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はぁ、成程ゲーム通りと言う事ですわね。
私が今いる場所は、王城にあるダンスホール。
ダンスホールは流石の広さを誇り、床には綺麗な赤い絨毯が、そして最も奥には綺麗なステンドグラスを背後に一段高い場所がある。
そこは王族の方専用の場所で、背もたれが大きく壮大なほどの椅子が置かれている。
私はと言うとその前に立ち、そこに上がった第二王子とヒロイン、そしてその取り巻きが此方を糾弾し、何やら喚いているのを聞き流しておりますわ。
因みに、今は学園の卒業式を行う前の最後の学生のみでのダンスパーティーを行っている最中。
そんな中で皆さんの注目を集めるようにして、やってもいない罪をつらつらと読み上げて行く王子にため息しか出ませんわ。
「聞いているのかアメリア!」
「私はその様な事をしておりませんわ」
「まだ白を切る気か!」
「白を切るも何も私はそのような事を行っておりませんわ」
「……そうか、ならば慈悲は無い、認めさえすれば罪も軽減された物を、アメリア・アゲット貴様は国外追放だ!」
「……それは王族としての意でしょうか」
「当たり前だ!」
私はその言葉を聞き、内心高笑いをしたいのを抑えつつ、ショックでふらついているように見せてバルコニーの方へと進んで行き、外へと出る。
それをなんと晴れやかな顔で見ているお馬鹿ーズ……少しはしたない言葉使いでしたわね、しかしもうこの国の貴族ではありませんし、その位内心で思おうとなんでもいいのですけど。
私は二階にあるバルコニーの手すりにつかまり、チラリとざまぁを楽しんでいるお馬鹿ーズにを見て……大変申し訳ないのですが。
「此処からは私のターンですわ」
誰にも聞こえない様にぽつりと呟き、バルコニーの手すりへと飛び乗り腰かける。
そこへスタスタと優雅に此方に歩いて来るお馬鹿ーズ。
その時、ダンスホールの扉が粗々しく開いたと思うと、この国の国王様と王妃様が騎士を連れてこの場へと入って来る。
残念ながら国王様と王妃様はこれが一体何の茶番かは知らないはずですわね、知っているのは第一王子と私、そして私の近しい者。
王子が期を見計らって、お二人をこの場に連れて来るようにとそう言う手はずでしたし。
「これは何の騒ぎだ」
お二人と騎士数名は、私とお馬鹿ーズがいる場所まで優雅に歩いてこられて――勿論他の生徒は傅いており、この場でそれをしていないのは王子と私のみ――状況を確認しているようですね。
でももう遅いのですよ。
「父上、只今皆でこの女がやって来た行いへの断罪を行っておりました!」
「なんだと?」
「この女は私が愛した女性を貶め苛めたのです、到底許せることではありません」
「アメリア公爵令嬢とお前は婚約者だろう」
「それはたった今解消致しました! 私がこのような愚劣な女と婚約など有り得ません」
「……アメリア嬢、聞くがその罪とやらは真か?」
「失礼ながら、私は王に誓い身の潔白を」
私はテラスに腰掛けながらフワリト右手を胸の辺りに置き、一礼して見せた。
勿論、此処で不敬だと切られても可笑しくは無いが、きっと王もこの場の異様さに呆気にとられているのでしょう。
「フン、証拠ならそこにある!」
王妃様は目だけで近くの騎士に書類を取って来るように命じ、早急に資料に目を通し驚愕に彩られ、その反応を訝しんだ王様がその書類に目を通し額の皺を濃くする。
きっと王様は王妃様が事実であり驚いていると思ったのでしょうが、逆でしょうね、言いがかりも甚だしいと言う事で驚いたのでしょう。
「発言をお許し頂けますか王」
「よい」
「その書類を見て頂ければ分かると思います……そして王子の行い(おてん)は外に漏らさぬようになさりたいはず……しかし王よ遅すぎましたわ」
「どういうことだアメリア嬢」
「先ほどそちらの第二王子様は『アメリア・アゲット貴様は国外追放だ』と仰られその問いに『それは王族としての意でしょうか』と問いましたら『当たり前だ!」』とお返しになられました……つまり王族がひいては王が私の国外追放を言い渡した……と言う事にございますわ」
「なん……という」
「ですので」
私は何とかバランスを取りながら手すりの上に立ち、その場で優雅に一礼して見せた。
「私は既にこの国の貴族でも無ければこの国の民でも無いのですわ」
「ま、待ってアメリアちゃ」
「申し訳ございません王妃様、どうやら私では王妃として力不足のようでした……それでは皆様御機嫌よう」
私は最上級の作り笑いを浮かべ、トンッと小さく後ろに飛び下へと落ちて行く。
その時間は直ぐに終わり、先ずは張られた布に、その次に敷き詰められた寝具によって勢いを吸収させる。
王様と王妃様はぎょっと私の落ちた方を見て、またお馬鹿ーズも同じようにテラスへと駆けているのが分かる。
私は改造した馬車に立ち、皆さんを見上げる。
「それでは追放されますわ」
私は懐から扇子を出し口元でばっと広げそのまま高笑いをしてやる。
「おーほっほっほっほ、おぁーーほっほっほっほっほっほ!」
きっとあちらからは馬車の上で高笑いをしながら去って行くと言う完璧な去り際の私が見えた事でしょう。
「お嬢様、門突破します!」
御者をしてくれている私のメイドのスーフェ、今日も綺麗な淡い青色の髪をなびかせながら、馬に鞭を撃つと王都から出るべく門まで爆走し、そして制止を求める騎士の声もなんのその、そのまま門へと突っ込んで行く。
幸い夜と言う事もあり、門に民間人の姿は無く、轢くことなく出られそうで安心しましたわ。
私は馬車に必死につかまりながら、扇子を前に出し叫ぶ。
「さぁ! お行きなさい!」
その瞬間、門の騎士達は止まらない馬車に轢かれてはたまらないとその場を譲り、私達はその勢いのまま王都を出るのでした。
「さぁドンドン行きますわよーーおーっほっほっほっほ」
「お嬢様そろそろ此方に」
「ほっほ……そうですわね」
私は扇子をしまい、御者台へと移った。