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ハンナ・ヘーレの元婚約者らしき人物一団が尋ねて来た後、その護衛が私とスーフェそれにグレースさんに任命、今はその作戦会議をしているところですわ。
場所は地下二階、いつも勉学をしている場所ですわね。
因みにハンナ嬢がもと居た国はパペーラ王国と言い、魔導帝国やアーリスル王国から見たら小さな国ですが、小国と言うには少しばかり大きくなった国ですわ。
パペーラ王国は、魔導帝国の西に位置し、魔導帝国と隣国している国の一つですわね。
そもそも魔導異国の国土はかなり大きく、故に接している国も多いのですわ。
そして、その接している国は何時魔導帝国が侵略してくるとも分からないと言う恐怖を少しばかり持っているのが常ですわ。
いくら手を出されなければ此方からは武力的交渉は行わないとしても、その大きさと言うだけでも脅威ですのに、それに加えて魔導帝国と名の通り古代文明の遺跡の研究にもかなり力を入れ、ウディアードもかなりの数保有しておりますから、脅威であると見ない訳にはいかないのですわ。
そしてそんな脅威にさらされているのが、南西にある私の故郷アーリスル王国、そしてハンナ嬢の故郷パペーラ王国、他にも東に二つ、そして南にもう一つの国が隣接しておりますわ。パペーラは縦に細長い様な形ですわ、と言ってもまぁまぁ国土は有りますが。
北方面は海に面しておりますので、特に隣国と言う物は有りませんわ。
そしてそんなパペーラ王国へと届けなければならないとの事ですが、きな臭い事この上ないですわね。
私は近頃此方の魔導帝国に越してきましたから、魔導帝国内の事は良くわかりませんが、元々アーリスル王国の貴族として、周りの国の情勢は少しばかり嗜んでおりましたわ。
パペーラ王国を超えた先には幾多の小国が連なる小国群がありますわ。
そして、私が出てくる少し前、小国群のなかで小国を統一せしめんと言う話題があったのが頭をよぎりましたわ。
あれからどのように小国が動いたのかは一介の騎士たる私にはわかりませんが、そろそろ大々的に動いてもいいはずですわ。
そんな中で出たハンナ嬢の連れ戻し。
普通国の裏切り者など手元に戻そうとはしないはずですのに、彼女の力か、それとも血か分かりませんが、兎に角ハンナ嬢が必要になる事態に陥ったと言う事ですわね。
男爵令嬢の血が必要と言うのもふに落ちませんし、やはり魔導帝国の秘密を少しでも知り、その技術を元に何かしら武力を高めようとなさっていると言う可能性が濃厚なような気がしますわね。
ですがそうなると気になるのが、ハンナ嬢が今までにやって来た事ですわ。
グレースさんの話では、ハンナ嬢も同じくボーッと特に空を眺めながらボーッとしている事が多かったと言う事ですし、当人は本当にただ婚約者を待っていただけなのかもしれませんわね。
……と言うよりも、魔導帝国に潜入させることが目的で一連の話が作られたシナリオ通りだとすると色々と面倒くさいですわね。
何せ護衛している私達の機体を奪う、若しくは調べることさえ視野に入れているのであれば、国に着き歓迎され、その隙にやられてしまうかもしれませんわ。
何より、その小国連合に反対の立場なのか、賛成の立場なのかが問題ですわね。
なにせ、賛成であれば、魔導帝国の敵に成り得ると言う事ですし、反対であれば、武力を用意、若しくは他国へと援助を申し入れる事になるかもしれませんし。
「……と言う事で、ハンナ伍長と婚約者とそのお連れ様の馬車を挟んで、前をスーフェ軍曹、後ろをアメリア伍長とグレース伍長と言う方針で行こうと思う」
「エミリー少尉発言しても?」
「なんだい」
「ウディアードは連れて行かなくてはいけないのですの? 私の機体は、まぁ調査される心配は有りませんが、通常の機体だと色々と触られたり最悪奪取される可能性もあると思いますわ」
