぼ不可能ですわ、そしてそのような反乱組をどのように抑え、そしてその存在を見せしめに消すか、それが上に立つ者の度量ひとつで変わってくるのですわ」
「皇帝派もまた、この期に反皇帝派を排除しようとする、と言う事ですね」
「そうですわ……まぁ私達はただの騎士、政はお上に任せて、納得できる命を遂行するだけですわ」
「……納得できない場合は?」
「そうですわね、本当に納得できない場合は……逃亡ですわ! 私とヴァレリアならば敵なしですわ、おーっほっほっほっほ、おーーほっほっほっほっほ、おぁーーーっほっほっほっほっっっごほごっほコホコホ」
「ちょ、お嬢様大丈夫ですか?」
「…………大丈夫ではありませんわ! 私が高笑い中に咳き込むなんて! なんて、なんて事! この行軍中はずっと高笑いの練習ですわ!!!!!」




