クルクル初めてのお使い
太古の森の現状
森の入り口は3つあって。それぞれ亜人の村や国が存在していた。有名なところはリザードマンの国・沼の国であろうか。
人間と多少なり交易をするが、基本沼の国に迎え入れることはない。比較的人間と良い関係を結んでいるのが草原の妖精と呼ばれる小人族。ただしある団体。赤の旅団がらみに限られていた。
海と湖に繋がる洞窟には、半魚人と人魚がそれぞれ争いを繰り広げていて。お互いの海底都市を巡り地上からは見えない争いをしていた。
太古の森で、国と呼ばれているのが、リザードマンの沼の国、エルフの太古の森、半魚人の国、人魚の国の四つである。その他の種族は、村や集落を形成していて、独自の発展を遂げていた。森の南。リザードマンの国とエルフの太古の森。直線上に見れば丁度中間にあるのが、ホビット村である。二国にもちょっとした因縁があって、人間の夫妻の力によって、ひとまず和平を結んでいた。
ホビット村から霧の湖までは、北西に。人間の足で数日でたどり着ける位置にあった。
太古の森にある湖とは。太古の湖、霧の湖、沼と呼ばれる3つで。沼と呼ばれているが別に水質に問題はなく。
プロローグ。
━━時間は、ラミが早起きする。かなり前……。
前日の夜に遡る。
ラミの母エルダは、姉ヒルダの不摂生な性格を心配していて。定期的に村で取れた野菜。果物や。ラクと呼ばれる牛に似た。ミルクから作ったチーズ。保存用の堅めに焼いた堅焼きパン等。姉の住む。一年中霧に包まれた湖近辺では、なかなか手に入らない食べ物を。湿気に強い油紙に包み。定期的に送ってた、でも……、
輸送屋のドーム爺が、ぎっくり腰になってしまい。孫のレームでは、土地勘が必要な霧の湖近辺は。かにり難しく。ほとほと困り果てていたそんなところに。
「うにゃにゃ~ん?」
大丈夫?と、言われた気がして、エルダは豊かな毛並みの。クルクルの頭を撫でながら、小さく嘆息した。
「クルクル実はね……」
人間の言葉を理解し。何でも聞いてくれるクルクルに、ついつい色々なことを、家族みんなが話をする。
━━それどころか、村の誰もが、何でも話し聞かせるのだ。それをクルクルは、真摯な優しい眼差しで、じっと聞いてくれたり。時に慰めてくれたり。一緒に悲しんでくれたり。優しい性格のクルクルを、村人みんが大好きになていった。
もう誰もクルクルがモンスターだとは思ってない。村の大切な一員。まるで家族や仲間として……、みんなから受け入れられていた。
「うにゃ~ん、ニャ~ン」大きな身体のクルクル。ふわふわな頭を優しくくっ付け。クルクル用の大きな鞍を引っ張り出してきて、エルダの前にお座りした。
驚くエルダに。優しく鳴いていた。
「もしかして……。クルクル?」
「うにゃ~ん♪」
そうだよ~と胸を張る。優しいクルクルは、エルダが姉のこと、とても心配してるのを理解していた、それにクルクルは何度か、ラミを乗せて、みんなでヒルダの家まで、訪ねた事がある。クルクル用の鞍は、その時にあしらえた物だった。
「……ありがとうクルクル。でも良いの?」 村の外は、危険が一杯である。友好な種族ばかりではないからだ。
「うにゃ~んニャ~ン!」大丈夫よ~って、言ってるようだった。クルクルの優しい気持ちに気が付いて。思わず首をギュ~ッて抱き締めていた。
「ありがとうクルクル……、姉さん1人だから、悪いけどお願いします」
「うにゃ~ん♪」
くすぐったそうに。でも誇らしそうに。胸を反らした。
「お母さん、クルクルお休みなさ~い」
お湯で身体を拭いたラミは、髪も洗い。ご機嫌である。
