ヒルダとクルクル
吸血鬼レビーニとついに決着。そして……、優しい出逢いが、奇跡を生んだ。ラミはクルクルは━━、
プロローグ
森の西に広がる。湿地帯……、
水に浮かぶ。巨大な睡蓮の葉っぱを使って、その上に家屋を作り、睡蓮の葉同士を、葦の草で編んだ、ロープで繋ぎ合わせた、無数の睡蓮が、まるで都市のように連なり。中央の僅かな土地を。巨大な建物。リザードマンの城を囲むように広がっていた……、
城の一室。
赤茶けた鱗、鰐淵と魚を合わせた風貌。一回り。緑種と呼ばれる。一般的なリザードマンより、重厚に鍛え上げられ。雄姿を、見せびらかすよう、悠然と。我が者顔で歩くのは、赤竜種と呼ばれる。竜に近いリザードマンである。バイラス王は、
先ほど金目のバルバド将軍から、至急調べるべきと上訴された、霧の湖の異変について、深く孰考していた、ある考えが脳裏を過る。
「ついに……。闇の魔導師が、動き出したか?」
そうなると、他のオーク、オーガ、コボルト、ゴブリン、ホビット、エルフ達と争ってる場合では無い。現状あの三人以外、人間は信じられぬ……、
「グローバスはおるか?」
廊下の隅に控えていた。バイラス付き近衛兵のグローバスは、緑種の中でも、ほっそりした、俊敏そうなリザードマンである。
「陛下、此方に…」
恭しく頭を垂れ。王の見言葉を待った、
「至急、ホビット村に行き、リード、エルダ夫婦と。調査に参れ。彼等なら信にたる。人員は貴様に一任する。頼んだ」
「はっ!、お任せ下さい」
恭しく頭を下げ、退出を告げ、直ちに準備に掛かる。
━━ホビット村、入り口にある家屋前。
豆畑を挟み、無数のゾンビが徘徊してきている。カレーナの分身である。カレントと呼ばれるモンスターは、木々を揺らし、ゾンビを叩きつけ、根を伸ばし。絡め捕り。ゾンビをバラバラにしていた。それでも数が凄まじく、疲れ知らずのカレントとて、徐々に手が回らなくなって行く。わらわら家屋に向かうゾンビ達。
『行くよキリー。エイヤー』
飛び足して、緩慢な動きのゾンビ、足をハンマーで叩く。
ピコピコ。軽い音がした、
叩かれたゾンビは、急に家屋の方向を見失い。向かって来たゾンビの邪魔をし出した。
『うん任せてマリー、エイヤー』
ピコピコ、やはりゾンビの足をハンマーで殴ると、妙に軽い音がした。
二人が手にしてるハンマーは、混乱のピコピコハンマーと呼ばれる。ブラウニーの攻撃アイテムで、叩かれた相手は、混乱してしまう。なかなか危険な攻撃方法を持っていた。
二人は、ピコピコと、次々にゾンビを叩き、ゾンビの大混乱を引きずり起こす。カレントは混乱してる。ゾンビのお陰で、再び優位を取り戻していた、
「マリー、キリー、お待たせ!」二人はホッと、一息着いた所に。ラミがクルーレ、手にスコップ、鍬を手にしたピーター、パシマ兄弟を連れ戻って来た。
「うわ……、こんな大騒ぎで、寝てたとは、やれやれラミ助かった、行くぞパシマ」
「はいよ兄貴!」
固太りしたパシマは、村一番の力持ち、鍬を片手に、エイヤーと纏めて、ゾンビを薙ぎ払う。
『ラミちゃん私には、アンデットに不向きな魔法しか使えないわ、他にお友達居ないのかな?』
みんな頑張ってるが、多勢に無勢、疲れ知らずのゾンビに襲われる事が、何より怖い。ラミちゃんの事考えたら、少しでも役に立たなきゃ。お姉さんとして、軽快に宙を舞ってるが、疲労はピークを超えていて、ゆっくり花のベッドで眠りたい所だ。
「いるよ~、クルーレさん呼ぶね」
真面目にうんうん頷き。頬を真っ赤にして、ラミは願った。
「フルードさん!、ラミを助けて」
真摯な願い。契約の指輪は叶える。遥か異世界にある精霊の世界。ラミの友達と言う契約を結んだ、フルードに届いた。
水の世界。美しい海中の世界に。ラミの願いが広がり。水の精霊達は、一斉に優しい女の子の声に答えた、
『フルード、皆を連れ。我が、大恩ある。ラミを助けて来なさい』
慈愛に満ちた、笑みを称える。全ての水の精霊の母である。女王の命に、珍しい男の水の精霊フルードは、
『はい!、母さん行ってきます』
精霊として、ラミと契約を結び。成長したフルードは、精悍な顔立ちの青年に、変貌を遂げていた。フルードに続き、沢山の水の精霊が、独自の意思で。召喚の門を開けていた。
ホビット村に、一斉に現れた。水の精霊達が、現れるや。ゾンビ達を攻撃し出した。苦戦を強いられていた、皆を精霊が救う。