流石に奪うはやり過ぎでしょうけれども……しかし何があるとも分かりませんし。
「なるほどね、アメリア伍長の言い分も最もだけど、流石に作戦命令を覆す事は難しいと思うよ……三人の任命にはウディアードで護衛と通達されているし、流石に向こうも強引に奪取はしてこないと思うよ……警戒は必要だけど」
……つまり魔道帝国側もそれに乗って私達を餌にしようと言う事ですわね。
パペーラの動向を知るには丁度いい事でしょうし。
「了解ですわ、しかたありませんわね」
「まぁ色々と思惑が絡んでいるのは明白だけど、兎に角護衛さえすれば戻って来てもいいから、特にあっちで何かしらの歓待を受けよと言う指令も来ていないから」
「それならまだ救いですわ、あっちで何日か過ごせなどと言われては気が気ではありませんわ」
既にただの平民の小娘ですもの。
それに令嬢だった頃もパペーラの貴族とは会食を何回かした事があるだけの仲ですわ、そこまで強いつながりは無かったはず。
「それじゃあさっきの通り、作戦開始は明日の朝だから今日はゆっくりと休むように」
エミリー少尉はそれだけ言って階段を上って出て行かれましたわ。
そしてその後に続いてメイドたちもさっさといなくなる。
「アメリアさん、さっきのどういうことですか?」
「グレースさん、パペーラの向こうの小国群で統一の動きがありますの、それの為に私達のウディアードを調査して技術力を上げたり、若しくは野盗に紛れて私達を襲い機体奪取、護衛失敗で魔導帝国にも借りを作れる等々、パペーラは軍事力を上げたいのではと私は疑っておりますの」
「えぇ……何かあるんじゃとは思ったんですけど、まさかそんな事が……」
「スーフェ、それで向こうの小国群の動きって今どんな感じなのですの?」
「既に統合された国は幾つかあります、それらは連合国エルザビと名乗っておりますね」
「なるほど、既にいくつかくっ付きましたのね」
「はい、もし本当に小国群を連合とする事が出来るのならば、かなり大きな国が出来上がりますね」
「……そうですわね、ですがそんなにうまく国が回るとは思えませんわ、だって抵抗した小国を潰しながら吸収して大きくなった国など、それこそ唆してやればどこかしこで反乱がおきますわよ、それをまた圧政で潰して、それに大きな国の運営の方法も知らないでしょうし、分不相応と感じますわね」
「私もそう思いますお嬢様、しかしその隙を与えず大きな国へと進行すれば、その国のノウハウを手に入れることも出来るかもしれませんよ」
「あらスーフェ、貴女もしかして連合国の狙いは此処だと思っているのかしら」
「はい、私はそう思っていますよお嬢様」
連合の最終目的地が魔導帝国を潰す事と言うのであれば、何処かの国が手引きして連合を造ろうとしているとも考えられますわね。
なにせ魔導帝国を潰したいと思う国はいくつもありますもの。
本当に魔導帝国に帝国に抵抗出来るのであれば、その期に乗じて同じくその戦にはせ参じる国は多そうですわね。
……とすると、パペーラを抑えていない訳では無いと思うのですが、彼の国は一体何処に付いているのでしょう、それともどの国にもつかず浮いている状態。
それならば早々に連合とやらに合併される事になるでしょうね……戦前で魔導帝国に協定の申し込みをしたところで、受けるか分かりませんのに。
「まぁ考えても致し方ありませんわね、何せ私達は今はただの騎士ですもの」
「そうですよ、きっと何とかなりますよ!」
「えぇそうねグレースさん、良い方向へと考えを持って行かないと、自ら悪い沼地に嵌って出てこれなくなってしまいますもの」
「……お嬢様の場合はそんな沼に入るとは思えませんけど」
「……スーフェ、それは私が考えなしの能天気お嬢さんだと言いたいのですの?」
スッと目を細める私に、スーフェはサッと目をそらした。