「うにゃ~ん♪」
クルクルが大好きな石鹸の香りを嗅いで。まるで姉のように振る舞うラミを、本当の母のように慕い。時には世話の焼ける妹を世話するお姉さんのように接していた。だからしばらく留守にするからと、大好きなラミに、優しく頭を擦り付けて、
「クルクル~♪」
くすぐったそうに悶えながら、目を細めて、クルクルの太陽の香りする毛並みに顔をすり付け、胸一杯に匂いを嗅いだ。
「ラミ、クルクルにお使い頼むんだけど、良いかしら?」
お母さんとクルクルの話は、聞こえていた……、ラミにとっても大好きなヒルダ伯母さんのこと、ラミだって心配なのだ、だからとびっきりの笑顔で、
「うんうんいいよ!、クルクルなら大丈夫だよね?」
「うにゃ~ん!」
任せとけ。そう言われた気がして、思わず親子は見合い。楽しそうにに吹き出し。声を上げて笑っていた。それからラミが寝るまで一緒に過ごし。真夜中そっと大好きなラミの頬に、鼻でチョンチョン。
「クルクル……、きをつけて……」
何て寝言を聞いて、
「……ニャ~ン」
小さな声で、返事をしていた。
食堂で待ってた夫婦は、しっかりクルクルを抱き締めていた。「クルクルわかってると思うが、オーガには気を付けるんだぞ?」
「うにゃ~ん!ニャン」
邪悪な気配に敏感なラクシャなら、大丈夫だとは思うが……、リードはもう1人の娘が、お使いに出るようで、気が気では無いのだろう。思わず吹き出してしまいそうになるが、そこは我慢した。
「クルクル、こっちの袋に、朝ごはんが入ってるから、安全なところで食べなさい」
「ニャ~ン」袋の中に、クルクルの大好きな、ラクのミルクを浸したパンが入ってるのだ、ゴロゴロ嬉しそうに喉を鳴らしていた。立ち上がったクルクルの背に。鞍を着けて、落ちないようしっかりと。荷物をくくりつけた。
「クルクル重くないか?、大丈夫かい」
「ニャン。ニャ~ン!?」
二人に見送られて。クルクルは村の外に向かってトコトコ歩き出した。
その様子を見ていたのが、村の入り口まで、ブラウニー姉弟である。
「うにゃ~んニャ~ン!?」
姉弟とは物心付いてからの知り合いである。だから二人にラミの事を頼んだ。
『私たちに任せといて』
『ラミちゃんは守るからね』
「うにゃ~ん♪」
安心してクルクルは、初めてのお使いに出たのです。
肉きゅうにひんやりした土の感触。夜露に濡れた木々の香り。スカピ~スカピ~。胸一杯に吸い込む。夜の匂い。ホビット村から森に出たのは久しぶりである。クルクルはラクシャと呼ばれるモンスターである。本来は森の中で、ひっそり暮らす生き物で、滅多に人前に現れないから幻獣と呼ばれていた。さらにモンスターであるが知能は高く。幻の魔法まで使うので。森のモンスターからは賢者として崇められていた。まだ若いクルクルだが、ラクシャの固有スキルが開眼していて、僅かではあるが、森に同化する能力が使えた。
ゆっくりした歩みは、やがて疾走に……。
森を走り。草木を踏み分け。自然の中を走る喜びに。しばらく浸る。どれくらい走ったか……、
やがて緩やかな歩にしていた。それは徐々に辺りが明るく。日が出てきたから、他の種族が目を覚ます時間。特に朝は注意が必要だった。
段々暖かくなると。朝露で、匂いが分からなくなる。それに危険なモンスターもいるので気をつけてなければならない。この辺りには悪食のオーガや、好戦的なホブゴブリンがいるから。見付かると厄介である。辺りに注意しながら歩いてると、微かに香る水の匂いに気が付いた。湖を源流として、森には小さな小川が無数にあって。丁度喉の渇きを意識したクルクルは。一休みすることにした。