「水の精霊!、これ程大規模な召喚……、一体誰が……」
総毛立つほど、凄まじい技量。エルダが知る限り、それほど偉大な召喚術師は、いない……。
『あら、貴女も召喚術師なのね』
水の精霊が、エルダの隣に来て、優しい笑みを振り向けた。「貴女達を召喚したのはどなたなの?」
疲労困憊だが、一息つけた安堵から、精霊に尋ねた。契約者によるが、精霊はある程度。自由度を制限される。しかし目の前の水の精霊は、それどころか、至る所に現れた、水の精霊達は、自分の意思を持っていると分かる。
━━精霊を支配せずに。信頼されてる。召喚術師など。伝説クラスの腕があるとしか思えない。
『あら……、そう貴女がラミちゃんのお母様ね。私たちは、ラミちゃんに恩があるから、お友達のラミちゃんを助けに来ました』
ニッコリ魅力的な笑みを浮かべ。次々にゾンビを倒して行った、驚く夫婦よりも。
『ばっ、馬鹿な……、精霊の大規模召喚だと』
夜の戸張が降りて、吸血鬼は、家を破壊して、夜空に絶大なる力を誇示するよう。浮かんだ瞬間。無数の光水に囲まれ、怯んだ、光水は水の精霊にありながら。聖なる浄化の水で、身体を包む。ピクシーに似た精霊で、アンデットモンスターにとって、脅威である。
『ぐっ……、馬鹿な、我の計画が潰されるなど』
険しい顔を崩さず。貧相な顔ゆえ。怒った猿のように真っ赤。チョビ髭は似合わず。姉が居たら。毒舌吐きまくりだろう。小さく苦笑しながら、まさか娘に助けられるとは、複雑な気持ちを抱いた。
ラミのお願いに答えて。精悍な顔立ちの青年が現れた。彼の周りに。水の精霊達が次々に現れ。一斉にゾンビを攻撃し出した。
『ラミちゃんお待たせ、後は、僕たちに任せてね』
そう言われても、あまりに。変貌したフルードに、目をぱちくりびっくりしていた、
『エ~!、大規模召喚』
カクーン惚けてたクルーレさんだが、
まじまじ水の精霊、しかも珍しい男の精霊に、
『うわ~ウインデーナなんて、初めて見たわ』
呆れた口調である。些か失礼な物言いな、クルーレに気分を害したが、
『ゴホン、ぼくだよフルードだよ。ラミちゃん』
「びっくり!、フルードさん、かっこよくなったね」
素直なラミの賛辞に。お世辞なんて、言われ慣れてないフルードは、みるみる全身ピンク色になっていた、精霊が照れたなんて、見たことないから。ますます目が丸くなる。『まあ~、とにかくお仲間さんね。ラミちゃん、この辺りは水の精霊に任せて。お母さんを助けに行きましょ』
「うん、クルーレさんありがとう、フルードさんお母さん達、助けるの手伝ってください」
ぺこり頭を下げた。
『任せてラミちゃん、困ってたぼくの力になってくれた、君の優しさぼく達は忘れない、今度はぼくが、ラミちゃんの為に力になるから』
嬉しいことをフルードさんは、言ってくれました。
アンデットをあらかた倒され。窮地に追い込まれた、レビーニだが、諦めの悪さと性格の悪どさは、健在で、光水の包囲を抜け出し。エルダに襲い掛かった、
隙を突いたかの急襲だが、大剣を咄嗟にほうり、二刀流に替えたリードが、助けに入る。
『また貴様か!、平民が』
憎悪のあまり目が血走り、技もへったくれない、ただ力任せのレビーニを圧倒していく、所詮は死者使い(ネクロマンサー)。死者を操るしか、能がないただの気弱な男だった、
『我は貴族で、偉大なアンプロワーズ様の高弟。四天王が1人、レビーニであるぞ!』
自尊心、エルダに対する。凄まじい執着。劣等感により。闇に落ちたレビーニである。自分の思い通りにならぬ現実が、許せない。
『殺す。殺す!、皆殺しにしてやる』
我を忘れ、吸血鬼の能力、巨大な狼に変化。再びリードに飛び掛かった、
「大地の精霊ノームよ。大地の槍」召喚した。大地の精霊ノームは、赤い帽子が特徴的な小人で。農作の精霊と知られている。
彼等は、簡易な地形変化の現象を引き起こす力がある。温厚な精霊だ、
エルダと契約を果たすため、飛び掛かった大狼の身体を、無数の大地の槍が貫いた。僅かな遅滞は、リードにとって幸運となり、右に回避し。見事前肢を切り飛ばしていた、
『グアアアアアア、ばっ馬鹿な……』
痛みより。吸血鬼の肉体が、切り裂かれた事実に愕然とする。
