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さて、私はいきなり現れた敵を撃破したわけですけれども、この人たちは一体どうするのかしら?
「取り敢えず機体から出て頂けまして? 」
私は各々に告げると、いくつかの機体は空気の抜けるような音と共にハッチが開き、そこから黒いコートを着た男が出てくる。
あれがアーリスル王国の影の者達ですわね。
そして未だ此方の言う事を聞かない機体がある、勿論隊長機。
私は隊長機のコックピットの無い方の胸にレイピアを刺す。
そして空いたそこに指を入れて裂くように開けば、中のコックピットが丸見えになる。
「御機嫌よう」
私はそれだけ言って中の男を鷲掴みにし、地面に落とす。
ぐえっと間抜けな声を出しながら、他の者達と同じく武器を手にしている調査員たちとウディアードに囲まれている。
「さて、迎撃致しましたが、この後如何なさるのかしら」
「……ふむ、一度帝都に連れて行かねばならないでしょうな……そこの馬車を護送車に変え一刻も早く帝都に迎うのだ」
「チェイス、貴方はヴァメリティで護送と状況を伝えて、帝都までなら魔力は持つわね?」
「大丈夫っす! それじゃあ早速出発するっス……さぁこの馬車に乗るっす、ぎゅうぎゅうに乗るっすー」
チェイスさんは空いている馬車に敵を押し込め、そのまま行ってしましました。
普通であれば、護送車の周りを武力のある人間で固める物ですけど、自国内でウディアードが護送に付くとなれば武力のある人間を固めるよりもはるかに優秀ですわね。
人と違って歩みも早いですし、食料も必要ありませんし。
まぁ搭乗者の魔力と整備と言う面では、お金はかなりかかるでしょうけど、それはまた別のお話しですわ。
「それでスーフェ、私達はこれからどの様に動くのかしら?」
「はい、私がお嬢様の護衛をしながら、案内人様の乗られる馬車と共に帝都へと向かいます……この残骸も運べるだけ運び、後はチェイスが後続部隊を出し全て回収すると思います」
「分かりましたわ」
「こちらは何時でもよろしいですぞ」
案内人さんが馬車に乗り込み手を此方に振る、そして御者に合図を出し馬が啼き馬車が回る。
私はその後に続き機体を歩かせていく。
「それにしてもお嬢様……何故そんなにも慣れていらっしゃるのですか?」
此処で何が? と聞くほど馬鹿ではありませんが、どうやって応えれば正解なのでしょうか、その解は今の私にはたどり着けませんわね、なんせ確かに生身で操作したのは初めてですもの。
「そうですわね、似たような経験が少しあったと言えばいいのかしら?」
「似たような経験ですか……はぁ、正直お嬢様の護衛ではありますけど、戦闘になったらお嬢様に頼った方がよさそうです」
「任せて下さっていいですわよ!」
「私は休暇に少し訓練したくらいですし」
「スーフェは私のメイドでしたもの、仕方ありませんわ」
「今でもメイドですよ、お嬢様」
「フフ、それは言い事を聞きましたわ! 此処は私最高の高笑いをこの平原に轟かせて……」
「それは結構です」
「致し方ありませんわね、此処は私の優秀なメイドに免じて高笑いをするのは止めて起きますわ」
「そうして下さい、馬が驚きます」
「そ、それはそうですわね……」
「そうですよ、ただでさえ先程の戦闘のせいでかなり精神的に参ってるんですから馬たち」
「それは馬に悪いこと致しましたわ……しかし私は悪くありませんわ、いきなり襲ってくるあの黒コートたちがいけないのでしてよ、私は悪くありませんわ」
「それは分かっています……なんで二回言ったのですか?」
「重要な事ですから二回言ったのですわ!」
そんな他愛のない話をしながら、私達は帝都に向けて歩を進める。
*****
あれから、一つの街をお昼ごろに超え、そこから一日した所で帝都が見えて来た。
