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「色々と教えて頂き、ありがとうございましたわ……それと私はもう平民のアメリアですわ、呼び捨てになさってくださいませ」
エヴァン様に私のいなくなった後のアーリスル王国の話を聞き、アーリスル王国や第二王子がどのような事になっているのか把握した私は、割と満足しておりますわ。
私を追い出した王子とヒロインは軟禁、他の取り巻きの方々も家を継げず教育のやり直し。
まぁお優しい家庭があれば、教育をやり直したのちに家を継いでもいいとお許しが出るかもしれませんが。
「いや礼はいらねって……それにしてもアメリア……でいいか? アメリアはこれからどうすんだよ」
少し戸惑ったように笑ったエヴァン様が尋ねてくる。
「……どうもこうもありませんわ、私は騎士となってその職務を全うしますわ」
「騎士か、なんで騎士なんかになったんだ? まぁ今のアメリアを見ると、昔よりはましで楽しそうってのは分かるが」
「その通り、楽しそうだからですわ、それにウディアードにも乗ってみたかったのですもの」
「まぁ楽しいならそれでいいけど……そうなるとこれからアメリアは俺の部下になる可能性もあるのか」
あら、そう言えば一応皇子の警護も騎士の役目ですから、今後もし配属先が合えばそう言う事になりますわね。
「ですが、平民の私が皇子殿下の護衛にはならないと思いますわ」
「まぁ、確かにな……あー、今の隊はどうだ?」
「どう? と言われましても、九番隊は色々と可笑しいと言うのはご存じだと思いますが」
「そっか、最初は九番からだもんな、あそこはなぁ」
「フフ、ですが、私あの隊を出来るだけ変えるつもりですわ、貴族の思惑など知った事では無いと……そちらの方が面白そうですもの」
「そうか、それがアメリアの素か、ならまぁなんかあったら頼ってもいいぜ、昔馴染みって程知っちゃいねぇけど」
「それは有難いですわ、皇子殿下の護衛の騎士様と繋がりが出来るだなんて……何かありましたら直ぐに送らせて頂きますわ、因みにどちらへ?」
「あぁ手紙は一番隊に送ってくれればいいぜ」
「エヴァン様って一番隊の所属ででしたのね、分かりましたわ」
「……一応殿下の護衛と、幼少のころからの遊び相手だしな」
頬をポリポリと掻きながら苦笑いをするエヴァン様。
成程、皇子殿下の護衛ともなると一番隊の配属になるのは当たり前ですわね。
……それにしても少し話し過ぎてしまったかしら?
「エヴァン様、私はそろそろ」
「そうだな、あんまり離れる訳にもいかないみたいだしな」
私はそう言って、部屋を出るとそこにマスターが扉の少し離れた場所で待っていて下さいましたわ。
「あらぁ、もういいのぉ?」
「はい、ありがとうございましたわ、色々と知ることが出来ましたの」
「すまない従業員を借りて」
「いいえぇ、エヴァン様は大切なお得意様ですし」
「……エヴァン様でしたら、本当の令嬢も本物のメイドも近くにおられるのに、お得意様なのですわね」
「いや、まぁ此処は異様に居心地がいいからな、様々なしがらみを取って一息しながら、活気のある者を眺めるのは癒しだ」
ドやっと言い切ったエヴァン様が少し可笑しくてクスリと笑ってしまう。
「折角態度はしっかり貴族様ですのに、最後のキメ顔で台無しですわフフフ、やんちゃ坊主は抜けてませんのね」
「……それよりも紅茶とケーキを頼む」
「フフ、畏まりましたわ、あちらでお待ちになっておいてくださいませ」
私が席を指すと、エヴァン様はそそくさと席へと向かって行く。
「アメリアちゃん、エヴァン様とお知り合いだったのねぇ」
「はい、正直会うまで思い出しませんでしたけど、昔の頃でしたもの」
「そうだったのねぇ……まぁ詮索はしないけどぉ色々大変そうねぇ」
