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東京迷宮と五宝石。  作者: 百合羽
出会い
3/5

目覚め

彼女は目を覚ました。

ベットから勢い良く飛び上がり、着替えを始める。少し服を着るのが難しい。それだけ焦っているのだろう。

着替え終われば、顔を洗うべき。彼女の持論だ。

洗面所に行き顔を洗う。余りにも勢いが良すぎて口の中に水が入ってしまった。

タオルで顔を拭いたのち、朝食の用意を始める。この間僅か3分である。時計はAM4:03と示していた。上出来だ。

今日はさっさと朝食を採り“あの人”の元へ行きたい。とりあえず卵焼きをちゃっちゃと作り、そこにソーセージでも加え、味噌汁とご飯と共に食べれば…ああいや、野菜も食べなければならない。

忙しそうにせかせか動く彼女を笑うかのように、窓の外では雀達がチュンチュンと鳴いている。

兎にも角にも今日は急いでいた。目玉焼きが出来、それを皿に盛りつける。そこにレタスをぶち込み、ソーセージを加え、昨日の残りの味噌汁を温め、ご飯をレンジでチン。便利な世の中だ。

元々少なかったからか、数分で朝食を平らげた彼女は出かける支度を始めた。

数十分後、いよいよ出かける準備が完了。靴を履いて扉を大きく開ける。

瞬間、ぶわっ!と風がしたかと思えば、綺麗な空気が身体へと入り込んできた。

良い朝だ。彼女はそう呟き駆け出した。



――――



「嫌だ!」



数時間後、彼女が出かけた先で。

彼女は、眼帯を付けた黒髪の男に門前払いを喰らっていた。

「良いじゃないですか!そこをなんとか!」

「嫌だ!断固拒否!お断り!」

彼女が土下座をするくらい頼みこんでいるのに、ひたすらに拒否し続ける、緑の髑髏が大きくプリントアウトされた黒い部屋着を着た青年。この男、名前を美弦(みつる)と言う。

「頼むよ!今週苦しくてさ…!」

「お前はリーマンか!働け!」

一方、この凄く情けない顔をしてボケを噛ます少女。名を渼雷(みらい)と言う。

二人は昨日知り合ったばかりで、本来であれば今後とも会う予定は無かった。

昨日之事件(きのうのできごと)があるまでは。

「ああもう…部屋上がれ。茶ァ飲んでさっさと帰れ。忙しいんだよこっちは。」

「あ、お邪魔します。」

「律儀だなおい」

そう言って家に入る少女。しかしこのやりとりには下心等一切なく、早く帰って欲しい男と、帰る気のない少女のやりとりでしかない。


テーブルを挟み、4つの椅子が容易されているリビングに男は誘導した。座れ、と言わんばかりに椅子を引く。少女が座るのを確認し、彼も向かいの席に座る。

この少女…見た目15,6くらいだろうか。幼い少女は頑固として家を出る気は無かった。それ故、出された緑茶もズズズズズと音を立てるも全く口につけていなかった。

「緑茶は身体に良い。さっさと飲んで帰れ。」

「嫌です。」

「…あれか?お前まさか例のブツを返せって言うのか?あれは俺が引き取る形を取らなかったら今頃政府のわんころ達の手元にある物で…」

「違います。」

「じゃあ何だよ…」

はぁ…。男は溜息をつき、頭を掻く。自分で持ってきた自分の分の緑茶の入ったペットボトルをラッパ飲みし、「早く言え」と急かす。

少女の方は全く話す気が無く、ズズズズズ、と音を立てるのみであった。

男は再び溜息をつき、残りの緑茶を飲み干す。

その時、唐突に少女の口が開いた。


「ダンジョンに行きたいんです」


「は?」

唐突に言われたその言葉は非常に理解し難い物だった。

ダンジョンと言えば、現代風に言い換えれば『地獄』、若しくは『樹海』、『自殺スポット』。

兎にも角にも、決して男女がいちゃこらしながら行くところでは無かった。

「つまり、俺と無理心中したいって事か?嫌だぜ。俺は100までぁ生きるって決めてるんだ。」

「違います。ダンジョン攻略をしたいんです。」

その返答を聞き、不意に男が皮肉の混じった笑いを零し、その後真面目な顔つきでこう言った。

「今まで4人しかクリア出来なかったダンジョンを俺等で?馬鹿言わないでくれ、寝ぼけてるなら家に帰って寝ろ。」

これはこの時代の人にとっては当然の事で、この話はタブー中のタブー、自殺者以外ほとんど使わない言葉であった。鳥が聞かずとも飛べるように、また人間も聞かずとも分かって居た。これを話してはいけないと。

それでも彼女は真剣な顔つきで言う。

「それでも貴方なら出来るでしょう?私を5番目にしろとは言いません、貴方が5番目の攻略者となり、私はそれを見たいんです。」

それを聞き、男は今日三度目の溜息を零した。髪を掻き、立ち上がる。

男は冷蔵庫を開き、緑茶を取り出しながらこう言った。

「助ける事と倒す事はちげえよ。俺だってあん時何やってたか覚えちゃいねえ。大した運動能力もねえ。諦めな。」

「む~…」

「…れ…。早く帰りな。」

彼にしては珍しく優しい口調でそう言い、取り出した緑茶を飲む。それでも彼女は「嫌です」なり「帰らない」なりと言って来る。

―突然男の目が変わり、少女に近付き胸ぐらを掴んだ。

「俺だって行きたくねえ事情があんだよ。第一あそこで何万人も死んでんだ、可能性は何%だと思う?分かったら帰れ!今すぐに!」

そう言って彼女を乱暴にも突き飛ばし、再び自分が座っていた席に戻った。

「じゃ…ぁ…。またここに…遊びに来ても良いですか…?」

弱々しい、小さな声で彼女は問いかける。流石の男も根負けしたのか、

「好きにしろ」

と言った。

「良かった…へへ…今日は帰りますね…。」

「…送ろうか?」

「大丈夫です…」

笑顔を浮かべ、彼女はふらふらと覚束ない足取りで玄関を目指す。罪悪感を覚えたのか、彼は少女の手を引き、肩を貸し、少女を玄関まで運んだ。

「気ぃ、つけろよ。」



2302年の春の出来事だった。

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