昨日
それは良く晴れた、雲一つない春空の日。
一人の少女がダンジョンに挑んだそうな。
「お嬢ちゃん、ダンジョンに行きたいんだって?悪い事は言わない、自殺なんてしないで、おじさんに悩みを打ち明けてごらん。」
門番からはそう言われた。
「俺は悲しいぞ…何があったんだ…!」
街の男の人達からはそう言われた。
「命を無駄にするのは辞めなさい!」
病院のお姉さんからはそう言われた。
それでも彼女は諦めなかった。
ダンジョン。別名『国公認の自殺スポット』。
酷い別名だが、これまた事実。ダンジョンが出てから、日本はあまり良い顔をされなくなった。ダンジョンの話題になると、各国のお偉い方の表情は暗くなる。
どうしてもダンジョンを攻略する必要があった。
それ故求人募集は辞めなかったと言う。
「それじゃあ行ってきます!」
少女は元気良くその門を潜り、ピクニックにでも行くような足取りで歩き始めた。
中は薄暗く、それを照らす懐中電灯の光が酷く眩しい。
少女はついつい笑みを零す。―ここが憧れていた世界か、と。
奥に進む度興奮する。いつモンスターが現れるか分からない感覚。
先程門番より護身用に貰ったメイスを握りしめ、キラキラとした瞳で彼女は歩む。
ダンジョンに入ると、まず一つの特典が付く。武器が貰えるのだ。未知の敵と渡り合えるかはさておき、数百年間ずっと武器に厳しい日本が武器を許す。そのくらい国は必死なのだろう。
更にダンジョンに入りモンスターを討伐、見事クリアすると、今や5000万から更にどんどん上がって行った報酬金。そしてダンジョンに入る際支給された武器を持ち歩く事が許可される。所謂英雄となり、名声も得る。気前の良い店ならサービスしてくれるかもしれない。
無論、少女はこれ目的で入った訳ではない。いや、正確にはモンスターを討伐した報酬のうちの一個、と言う所だろうか。
『達成感』。そして憧れていたクリア者に入れる『権利』。
この二つを得るがために、危険を冒しここまでやってきたのだ。お金でも名声でもなければ武器でもない、ただその二つのみを求めて。
彼女は歩く、ただ歩く。ここの洞窟は、今まで発見されてきたダンジョンよりも小さめらしい。それでも彼女にとっては長かった。マンションの近くに出来た、と言う事もあり、構造が複雑だったからだ。
ここでもないか…少女は呟く。一体何処にモンスターが居るのだろう。
その時の事だった。
「う…ぉ…ぐ…あ…」
何処からか人とは思えない声が聞こえてくる。正確には聞き取れなかったが、あれがきっとモンスターって奴なのだろう。何処で見たかは覚えて居ないが、これがきっと「あどれなりん」って奴だ。7
少女は走り、声が聞こえて来た場所へと向かう。
「ぐるぁああああ!!あおぉぉぉお!!!!」
行ってみればそこには―居た。大きな奴だ。
唾液を口の端から垂らし、そいつを毛深い腕で拭き取る。歯はでかくて尖っていた。
「おっきい猿を見ているみたい…」
彼女はそう言った。まさに猿。狂ったような目つき。毛深い腕。2,5mはあるであろう全長。…否、これはゴリラでも良いのではないか。
兎にも角にも、これが初めてのモンスターとの出会いであった。彼女とモンスターの出会い。無論、彼女はビビッて腰が引けていた訳だが。