「どうじゃ俺達、渾身の剣の切れ味は?、エルフの聖地でしか採れない、特別な鉱石で精製した、一品だぜよ」自分たちの打った剣が、見事目的を果たして、ドワーフの親方は、この時ばかり、自分の仕事に誇りを抱き、満足そうにカカッと笑った。悔しさを露に。再び人間の姿に戻ったレビーニは、自分の手を拾い、腕に合わせるが、
『ぐっ……。馬鹿な……、融合が始まらない、まさか……、聖別された武器か……ギリ』
悔しさを噛みしめ。血を吐く。凄まじい眼差しを、リードに向けた。劣勢は覆せない、落胆と怒り、腕を失い。少し冷静になっていた、
「お母さん!、お父さん!」
その時だ、天恵に似た、甘美な子供の声を聞いた瞬間、絶望なまでに嫌らしく微笑していた、素早く身を翻し。レビーニがラミを見たと、エルダも気が付いて、血の気を失った、
「ラミ!、逃げて」
母の切なる叫び。ラミは足を止めたが、最早関係ないとレビーニが呟く。
村の空に掛かる雲が晴れ。月は下に移動していた、レビーニは、最後まで、自分の幸運を疑わなかった……。
『ラミちゃん、ぼくを信じて、目を瞑っててくれるかい?』
ラミを労る。フルードさんの言葉。ラミはにっこり日溜まりの笑みを向け、素直なラミは両手で、お目目を隠しギュッと隠した。
その時━━フルードの上空に、無数の光水が集まっていた、
猛然と血走った目をラミに向け、残忍そうに、貧相な唇を歪め、手を伸ばした瞬間。『光水!、ラミちゃんの敵を……』
皆まで言わずとも。光水達は、ラミを見ていた、日常を常に。フルードや女王様に内緒だけど、
健気で、がんばり屋のラミちゃん、みんなラミを守ろうと、集まってたのだから、
『行くわよ!』
『お~!』
数百もの光水が、吸血鬼に特攻したら、どうなるか?
『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアー!!!!!!』
長く尾を引く、断末魔の叫び。ビクリラミの肩が揺れた。
エピローグ
━━真夜中。
疾走していたクルクルは、懐かしい村が見えてきて、安堵の吐息を吐いた、しかし……村に入るや、至るところの土が掘り返され。豆畑も無惨な姿にされていて、クルクルは呆然と立ち尽くした。
「よ~クルクル、今帰りかい?」
疲れた顔が、土で汚れた顔のパシマさんが、気さくに声をかけてくれた、
「お久しぶりパシマ、無事で何よりね」
「あっ、ヒルダさんか」
ホッと安堵の吐息を吐いて、
「怪我人がいる。長老の家に向かってくれ、ラミちゃんやリード夫婦はそこにいるから」
「無事なのね?」
「そうだよ」
ぼくとつとした風貌のパシマも、見れば擦り傷だらけで、ポシェットから、薬瓶を取り出し。
「ポーションよ、体力回復するから、ピーターの分も持ってきなさい」パッと目を輝かし。有りがたく小瓶を二本受けとった。
パシマと別れた。クルクルとヒルダは、あまりに変わり果てた、村の惨状に。目を覆いたくなった。
途中━━。
エルダ夫妻の変わり果てた家を見つけ。何か、大変な事があったと、理解して、顔から血の気を失う、
「うにゃ……」
心配そうに項垂れるクルクル、
「大丈夫。きっと大丈夫よ」
クルクルから降りたヒルダは、運送屋のドーム爺、孫のレームと会って、無事な姿に安堵した。
「よお~ヒルダ、荷運び出来ず済まんな~。何だか色々あったが、みんな無事だよ、早く行っておやり」
「ありがとうドーム爺」年寄りならでは、ヒルダを気遣ってくれ。感謝述べて、二人にポーションを渡し。長老の家に急いだ、いくら無事だと聞いても。自分の目で見るまで、心配は隠せない。
「うにゃ~ん……」
ヒルダの不安が、伝播したよう。クルクルも不安そうである。
━━やがて、住人が集まる。長老の家が見えてきて、
「姉さん!、クルクル?」
エルダが、水汲みに出ようとしてた所で、此方を見つけたようだ。
「にゃ~ん!」
尻尾を立てて、まっしぐらに、走りより、ヒルダも安堵のあまり吐息を吐いて、涙ぐむ。クルクルはちょこんと座り、優しい目で、愛する家族の無事な姿を見れて、嬉しそうに尻尾を揺らせて、喉をゴロゴロ。「エルダ……、良かった……」
最愛の妹と抱き合って、二人は笑みを交わした。
「お父さん!、絶対今のはクルクルだよ」
なんて、騒がしい声が聞こえてきて、腰を浮かしたクルクルは、ムズムズ、そわそわ、今にも走り出しそうで、実に微笑ましい気持ちにさせてくれた。
無事クルクルとあったラミ、そして家族、しかし不穏な気配が、森に広がっていた、
また同じ物語か、違う物語で背徳の魔王でした(*^_^*)