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私達は寮に設置されている階段から地下へと入る。
そして階段を抜けた先には大きな広間があり、いくつか他の階段が横に並んでいた。
この他の階段は、九番隊の他の寮に繋がっていると言う事ですわね。
そしてもし敵が攻めて来ても一度この広間に集まりますから、此処で迎え撃つと言う事になるのですわね。
「それにしても明るいですわね」
「……研究はされてるけど解明はされてない古代の技術の一つだね」
少尉が、見慣れた天井そのものが光っているようなそれにため息をつく。
……これが超古代文明と言われる所以ですわね。
この天井一つとっても、今の私達の技術では到底理解できない、失ってしまった技術。
「あと、朝の集会は此処で始まるから、朝六時に起床して此処に集まる様にね」
「分かりましたわ」
「……と言っても、ちゃんと集まってくれる隊員が少なくて困ってるんだけどね」
「流石、ですわね……勿論悪い方にですけど、それで件の方々は今どちらに?」
「……他の寮に集まってお茶会でもしてるんじゃないかな?」
「……は? あ、いえ、失礼いたしましたわ、まさかそこまでとは、思わず」
「少尉それは本当なのでしょうか? お嬢様と同じくそこまでとは思いたくありませんが……」
「貴方達が入った寮ね、前の二人の持ち主の子がつい先日軍曹に昇級して四番C隊に配属されて、九番隊は真面な子が一人もいなくなったって事ね」
「失礼ですけど、C隊と言うのは?」
……。
どうやら少尉の説明によりますと、七番隊以下は特殊だそうですわ。
他の部隊には先ほどの様に、何番何隊と言う名称がつくそうなのです。
その部隊人数は小隊、中隊色々あるそうなのですが、隊の中でも細かく区分けされているとの事ですわ。
……前世の記憶を少し知っている私からすれば、日本語とアルファベットがまぜられていて少し違和感のような物がありますが、実際ゲームでもごちゃ混ぜでしたし致し方ありませんわね。
なんと言ってもその後の世界兼乙女ゲームの世界ですから、そう言った細かい所は特に気になさらなかったのかもしれませんわね。
「成程、そう言うことでしたのね」
「私がもと居た七番隊は隠密やスパイが主な部隊ですから、任務事に区分けするわけにもいかず七番のままです、そして八番は整備や技術が主なのでこれも特に区分けしなくても成り立ちます」
「加えて九番と十番は分ける以前の問題と言う事ですわね」
「その通りですお嬢様」
「そう言う事情も九番隊で覚えるべきことでもあるから、詳しい話はその時にするから安心していいよ」
「教育も此処の役割なのですわね、まるで簡易の学校のようですわ」
「お嬢様、因みに本来の士官学校も別の街にありますので、機会があれば訪れる事になると思います」
「あら、それもそれで面白そうですわね」
騎士に成るための士官学校。
私も学園には通っておりましたし、きっと対比してみたら面白そうですわね。
……対比するならば、魔導帝国の普通の学園と比べる方が筋でしょうか?
アーリスル王国と魔導帝国の人材の差、面白いレポートが出来上がりそうですわ。
「お嬢様、どうしましたか? 更に地下に行きますよ」
「少し面白い事を思いついただけですの、今行きますわ」
既に少し前を歩いていた二人に遅れまいと広間を突っ切って行くと、そこには二つの階段が下へと続いていた。
「右側が二階、左が三階に続いていて、二階は講義や鍛錬に使われて、三階は……ウディアードの訓練に使われるよ」
ウディアードの、と言う事はそれだけ大きな空間が広がっていると言う事なのでしょうか?
