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スーフェと別れて連れてこられた場所は、先程の店内と配置が逆になっているお店。
「知ってると思うけどぉ、ここがどういう所かの確認ねぇ」
此処は双子の姉妹が経営するカフェアパタイト。
余談ですが、もう一人お兄さんがいるそうですわ。
そしてこのお店は、私達が今いる姉が経営する令嬢カフェと妹が経営するメイドカフェがありますわ。
メイドカフェと言うのは、メイドの恰好をした子が接客をしてくれるお店で、令嬢カフェは令嬢に扮した方が接客を行ってくれるカフェですわ。
両方のお店とも、みだらな事をしようものなら即刻捕まり騎士団に引き渡されるとのことですわ。
それは貴族だろうと何だろうと関係なしと言う事ですので、お馬鹿な貴族の方は既に何人も騎士団に引き渡されて行っているようですわ。
そう言ったお馬鹿な貴族がこの店にちょっかいを掛けた所、お店をひいきにしてくれている貴族の方たちが威圧して黙らせたと言うエピソードを語ってくれましたわ。
「だからぁ、良くわからない人に絡まれたら、遠慮なく呼んでねぇ」
「わ、わかりました!」
「その時は呼ばせて頂きますわ」
その後、接客に関してのレクチャーを受け、私とグレースさんは合格を頂きましたわ。
ここで接客がおぼつかなければ、残念ながら裏方か御雇いする事は出来ないそうですが、この程度なら私の敵ではありませんわ。
「じゃあ二人ともこれに着替えてねぇ」
渡されたのはドレス。
グレースさんがオレンジ色で、私が黒のドレスですわ。
令嬢カフェの店員は裏方で絶対に表に出ない方を除いて、皆さんドレスを纏っておりますわ。
因みにお隣のメイドカフェは全員メイドの恰好ですわね。
「……じゃあグレースちゃんが人見知りお嬢様で、アメリアちゃんが気の強いお嬢様ねぇ」
「が、頑張ります」
「楽勝でしてよ」
このように、働く方は自分がどのようなキャラなのかを開店前に決めますわ。
そのキャラに沿って接客を行い、お客様に満足したと言って帰って貰うのが
この店の目指すところと言う事ですわ。
「たまに踏んでくれって言ってくるお客様もいるけどぉ、適当にいなせばいいからぁ、踏んじゃうと次も次もってなって大変よぉ」
……成程、令嬢に苛められたい、冷たい目線で見られたいと言う変わったお客さんもいらっしゃるのですわね。
ですがまぁ、そう言った方々もこの店の大切なお客さん、お金を落として行くのですから、無下には出来ませんわね。
……いえ、逆に無碍にした方が喜ばれてしまうのではなくって?
そう考えると中々に対応が難しいですわね。
*****
「いらっしゃいませ」
「あれ、見ない子だね、新人さん?」
「えぇそうですわ、今日は少し此方で働かせて頂いているのですわ」
「ハハハ、新人さんなのに言葉使いは慣れてる感じでいいね」
「フフ当たり前でしてよ、私は令嬢ですもの」
「おー、上手い上手い、それじゃあ紅茶とクッキーを頂けますかお嬢様?」
「分かりましたわ、今持ってきますので少し待っていてくださる」
何だかんだと開店したお店で、私のお客さんの印象は上々ですわ。
主に『言葉使いが上手』との事ですわ。
まぁ、私本当に元令嬢ですし、特に意識せずとも既にこの話し方ですから、それで喜んで頂けるのならばここに来て良かったと思いますわ。
「紅茶とクッキーが入りましたわ」
「はーい、こちらですわ」
「それでは行ってまいりますわ」
そしてお客さんから注文を取り、裏へと回りキッチンでお茶とクッキーをお盆に乗せて注文が入った所に持って行きますわ。
「お待たせいたしましたわ」
私は先ずお盆の上のクッキーの乗っているお皿をテーブルに置き、お客さんの目の前にカップを置きますわ。
「今日は特別に私が淹れて差し上げますわ」
と行ってからポットに入った一杯分のお茶を注いでいく。
因みにこれは私のキャラの為であり、他の方は『お客さんに特別サービスですのえへへ』や『ふ、フン、私が淹れた紅茶何だから残さず飲むのよ、勘違いしないで下さいまし、これは私の紅茶を入れるスキルアップの為なんですのよ』等、それぞれのキャラに合わせてお茶を持って行くのですわ。
勿論カップに紅茶を入れて持って行く方もいらっしゃいますわ淡泊なキャラの令嬢は『お茶持って来ましたわ』と言ってお茶を置いて去って行ったりと色々ですのよ。
因みにグレースさんは「そ、それじゃあ淹れますね……で、出来ました、どうぞ!」とキャラなのか素なのか分かりませんが、しっかりと働いておりますわ。
「新人ちゃん」
「なんですの?」
「お茶のおかわりと君の靴のあ「ただいまお持ちしますわ」」
と言う、確かに少しばかり変わったご趣向の方も訪れているようですわ。
そんな店内で、たまにお客さんとお話をしながら、最近街で起こったことや、噂話などを拾って行きますわ。
やはり話題に上がるのは、先日といっても少し前になってしまいますが、赤いウディアードが王城へと向かった件がかなり広がっていたと言う事ですわ。
そのウディアードはどう考えても私が乗っていたヴァレリアですわね。
しかし此処帝都は割と治安が良いらしく、やはり窃盗や万引きと言った物はあるそうなのですが、大きな組織的な犯罪などは起こらなくて住みやすい街と言う事ですわ。
騎士団本部のある帝都でわざわざ騒ぎを起こそうとする輩も、騎士団として本部のある街でそのような真似はさせないと意気込む騎士達で、この街の治安は保たれているようですわね。
……そのぶん貴族の争いは多そうですが。
その辺りはあまり市民に影響を与えない様にしているらしいですわ。
これは従業員の方から聞いた話ですが、この街の住民はどこのだれがどの貴族の息のかかった者か分からず、下手に手を出せば痛い目を見る可能性があり、リスクが大きいので手を出来るだけ出さないと言う事でしたわ。
……手を出した平民が実は対抗貴族と繋がりがあり、その蛮行を晒された貴族が爵位を取り上げられたと言う話まであるそうなのですわ。
この街は確かに平民が住むには住みやすい所だと思いますわ。
ただひとたび今の平和を手にしてしまったら、それ以外では生きていけ無さそうと言うのが、少し気にかかる所ではありますわね。
なんにせよ、このある意味膠着状態が、この街を緩やかな平和に導いていると言う事ですわね。
そんな事を思いながら仕事をしていると、一人の短髪の赤い髪をした青年が入って来るのが見えましたので、私は入り口まで行って挨拶をしますわ。
「いらっしゃいませ、どうぞこちらですわ」
「……」
「お客さ」
そこまで言ってその青年がじっとこちらを見て、眉を顰めているのが分かりましたわ。
一体なんなのでしょう、これはマスターを呼んだ方が宜しいのでしょうか。
「あの、失礼だが……アゲット嬢ではありませんか?」
その言葉に今度は私が固まる番でしたわ。