エルダとリード
その少し昔、ラミのお父さんとお母さんがまだ若かった頃の出会いの話。エルダ・コールウエインは、ロイドル大貴族の義娘として、宮廷魔導師となりました。姉も同じく宮廷魔導師でしたが、二人に血の繋がりはありません。リードは名のある元冒険者で、国王にスカウトされて聖騎士になった。
プロローグ
太古の森と呼ばれる。古い森がある。神々。精霊。妖精さらには、魔物が住む、広大で、とても深い森があった……、
太古の森から南西には、人間の住む国々が、点在して。亜人の国と争いが絶えなかった。数多に点在する人間の国。その一つに……。比較的長く栄えた。ロナベル皇国はあった。
古くも堅牢な城。西の塔にある廊下に。美しい青みかかる髪を。後ろで束ね。ほっそりした両手に、これでもかと大量に。文献を抱え。よたよたしながら、少女は図書館に戻しに行くところである。
「よいしょ……」
普段重いものを持ったことがない。エルダ・コールは、ヨロヨロとし。今にも文献を落として、バラバラにさせそうな危うさを見せていた。本人もそれに気付いてるのか、冷や汗をかきながら。
今さらながら、無理をしたと後悔していた。
「あっ……」
一番上にある。とても古い希少な文献が、ズリズリ。前に動き出した。
「だっ、駄目!」
あまりに切羽詰まった声を出していた。
そんな危ない場面に。たまたま談笑しながら同僚と歩いてた、リード・ニールは、女性の切羽詰まった声を耳にして、
「済まん。先に行ってくれ」
「あっ、おい……、たく相変わらず。お人好しだな~」
走り出したリードを、仕方なさそうに見送った。
「さて、隊長になんと言い訳するかな……」
考えながら、階段を降りて行った。
リードは半年前。平民でありながら、剣の腕と、冒険者としての経験を買われ。ロナベル国王直々に、聖騎士団の一員に任じられた。若き騎士である。程なく。身なりの良い女性を見掛けた。いかにも……、危ういバランスで、ゆらゆら本を落としそうな感じで。今にも廊下にぶちまけそうな様子に見えた。なるべく然り気無く映るよう。心掛け。本をひょいと取り上げていた、驚き目を丸くしてるエルダに。肩を竦めながら、
「余計なことで、無ければ、お持ちしますよ」
切羽詰まった声を聞いたなど、おくびにも出さず。朗らかに言ってのけた。
「あっ……、ありがとうございます」こんな風に。殿方から颯爽と、助けられたこと無いエルダは、ちょっと困ったように、でも素直に感謝して、柔らかな優しい笑みを浮かべていた。
リードから図書館まで、本を運びますよ。言われて、断るのも悪いし。素直に有り難く思って、言葉に甘えることにした。
並んで歩いて、気が付いた。
一回り背の高いリードの横顔、女の子のように睫毛が長いな~、なんて思って見てると、目があった。リードは飾らない性格で、何かと気を使っては、自分を楽しませよう。色々な話を聞かせてくれた。この人は優しい人なんだと思えた。
それから……、二人が、時々顔を合わせ。挨拶を交わし。暇な時間を見つけては、話するようになって行った……。
青い恋心が始まる予感、そんな初々しい二人を温かく見守る人々は多かった。
しかし……、それを面白く思わなかった者がいた。
エルダと同じ宮廷魔導師であり。有力貴族の系譜。レビーニ・オロンである。彼はエルダを一目見て恋に落ちていた。美女、美少女を見慣れていたレビーニから見ても。目の覚める美しい青髪。貴族でも珍しく誰に対しても、柔らかく優しい受け答えをする彼女対応に、勘違いしたのやも知れない。
そんなエルダだが、普段は、人見知りで、一度心を開くまで時間を要した。しかし一度心を開くと。それは可愛らしい女性となる。その為か王宮でも評判の美少女である。
「彼女こそ……、我が妻に相応しい!」
常々自分のように。家柄に優れ。尊き血筋の者には、あれほどの美少女を妻にするのが相応しい。そう考えていた。だから当然のように。自分の妻になれと。手紙を送り付けた。そして翌日。姉のヒルダが怒鳴り込んできた。
「貴方……、自分の顔を、鏡で見たことあるの?、何様のつもり!。二度と妹に近付かないで!」
「なっ……」
投げ捨てられた、自分の手紙。怒りのあまり血の気を失っていた。
それからしばらくは……、大人しくしていたレビーニだが、ヒルダに深い憎しみを抱いた。あろうことか、グールを召喚して襲わせた。危ういところを救ったのが、リードと同僚のクレス・ロイニードで、王都で宮廷魔導師を襲った事件を、重く見た国王が、直ちに調べるよう、言い渡した。
