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「お金を稼ぎますわ!」
「いきなりどうしたんですかお嬢様」
あれからウディアードの訓練もふまえて毎日騎士となるべく励んでおりますが、本日は休日なのですわ。
そもそも私にとって休日と言う物は中々に貴重……と言うよりもあまり味わったことの無い物ですわ。
と言うのも、元々私は王妃となるべく励んでおりましたから、その毎日が学ぶべきものであり、それが当たり前でしたの。
勿論王妃となるべく基本的な講義のお休みな日もありましたわ、しかしそう言った日にはお茶会や夜会へと行かなければなりませんでしたから、何をしてもいいと言う本当の意味での自由な休日と言うのは、実は生まれて初めてという訳ですの。
ですがいきなり好きな事をしてもいいよと言われると、迷ってしまうのが人と言う物ですわね。
「アメリア伍長、明後日は休日として休んでね」
「休日ですの?」
「そうだよ、騎士と言っても毎日訓練している訳じゃ無くて、しっかりお休みを取る事も大切なんだよ」
「……分かりましたわ、ですが騎士としての休日とはどのように過ごせば宜しいのですの?」
「え? いや別に騎士とかは気にせずに好きな事をすればいいと思うよ」
「はぁ、好きな事ですの? 参考までに他の方はどのような過ごし方をしていらっしゃいますの?」
「そうだね、買い物に行ったり、朝からお酒を飲んでいたり、一日中寝ていたりとかかな」
「……成程、考えておきますわ」
と言うやり取りを少尉としたのは記憶に新しいですわ。
結局の所、私に何もしないと言う選択肢は有りませんでしたわ。
と言うよりも、一日中寝ていると言うのは、逆に大変そうですの。
確かに頭をからっぽにして心を安らかに紅茶を飲むのは素敵な時間ですわ。
ですがやはり少しばかり疲れがあって、その様な時間が映えると言う物ですわ。
だからと言って、無暗にウインドショッピングをして時間を潰すと言うのも勿体無いと思いますの。
確かに私達は騎士として少なからず御給金が月末に払われますわ。
まぁ入隊直後に月末まで少しばかり頂きましたが、特に何に使おうとも思いませんの。
御給金は食材費を引いてありますから、毎日食べ物には困りませんし、一日のほとんどを訓練で終えておりますので、本当にいつお金を使うのかと言う程ですわ。
普通の方でしたら、お酒代や小物を買ったりと色々あるのでしょうが、今のところは将来何があるか分からりませんのでその為の貯金ですわね。
お金があって困る事等少ないでしょう。
良い事を思いつきましたわ、折角のお休みですし街に行くのがいいですわ。
それに、外でお金を稼いでみるのもいいかもしれませんわね。
それに私は帝都に来ましたが、この帝都にはいったいどのような方が街に住んでいるのか、街の雰囲気はどうなのか、少しばかり知りたいと思っておりましたし。
それに元々私は街と言う場所には自由に行けない立場にありましたから、悠々と街へ赴き、そこに住む方と共に働くと言うのはきっと私の為になりますわ。
さらに私の今の立場はコネと言う物が少なすぎますの。
唯一取り合って頂けそうなジャスパー様もかなり高位の方のようですし。
ですので、貴族とのコネはもう少し騎士として名を褪せてからしっかりと作るとして、先ずは街でのコネを作っておくのですわ。
街の人々は様々な噂に敏感ですし、何か少しの頼みごとをするときにも知り合いがいないとどうにもなりませんわ。
その御縁で他の方を紹介して貰う事も出来ますし、コネは大切ですわよ。
少尉と話したその日にそこまで考えて、翌日に騎士でも街で少しばかり働いてみてもいいかと少尉に尋ねましたわ。
「ハハハ、面白いね、別に騎士だからと言って街でお手伝い程度に働く事は別にダメと言われてはいないよ」
「それは良かったですわ」
「それにしてもどうしてまた?」
「色々とありますわ、街の雰囲気が知れることや、街の方々とのコネにもなりますし、お金を貯めることもできますもの」
「まぁ確かにかなり利益がある事みたいだね」
「そうですわ、休日も無駄にしないのですわ、おーっほっほっほっほっほっほ」
まぁ色々と理由を付けましたが、実際もし一言で片付けてるならば……面白そうだからですわ!
だってたまに馬車から見る街での生活と言うのは、とても興味深くしかし私には許される事の無い物でしたし。
多分に憧れと言う物もあると思いますわ。
……先程の理由も最もですわよ。
実際コネは必要ですわ、お金もあった方がいいですわ、ですのできっとスーフェにも反論されませんわ!
フフフ、明日が楽しみですわ。
そうして本日朝食の席で三人で食事をしている時に、スーフェが「今日はお休みですがどうなさいますか?」と聞いて来たのですわ。
ナイスなライミングですわスーフェと心の中で親指を上げながら、フフンと胸を張る。
「お金を稼ぎますわ!」
「いきなりどうしたんですかお嬢様」
「え、いえ今日の休日の予定でしてよ」
「にしてもいきなりお金を稼ぐなんて、何か欲しい物があるんですか?」
「そう言う訳ではありませんわ、街での人脈作りや、雰囲気を知る事、それにお金はいくらあっても困りませんわよ」
「ほへー、流石アメリアさん、休日なのに色々と考えてるんですねぇ」
「いえグレースさん騙されてはいけません……お嬢様、街でお仕事を?」
「そうですわ」
「……つまり面白そうだから行くのにそれらしい理由を先に考えていた訳ですね?」
「…………な、何故に分かったのですスーフェ、私の心が読めてしまうのですの?」
「何年お嬢様とご一緒だと思ってらっしゃるのですか?」
「おぉ、スーフェさんすごいです」
「流石は私のメイドですわ、おっほっほっほっほ、おーーっほっほっほっほっほ、おぁーーっほっほっほっほっほ」
流石スーフェですわ、そして特に反論しないところも流石でしてよ。
すると何やらグレースさんがスーフェに向かって少し声を落として何か呟いておりますわ。
「……アメリアさんはよくこれをしますよね」
「お嬢様曰く、高笑いは令嬢のステータスとの事です」
「ふふ、それだけでは無くってよ、高笑いには精神を落ち着ける作用などもありますわ」
「ほぇ、高笑いって凄いんですね、私もやってみようかなぁ」
「いいですわね、折角ですわスーフェも「遠慮しておきます」……そうですの、ではグレースさん、高笑いは基本おーっほっほっほっほですわ、ですが先ほどのように三段階の高笑いが私にとって最も効果的な高笑いでしてよ」
「そうなんですね!」
「先ず第一段階は先程のですわ、そして第二段階はおーーを少し伸ばしてほっほっほっほですのよ、更に三段階目は少し声量を上げて、おの後に小さななあを入れるのですわ」
「ふむふむ」
「ではいきますわよ」
「「おーっほっほっほっほ、おーーっほっほっほっほっほっほ、おあぁーーっほっほっほっほっほ」」
「初めてにしては中々よい高笑いでしたわ」
「あ、ありがとうございます!」
ここ数日は最初はたどたどし方グレースさんも、この様に馴染んできて、とても嬉しいですわ。
そして高笑い仲間としてもお迎えしますわ。
「はぁ、お嬢様、行くなら早く行きませんか? 既に話を付けている訳ではないのですよね?」
「えぇ、一応少尉にお勧めの場所を聞いておきましたし、断られる事も無いだろうとのことですわ」
……それに、そのお店はゲームにも出て来た、ヒロインがアルバイトをしていたお店ですしね。