冷たい小川の水で、渇きを癒してから。大好きなお母さんが持たせてくれた。鞍にくくりつけていたお弁当の袋を。器用に外していた。さて食べようとした時だ。視線を感じて。そちらを見てみると。
「うにゃ~ん♪」
小さなラクシャが数匹出てきて、クルクルに挨拶をしてきた。
「うにゃ~んニャ~ン♪」
同じラクシャに。森で会うのは珍しいことだ。小さい子供達の後に。クルクルと同じ位のラクシャが、ノッソリと現れて。しばらく顔を見ていたが、仲間だと分かり安心して、挨拶の鼻キッスをかわした。その時グウ~、
子持ちラクシャからお腹が鳴っていた。見れば餌が取れていないのか毛並みがパサパサで。子育てに苦労していたようだ。
「うにゃ~ん。ニャンニャニャニャ」
自分は恵まれてるから、大好きな、ラクのミルクを浸したパンを譲ると伝えるや、とても喜び。クルクルの首筋に。頭を擦り付けて感謝を示した。
よっぽどお腹空いてたのか、あっという間に平らげる。その間はクルクルが子供達と遊び。落ち着いて食事を済ませれるよう。辺りを見ていると。ラクシャの母親は、満足そうに髭に着いた、パン粕を取って。身だしなみに顔を洗っていた。一息落ち着いた所を見計らい。
「ウニゃニャ~ン」
別れを告げたクルクルは、再び森の中を走り始めた。大切な家族の元に急いだ。
日が高くなる頃。水の鮮烈な清々しい匂いがしてきた。すると……、毛皮にまとわり付く霧が急に現れて、視界を悪くしていた。どうやら目的の湖が近いようだ。でも髭が霧の水滴に濡れて、能力が半減する前に。髭を揺らし。向かうべき方向と、
方角━━。
さらに周囲の地形を判断する。そう時間は掛からず。この辺りからならヒルダの家に着くだろう、クルクルは尻尾を上げて、軽快に走り出した。
森の奥にある。3つの湖、その中でも最大の大きさを誇る湖があって、遠くゴツゴツした岩山に囲まれて見えるが、あの先は外海。海がみえると言う、湖の底は巨大な洞窟となっていて、海と繋がっていて。海の魚。大型モンスターもある季節になると見られると言われていた。霧の湖が一年中霧に包まれてる理由が、暖かな海水が、海のみちひきによって、冷たい湖の水と混ぜ合わせられて、発生する。そんな住みにくい場所。湖のほとりに居を構える物好きな人間の女がいた。
近隣に住む種族は知っていた、それが人間の女であり。彼女には癒しの魔法を使い、またあらゆる薬の調合が出来る。稀有な存在研究者であることを。そして住まいが研究所兼治療院を営む女性ヒルダを、多少なり信頼し。彼女を訪ねる患者はいた。薬を求めたり、原因不明の毒、怪我、病気に掛かった時。渋々助けを求めるのだ。その日も珍しく。二人の患者がやって来て、先ほど帰っていた。何時のか昼を少し回った時刻で、薬の代金に。リザードマンは新鮮な魚と、睡蓮の種を置いてった。もう1人、人と言うか……コボルトなのだが、多くが洞窟に住んでいて。その奥でしか手に入らない。希少な麻酔に使う。茸を持って来てくれた。
「これだけあれば、麻酔薬のストックも。安心ね」
ぐっと背伸びして、一息着くことにした。お茶を入れるため。お湯を沸かしに。キッチンへ━━。
火を起こし。薬莢に水を入れて、火に掛けた。
保存のパンを一つ取り出し。くわえながら中身を見て、眉を潜める。
「残り少ないわね……。何時もなら。ドームじいさんが、来る頃だけど……」
妹達に何かあったのかしら?。可愛い姪と、その相棒を思い出した。
「うにゃ~んニャ~ン♪」
途端。聞き覚えのある。鳴き声が聞こえてきた、ケルトから蒸気が沸き上がる。薬莢を火から外して、小さく唇を綻ばせていた。