二人は王命に従い。調べあげた結果……。レビーニが捕らえられた。
「何をする!、我が妻となるエルダとの。愛の営みを邪魔をするな、平民ごときが」
妄言を吐き、レビーニを捕らえた騎士達を前に、彼は最後まで狂信的な暴言を吐き続けた。
報告を受けた国王は、あまりの毎に。色を為した。
「……なんと、恐ろしいことを……、民を守るべき。宮廷魔導師が、同じ宮廷魔導師の命を狙うなど、断じて許されね……」苦悩の末。大監獄に幽閉することが決まった。
そう全ては、未遂事件で終わったかに思えた……、
闇の魔導師そう呼ばれる。大罪人が、大監獄にいた……、
四人の……。闇に堕ちた高弟を従え。闇の魔導師アンソワーズは、牢番を皆殺にして脱獄した。
それが……、
後に……。世界中で、大事件を起こす。始まりであった━━。
焼けた城。無数のアンデットが徘徊する街。
リードと同僚のクレスは、エルダ、ヒルダ姉妹を助け出して。命からがら、脱出に成功した。
逃げる途中。クレスとは別れた。
「済まんなリード、俺は騎士団の生き残りを集め。何としても国を取り戻すよ」リードも一緒に戦いたいが……、エルダの憔悴した姿を見れば、今は比較的安全である。太古の森に逃げることを選んだ。
「今は、時間が必要だ、クレスいずれまたな」
「わかってる。お前は彼女を守れ」
お人好しの同僚リード、二人が、再び会うことは無いかもしれない。わかっていたが、大切な女性が、幸せに暮らせる場所を作る。それがリードの願いである。
━━━現在、ホピット村。
娘ラミが、花の妖精や。ブラウニー姉弟と、元気一杯に。家から出たのを見送り、表情を引き締めていた。顔色は青白いが、エルダの顔には、あの頃のような憔悴は伺えない。
「エルダ、二人目が欲しいな」唐突に場違いなと、思うかもしれない、こんな時に?、呆れた顔をされたが、夫の優しい労る眼差しを受けて、ハッと気付いた。
「そうですね。生きてラミの姉弟を……、ですわね」
恥ずかしそうに、髪を束ねた首筋が、赤くなっていた。
「多分……、あの男だ、背は任せる」
「はい!」
妻は、姉ヒルダに緊急を知らせる。方法を用意していた。徒労に終われば良いのだが……、不安を口内で噛み砕いた。
━━家の外に出たラミは、ブラウニー姉弟。花の妖精クルーレ、二粒に増えたカレーナと、村に1つの雑貨屋にたどり着いた。
「どうしよう……、鍵掛かってる」ガチャガチャ回すが、しっかり者のガブガブさんは、毎日戸締まりをするのです。
『ぼくに任せて』
ラミと場所を変わりまして、帽子を取り。中から針金を取り出して、うんしょうんしょ。つま先立ち、鍵穴ガサゴソ。針金を差し込み。かちゃり。アサッリ鍵を開けてみせた。
「すご~い!、キリー凄いねマリー」
『あっ、あれくらい私も出来るんだからね~』
あまりに弟ばかり褒めるから、少しだけ嫉妬したマリーである。
「うん、マリーさん、二人にお願いがあるのいい?」
唐突に。ブラウニー姉弟を見下ろし。二人はキョトンと顔を合わせた。
『どうしたのラミちゃん』
代表して、キリーが訪ねると。
「時間がない気がするの。大変だけど二人には、沢山お家あるから、扉の鍵開けして、家々を回って欲しいの」
あまりにしっかりした考えに。びっくりしてた。
『ラミちゃん!、すっごくいい考え』
お姉さんのクルーレは、うんうん大賛成してくれた。
『うむそれなら、丁度良いな、わし等が各家におるから、不足の事態に備えやすくなるわい』
二粒に増えたカレーナさん達も、賛成してくれた。
『でっ、でも……』
心配そうなマリーさん。にっこり微笑み。
「大丈夫!カレーナさんに、クルーレさんもいるから。マリー、キリーお願いね」
二人は急に。お姉さんみたいになったラミを見上げ。にっこり笑いあい、うんうん頷いてくれました。『ラミちゃん任せて!、私は鍛冶屋、農場と牧場回るから。キリーはドーム爺、長老、ピーター兄弟のところお願い』
『わかったよマリー、気を付けて』
『あんたもね』
二人はトコトコ走り出した、ふわりラミちゃんの前を飛んだクルーレさんは、クルリ踊るようなステップで、雑貨屋さんの二階に飛んでいく。
『わしが1人残る。お嬢ちゃん、村人を頼んだぞ』
厳かに告げ、家の入り口に半分だけ埋まり、根を生やし。みるみる間に成長して、樹になると、パックリ目と口が現れて。根を出して、動きだした。
『ラミちゃん早く』
呆然と見ていたラミは、ハッと我に戻り。二階に急いだ━━。既に舞うように宙をステップで、魔方陣を描きながら、クルーレさんが、準備を整えていた。