外観はウディアードよりもはるかに高い城壁が街を丸く囲み、外からはどのような造りになっているのか分からないほどで、入り口にはウディアードの身長ギリギリの門があり、夜間は鉄格子が降りると言う事。
どうやら街に入るための手続きは先頭を行く案内人さんが済ませたらしく、私は特にウディアードから出ることなく街に入れた。
街は割と何処にでもある、と言っては失礼になるかもしれませんが、中心に大きなお城――王城――がある以外は普通ですわね。
しかし驚くべきは、この道の幅ですわね。
大通りと言う名に恥じない、ウディアードが横に二機は通れるぐらいの広さを有しており、私はヴァレリアに乗った状態で上から街並みを見ながらその先にある王城へと進む。
もし戦時になったら真っ先に王城まで敵兵が押し寄せてしまうのではなくて? とも考えましたが、きっと罠などを仕掛けるのでしょう。
道を歩いていると、たまに子供たちが此方に手を振って来るので私もそれに返す。
きっとこの国の騎士とでも思っているのですわね、まぁこれから騎士に成りますし、子供に手を振ると言う行為にそこまで差異は無いですわよね。
王城に着くと、ヴァメリティが一機此方を出迎えてくれる。
「我はアーロン・サンストーン中将である、此方の誘導に従い降機して頂く」
「ハッ! 私は七番隊スーフェ軍曹であります、此方はアーリスル王国よりお連れ致しましたアメリア・アゲット元公爵令嬢様です、誘導に従います」
「七番隊か、成程大義であった……降機は中庭で行う、ついて来い」
「ハッ!」
……なんでしょうスーフェのあれは。
まさかあのスーフェが、あの何だかんだとからかい合っている友が、ここまではきはきと物事に答える姿を私は見た事ありませんわ。
これは、そう、これはきっと一種の感動ですわ!
私はその心の赴くままに、スーフェの機体へのみ聞こえるように、スーフェの機体へと交信をとる。
「スーフェ!」
「な、何ですかお嬢様」
「私感動いたしましたわ! 貴女あんなにもしっかりとした態度を取れるのですわね!」
「成程、お嬢様が私をどう思っていたのかよーくわかりました」
メイドとして、いつも私の一歩後ろをついて来て、二人の時はたあいない話で盛り上がる、それが私とスーフェの関係。
しかし今、スーフェはそのキリッとした声で、そうこれはきっと親離れ的な感傷ですわ!
「スーフェ、貴方も大人になりましたのね」
「……お嬢様、後でしっかりお話ししましょうねぇ」
「スーフェ、どうやら中庭に着いた様でしてよ」
私は言うや否や、ウディアードに膝をつかせ、入った時とは逆に椅子が上へと上げられ、ハッチを開ける。
そして近くにある梯子を下にたらし、それを伝い降りて行く。
既にスーフェはアーロンと言う方の前でピシリと姿勢を正しているので、私もそちらに向かう。
……アーロン・サンストーン中将でしたわね、筋肉はかなりの物で顔も厳ついですわ、髪も短く刈りそろえられていてまさしく軍人と言った所ですわね。
「ほほう、貴殿がアメリア・アゲット嬢か、報告は聞いている、初搭乗でヴァレリア四機を圧倒したとか」
「お初にお目に掛かります閣下、ご報告の件に関しましては相手の技量が劣っていただけですわ」
「まぁいい、貴殿が騎士になるなら直ぐに上に行けるだろう、それに面白い空気を纏う物だ」
「おほめに預かり光栄ですわ」
私はフワリト微笑むと、相手が面白そうにこちらへ向ける眼を一瞬細める。
「ではついて来て貰う、皇帝陛下がお待ちだ」
……皇帝陛下?
「す、スーフェ、私の様に連れてこられた方は皆様皇帝陛下にお会いになられるの?」
「……いえまさかそんなことは……お嬢様が特例です」
「……S型の機体を収める為に王城に来たと思っていたのですが……まさか私がお会いする事になるとは思いませんでしたわ」
「……それは同感です」
流石にスーフェもまさか皇帝その人にお会いするとは思っていなかったようですわね。
その引きつった笑みが何よりの証拠でしてよ。
はぁ、そこまで悪いようにはならないと思いますけど、厄介ごとはご遠慮願いますわ。