「お嬢様、お嬢様は多分勘違いをしておられますよ」
「多分ウディアードよりもあの施設の方が研究者を悩ませてると思うよ」
「……それはどのような物でして?」
「見た方が早いかな」
そう言って地下三階への階段を下りて行く。
降りた先で私たちを迎えたのは、大きな機械とそれに繋がっている白いカプセルが二つ並び、その上にモニターのような物が設置してある場所。
いえ、モニターって、有り得ませんわ、この時代にモニターとは。
まさかつい先日思い出したゲームを遊ぶのに使っていた機械を目の前で見れるとは、思いませんでしたわ。
そしてカプセルが二つ、と言う事はこの中に入って擬似的にウディアードを戦わせることが出来ると言う事ですわね。
しかもあのカプセルに入ったら、まるでコックピットにいる様に周囲が見えるのですわきっと。
「ここだけ古代に戻ったようですわね……それにしても古代の遺物がこんなにも綺麗に残っているなんて不思議ですわ、アーリスル王国にもあったのでしょうか?」
「いえ、お嬢様此処が異様なだけで王国にそのような物は有りませんでした」
「それならば地下は何らかの崩落の影響を受けなかった……と言うのは有り得ませんわね、地下でも崩落した遺跡が発見された事があると聞いたことがありますわ」
「この施設も本当はもっと地下に続いていたみたいだけど、どうやらその崩落の影響を免れたのがこの三階だったって事かな」
此処だけですの? と言う事は元々地下二階や一階にも何かしらの機材はあったけれど、崩落の影響で壊れてしまったと言う事かしら。
「地下一階は広間に解明できない機材、二階は囲いだけある部屋だけが残っていたって昔聞いたことがあるから、地下三階が残っていたのは本当に奇跡みたいなものらしいよ」
少尉の言葉に私は一つ頷く。
どうやら私の考察は当たっていたようですわね。
「それにしましても之を動かす動力……魔力で補っているのでしょうか?」
「これはあの入れ物に入った二人の魔力を使って動かすんだよ、ウディアードを本当に動かす訳じゃ無くて、実はこの入れ物に入ると擬似的にウディアードを動かせるような画面が見えてね、それで訓練するんだよ」
こちらも私の考察通りですわね。
と言うよりも、流石にカプセル二つにあのモニターがあれば、私と同じ境遇の方が居られればほとんどの方は気が付きますでしょう。
「それじゃあ今日は此処までにしようかな、実際二人とも此処までの道のりがかなりハードだったって聞いてるし、貴女達の寮は貴女達しか使って無いからゆっくりするといいよ」
「そう言えば九番隊は何人おりますの?」
「私と貴女達を除いて令嬢が五人、そのお付が三人、階級は皆伍長から昇級無し」
「ではメイドがいない令嬢がお二人?」
「そうなるかな、その二人は相部屋で、どちらかと言うと他の三人にオドオドしながら逆らわない様に首を縦に振ってるだけの女の子」
「成程大変わかりましたわ、それではお言葉に甘えて本日は此処で失礼させて頂きますわ」
「失礼いたします」
「お疲れ様、私は少しここに残るから二人とも自由に帰っていいよ」
「分かりましたわ」
「ハッ!」
そうして、私とスーフェは割り当てられた部屋へと階段を上り帰って来る。
部屋を開けると、私とスーフェの着ていたドレスとメイド服がベッドに置かれ、スーフェのメイド服の傍には小さな包みと手紙が置いてある。
スーフェはそれをサッと開け中を読み、机の中へと仕舞う。
「どうやら馬車に入れっぱなしだった荷物をチェイスが運んでくれたようです」
「そう言えば、ごたごたしていてドレスを引き取るのを忘れておりましたわね」
「……それと、不法侵入して来れない様に鍵はきっちりと閉めておかなくてはいけませんね」
「……それならば地下への入り口は重い何かを乗せて開かない様にもしておかなくてはなりませんわね」
「確かにそうですね、至急そうして来ます」
私はドレスを小さなクローゼットに掛け、布団に腰掛ける。
ベッドで寝るのがものすごく久しぶりな気がしますわね。
第二王子に婚約破棄をされて、その混乱に乗じて国外に逃亡兼追放。
国王様の追っ手を振りほどき魔導帝国に入ったと思えば、古代遺跡跡地へ。
そこでゲームの記憶を思い出しヴァレリアと出会い、アーリスル王国の裏組織のウディアードと戦闘。
魔導帝国帝都で皇帝陛下と出会い、騎士に入団。
本当にこれが数日内で起きた事だなんて、密度が高すぎて笑えませんわね。
私はコテンと座った状態から体を倒しベッドに横になる。
……やはり固いですわね。
ですが固くても久しぶりにベッドで寝れますわ。
私は今日までの事を振り返る途中で、眠気に負けた。