「噂をすれば、コボルトが来るね」クスクス笑い。火を消してから、玄関に向かった。
扉を開けると、ちょこんと待ってたのはやはりクルクル。
「よく来たわねクルクル」
辺りを見たが。どうやら一匹で来たと理解して、益々笑みが深まる。
「入りなさい。タオル用意するから。待っててね」
「うにゃ~ん♪」
ヒルダに続いて中に入る。
ヒルダの小屋は、診療所も兼ねてるので、入り口付近は、待合室のような造りになっていた。受け付けを兼ねたカウンター、その奥に。調合室。細い通路の奥に。寝室と、客間がある。客間を治療部屋に使うこともあるから、渇いたタオルが大量に用意してあるので。適当に見繕い。濡れた毛皮を拭いてると。
クルクル用の鞍をしてることに気付いた。鞍には何やら荷物がしっかり結えられていて。落とさぬよう。一つづつ外して、中を確かめていくと。やっぱり……、納得していた。
「ご苦労様。ありがとうねクルクル♪」
「うにゃ~んニャ~ン♪」
ゴロゴロ喉を鳴らし。大丈夫だよ~と主張する。鞍が外され。荷物の重さと、責任を果たした重圧を降ろして、誇らしさに。クルクルは胸を張っていた。
━━今から一年以上前。
クルクルがラミに拾われて。村人が集まり、話し合いが行われた。様々な意見が述べられ。物議をもたらしたが、村で暫く面倒を見ると、決められたことがあった、
あの時━━、
ラミが頑として、自分が育てると譲らず。両親や村人を驚ろかせた。最後には大人達が折れて、まだ五歳になったばかりのラミに。クルクルと名付けたラクシャの子の世話を任せることにした━━。
クルクルが━━ラミの家にやってきて、昼夜問わず。幼い女の子が甲斐甲斐しく世話をした。それは端から見れば本当の姉妹のようだった。1人と一匹は何時も一緒だった。村人もラミの両親も。ラミとクルクルが。仲睦まじい姿を見ることが、大好きで、すっかり日常の一部になるほど。温かな気持ちで見守っていた。
エピローグ
クルクルがラミの家の家族となって。半年が過ぎた頃━━。
聖獣の祠で、不思議な体験をしたことがあった━━、
何時ものようにクルクルは、助けてもらったお礼を言いに、祠に毎日しに通うのが日課で、
その日だけはほんの少しだけ、様子が違っていた……。
暖かな春の日差しを思わせる気配。まっすぐクルクルを慈しむ。優しい気配を感じ取った。
『クルクルと名付けられたようだな。お前は幸せか?』
それはとても厳しい感情が渦巻いていた。聞くものに安心感と、不安を与える深い思念。
「うにゃ~ん」
幸せだよ~と答えるや。優しい気配が、クルクルの後ろに現れて。毛を慈しむようにペロペロ。まるで両親に愛されてる。そう思わせてくれた日だった。
『お前の姉。ラミはどんな子供だ?』
少しだけ、和らいだ声音。純粋に興味を抱いた思念に。
「うにゃうにゃウニャニャ~ン」
いっつもクルクルのこと一番に考えてくれる。大切なお姉ちゃんだよ~、
ゴロゴロ自慢そうに喉を鳴らして、胸を張るのだ。あまりに可愛らしい気持ちは、聖獣とも。神とも呼ばれる。テ・ミリオンにも……。
とても優しい気持ちにさせた。
『そうか……、森の闇は深い。今しばらく。お前達の行く末を見守ろう……』
そう言い残し。気配は消えていた、でもクルクルの尻尾には、一房の白い毛が巻かれていた。
「うにゃ~ん♪」
クルクルは、とてもぽかぽかした気持ちになり。今しばらく祠に居ることにしました……。
沼地特有の巨大蓮が群生していて。そこから沼と呼ばれるようになった。また同じ物語か、別の物語で、背徳の魔王でした。