『ラミちゃん、沢山の家を回ると。沢山の魔力が必要になるわ。だから魔力をセーブしたいから、なるべく召喚されてる間。私といてね』
理由は解らないが、それは大切なこと、教えられた気がして、素直に頷いた。
『目覚めの息吹き』
犬に似た。コボルト族ガブガブさんが、ぱちくり目を覚まして、ラミ達を見て、とても驚いた顔をしていた。
家を囲むよう。強力な結界を描き、エルダは、スタッフを、油断なく構えていた。空を見上げれば、茜色に変わり……、間もなく。夜を迎える。
「少しでも時間を稼ぎ、倒せるなら倒す」
「はい」魔力を宿した。大剣を引き抜き、油断なく自分たちの家を伺う。
ゴゴゴゴゴ
足元が隆起するような、不気味な鳴動が鳴り響く━━。
『フハハハハ、間もなく我等が時間である。我が妻となるエルダをたぶらかせし。矮小なる者よ。貴様の子を生け贄に、契約の指輪の力を解放しようぞ!』
おぞましい程の執着。それこそレビーニに、力を与えていた。
「させない……、ラミは、私たちが守るわ!!」
強大な闇の波動を受けて。心が折れそうになるエルダ。一抹の不安を抱いたが、二人の心を支えてるのは、一生懸命頑張ってる。ラミの姿。
『出でよ。我が下僕どもよ』
鳴動が、家屋を揺らし。結界を内側から、凄まじい力で、打ち破ろうとしていた。それと同時に。辺りは闇の領域が増え始める。死者の王である。吸血鬼の能力を発動した。
ぼこぼこ……、腐り。無念の内に死んだ死体達が、吸血鬼の魔力に引き寄せられて。村中に溢れようとしていた。
「エルダ!、リード来たんだな」
「わし達もおるぞ」
コボルト族のガブガブ、鍛冶屋を営む。ドワーフ族のランドルフと、弟子二人が合流した、ランドルフは自分の身長はある。金槌を手にしていた。
━━数十体ものゾンビが溢れ出していたものの。夫婦は小さく微笑みすら浮かべ。表情を引き締めた。
その頃━━。ラミは農場で働くみんなを助け。そのまま牛飼いのピーノ、妻のリズさん、アシリーちゃんを助け。ピーノさんはラミの話を聞いて、家の守りをカレーナに任せ。ラミと一緒に、付いてきてくれることになった。
後は長老様と、ドーム爺。村の入り口に住む、ピーター兄弟だけだ、
ほどなくマリーと合流したラミは、長老様を目覚めさせ。そのまま、ドーム爺と孫のレームを助け。ピーター兄弟の家に急ぐ。
「ラミちゃん!、ゾンビが襲ってくる。私が防ぐから急ぐんだ」
「ピーノさん……、はい!」
ピーノさんは、弓を手にしていた。緩慢な動きで迫り来る。ゾンビの群れを、木々、地面に縫い付け。無理に戦わずに。時間稼ぎをする。
ラミは、もうへとへとだけど、みんなのためにと一生懸命走る。ようやく村の入り口にある。ピーター兄弟の家に着いた、
『ラミちゃん急いで、カレーナが防いでるけど、ゾンビが来てる!』
不安一杯だったキリーは、ラミ達を見つけ、大はしゃぎ、
息も絶え絶え。カレーナの樹の横をすり抜け、ピーター兄弟の家に飛び込んだ。
『ラミちゃん、目覚めさせてくるから、少し休んでなさい』
青白い顔で、疲労が伺えるラミを気遣う。
「だっ、大丈夫。クルーレさんは言ったから、ラミが側にいないと、大変だって」
健気に答えるラミに。思わず感激したクルーレは、ラミの頬に抱き着き。
『ありがとうラミちゃん。もう少し頑張ろうね♪』
「うん!」二人が家の奥に向かう。マリー、キリーは、決意した表情を浮かべた。
『マリー、ぼくなんでオベロン王が、ラミちゃんを守るように言ったか、わかったよ』
『キリー、私もだよ、ラミちゃん守ろうね!』
二人は手を叩き合い。小さなハンマーを、それぞれ呼び出した。家付き妖精も。戦う力はある。どんなことをしても、誰も通さない。小さな姉弟は決意した。
エピローグ
━━急を報せるアラームが、診療所に響き渡る。驚き、顔を青ざめさせるヒルダは、唇を噛み締め、大切に隠してある。魔力の指輪を引っ張りだしていた。荷物とスタッフを手に、厳しい顔をクルクルに向ける。
話を聞いたクルクルの背に乗り、猛然と診療所を飛び出した。ヒルダの顔は、血の気を失っていた。
「きっと大丈夫、大丈夫だから……」
「ウニャーン!」
何時もは、のんびりしてるクルクルだが、家族が危険に晒されてると聞いては、ラクシャ本来の能力を使い。森の中を猛然と走る。クルクルの鞍に。ヒルダはただ落ちないようしがみついた。
逆恨みする元ロイドル貴族の宮廷魔導師。レビーニ・オロンは、黒の魔導師の力によってバンパイアになった愚かな男。エルダとリードに憎悪を抱く。