「昔に比べれば、今はただ楽しいだけですの、辛くはありませんわ」
私はそう言って、紅茶とクッキーを受けとりエヴァン様の所へと運んでいく。
エヴァン様は、さも何もありませんでしたと言う態度で、私も特に親しくしていると見せつけるつもりは有りませんでしたので、通常の接客を致しましたわ。
ただ帰りかけに、色々ときな臭い事が起こっているから気を付けろとは言われましたが。
正直、今の私では特にきな臭い事に巻き込まれましても、躱すすべが少なすぎて巻き込まれた時点でお終い確定ですわ。
それでもエヴァン様と言う強いカードを頂いた事にはかなり感謝をしなくてはなりませんわね。
変なのが近づいてきたら、そのまま懐に入って手紙をお渡しする事も出来るかもしれませんし。
フフフ、ようは私の使いようですわ。
「あ、新人ちゃん、お茶御代わり貰える?」
「只今お持ちいたしますわ」
それでも今はお仕事に集中致しましょう。
*****
その後、特に何か波乱がある訳でも無く、お仕事をこなしましたわ。
結局エヴァン様とのつながりを作れたので、今回は大成功ですわね。
それに加えて、今日働かせて頂いたお店との関係もかなり良い物の様に感じましたわ。
「お嬢様、お疲れ様でした」
「えぇ、スーフェの方はどうだったのかしら」
「メイドとして普段と同じような仕事ですから、特に問題もありませんでしたよ、お嬢様達はどうでした?」
「私は色々迷惑かけちゃいましたけど、楽しかったです」
「私は令嬢として評判がとても良かったわ、流石元令嬢だけありますわおーっほっほっほっほっほ」
「それを自分で言いますかお嬢様……」
「なんにしても、特に何か問題がある訳でも無く終わって良かったですわ」
私達は、お仕事を終えて、令嬢カフェ側の更衣室で元の服装に着替えておりますわ。
エヴァン様と言うハプニングがありましたが、その後は他の知り合いが出て来る事も無く、お仕事に力を注ぎましたわ。
ただやはり気になるのは、魔導帝国で今まさに行われているであろう乙女ゲームについてですわ。
……いえ、もしかしたらもう少し先のお話しになるかもしれませんわね。
何せエヴァン様も乙女ゲームの要因ですもの、もしこちらのヒロインが何かしらのアクションを起こしていると言うのであれば、エヴァン様にも何かしらの影響があるはずですわ。
……こちら側の乙女ゲームは無視するつもりでしたけど、何となくそうも言っていられない気がしてきましたわね。
ですが、面白そうな事なら歓迎ですわ。
もし、此方での私の役割の方がいらして、婚約者を失いたくない、今の地位を捨てたくないとお思いになられているのでしたら、私も出来る限り応援致しますし。
……何人も手玉に取るようなヒロインであれば、国をかき回すだけですから、折角魔導帝国に来たと言うのに、そんな事で慌ただしくなるのも嫌ですわ。
まぁ、私と同じように自らの楽しみをお求めになられているのであれば、お手伝いしない事もありませんし。
「お嬢様、どうかいたしましたか?」
「いいえ、なんでもありませんわ、それではマスターのお二人にお礼を言って帰りますわよ」
まぁ、巻き込まれるならそれでも良いですわ、騒動が起きるならそれも仕方ありませんわ。
ただ、私の元へとその火の粉が来ると言うのならば、私も色々と楽しませて頂くだけでしてよ、おーっほっほっほっほっほっほ。
「お嬢様、また心の中で高笑いしていますね」
「な! 流石スーフェですわ! やはり私の心が……」
「顔に出てます……」
「顔に出ているなら仕方ありませんわね、折角です声にも出して高笑いを」
「止めて下さい、マスターに迷惑が掛かるかもしれないですよ」
「しょうがないですわね」
それでは今度こそ、マスターに挨拶に行きますわ。




