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「申し訳ございません少尉、どうやらお嬢様の持病の発作が出てしまったようです」
「え! 持病! それ大丈夫なの?」
「はい、お嬢様の『高笑いをしないと生きていけない』病は、この様に隙を見ては高笑いをしてしまうとても残念な病気です……お嬢様そろそろ落ち着いて下さい」
「へ、へぇ世の中には面白い病気もあるんだね」
「……コホン、お騒がせいたしましたわ、それとこれは病気ではなくってよ、高笑いは私の体の一部ですわ! おーっほ」
「はい! お嬢様二度目は後でにして下さいねぇ」
「ぷっ……ククク」
「見て下さいお嬢様! お嬢様のせいで少尉がお腹を抱えてしまいましたよ」
「私のせいではありませんわ! 少尉大丈夫ですの」
「だ、だいじょうぶ、ハハハ! 余りにも二人が息ピッタリでそれが面白かっただけだから! 逆に笑ってしまってごめんね」
「い、いえお気になさらず、私とスーフェはその境遇こそスパイと令嬢でしたが、しかし今では私はスーフェの事を気の置けない友だと思っておりますの」
「……私もお嬢様にお仕え出来て良かったと思っています、ですのでこの異動は願っても無い事でした」
私とスーフェが少尉にお互いの事を話すと、「なんかいいねそう言うの」と言ってフワリと笑みを浮かべ席を立つ。
そして本来の目的である、書類の手続きをすませる。
書類と言っても、騎士になる上での重大な規則や、それに準じる事等に目を通し、サインをすればお終いでしたので、そこまで時間はかかりませんでしたわ。
「サインも貰ったし、そろそろ九番隊に割り振られているフロアに行こうか」
「ハッ」
「分かりましたわ」
そうして私達も席を立ち、少尉の後を追っていく。
聞けば九番隊のフロアは地下にあると言うではありませんの。
スーフェの言っていた地下こそが、と言うのを見せて貰いますわ!
私達は騎士団本部の建物を後にして、寮が建ち並ぶフロアへを進んで行く。
「本部に近い方から一番隊、奥に行くほど数字が後ろになって行くんだ」
……成程。
街並みを見て分かった事は、本部に近い方が建物が立派であり、そして敷地面積も広いと言う事ですわね。
きっと上の部隊に行けば行くほど部屋が大きくなり、エリートになって行くと言う事なのですわね。
しかしこの寮の街並みは静かですわね。
やはりこの時間帯は皆さん訓練や実務に従事していらっしゃるのでしょうか。
ですがたまにチラホラと買い物に行くような気軽さで街へと向かって行く方たちがいらっしゃいますが、きっと本日は休日なのですわね。
「ここからが九番隊の居住フロアになるよ」
……先程見た七番隊の寮よりお大きく、しかし一番隊程では無い寮。
流石に亡国の令嬢達と言っても、この対応はどうなのでしょう、これだから貴族では無いと認知されておられないのではなくって?
まぁきっとこれにも政争が関わっているのでしょうけども、嫌ですわねぇもう少し和やかに政をする気は無いのでしょうか国と言う物は。
「そう言えば先程は七番隊でしたのに、次は九番隊ですの?」
「八番隊は主に技術面の部隊だから、あっちのグラウンドの方に居を構えているんだよ、そして此処の更に奥が十番隊、亡命してきた貴族の令嬢では無く子息、所謂男の子バージョンってとこかな」
「成程、令嬢が九で子息が十なのですわね」
「そう、騎士になれば殆ど男女関係なくなるから、先ずはそれを理解してもらうためにあえて女性の方を小さい番号にしてるんだよ」
「……ご子息方の方も令嬢と同じなのでしょうか?」
「いや、そこまで深刻じゃないかな、特に血の気の盛んな人ほど番号の低い隊から下に見られるのが嫌だってどんどん昇級して行くし、昇級したらしたで本当の意味で騎士団に揉まれる事になるから」
そこは男女の違いと言う事ですわね。
女性は政治に携わらず夫を支える、と言う風潮もありますから令嬢達の方は残念な事になっている、と言う事ですわね。
それに男性であれば、騎士やウディアードに少しは心躍ると言う点も考慮できますわね。
「此処の三棟が今使っている寮だよ、その一番奥が二人の寮ねついて来て」
少尉に連れられて寮の中に入ると、一応と言った風の緑のカーペッドが敷かれたリビングのような部屋が、扉を開けると同時に現れる。
そこを素通りして奥にある階段を上がり二階へ。
二階には四つほど扉があり、その一番奥右側が私達の二人部屋との事。
中は質素にベッドが二つとテーブルが二つ、その他本棚と簡易台所のみ。
「……此処はこんなに良い設備なんですね」
しかし口から出たような独り言を漏らしたスーフェの発言により、私はこの設備が異常であると悟った。
「他の隊……十番は除いてだけどね、それこそ七番はもっと沢山部屋があって二人部屋でぎゅうぎゅうに人が詰めてる感じなんだよね、でも昔の戦争があった時はもっと酷い状態だったって聞いたことがある、実際番号の小さい隊の部屋は空いてる部屋も結構あるらしいよ」
では上から見た寮の景観よりも、中に入っている人物たちは少ないと言う事ですわね。
元々戦争の時に多くの兵を収容できるように、この様に沢山寮を作ったのでしょう。
それにウディアードに乗れない方たちはきっとどれだけ小さな番号になっても、軍師等を除けば上は三番や四番程だと思われますし、その部分の寮にはきっと沢山の方が寮に住んでおられるのでしょう。
「寮を出て街で暮らしておられる方もいらっしゃるのですか?」
「勿論、と言っても少ないけどね……そう言う人たちは帝都では無い各街や村に配属になった人が多いらしいよ」
「成程、それはそうですわね」
街に配属になった方が、出会いも多そうですし。
「街から街の異動は少ないんですの?」
「そうだね、街から帝都はあるけど、街から街ってのはほとんどないね、その街に留まりたいって言う声ならば、街から帝都への異動はその人物毎に考慮されるらしいよ」
まぁ街での生活に慣れて、家族と過ごす様になってしまった物をいきなり帝都へ戻れと言われても、はいそうですかとは中々言えませんわよね。
そう考えると、騎士団の対応と言うのは紳士にも見えますが、それは表の顔でしょうし裏はどうなのか少し楽しみですわね。
裏と言っても、政争に絡んでくるのがいい所でしょうから、一般兵士にそこまで何がある訳でも無いと思いますけど。
ただ魔導帝国の街は見た事がありませんから、騎士が横暴を働いている可能性と言うのも、一応頭の片隅に入れておこうかしら。
「それじゃあ二人とも地下に行くからついて来て」
「地下は何処から行けるのです?」
「だいたいの寮には、地下への入り口があるんですよお嬢様」
「まぁ、それは便利ですわね」
私達はリビングに戻り、下って来た階段の隣の床を少尉が開けると、地下への階段がそこにはあった。