腹を決めろ。
この世界には人は五万といる。だから、十人十色なら、五万人五万色なんだろう。
最悪のことを想定して動くから、迅速な対応が出来なくなっている。
それなら、対応しながらその都度最悪とはどういうものなのかを考えていけばいいじゃないか。
そう考える人もいる。
けれど、本当にどれがベストなのかわからない。
特にこの場合には。
この世界って言うのは少し代わっていて。物心がつくだいたい3歳までの間に、人は何かしらを無意識に選んでいて。
その選んだ何かっていうものが、その人の特徴として能力として備わる。
例えば、喧しい家に生まれた人が、3歳までに自分の周囲で途切れることなくしゃべっていることに対して、理解したい。
言葉を理解したいと、思えば、基本的に公用語とされている言葉くらいは、さわりさえ身につけてしまえばどんな応用でも利くとか。うるさい、静かにしろって思っていたら、静かにさせる手段に長けていたりとか。
例えばふと目が映した景色がきれいでそれを良く見たい。と、最初に思った無意識がそれだったら、人の健康状態から、まとっている雰囲気から空気から身体が纏っている一般的には見えない氣と呼ばれるものの色から見えたりする。
言葉理解に長けている人物を、言能力者と呼ばれ、一般的には見えないものを見ることに長ける人物を視能力者とよび、本来人が聞くことの出来ない音域のものですら聞いてしまう人物を聴能力者という。さっきいった、場を収める能力者のことを、収拾能力者とも呼ぶ。まぁつまり、それぞれが何かしらの名前+能力者ってことになる。
ちなみに平凡もまた難しいことだ。何かにつけて平均的って言うこと自体がこの世界では凄く難しいことだから、平凡は非凡として扱われる。
そうやって、五感だったり六感だったりはたまた役に立つのかどうなのか解らない自分が自分となる前に強く願った何かに影響されながら生きている身としては…トラブルに巻き込まれたときのことも考えて何かしら身を守る術を身につけている最中…
とはいえ。
これはどうしたらいいんだ。と言う、状態に今はまってる。
「なんじゃこりゃー」
思わず叫びたくなる、輪郭のないふよふよとしたエネルギー体の何か。
その何かが必ず持っている黒い点…黒子か?それがおそらく、ウィークポイントになるのだと思う。
俺の勘と俺の目がそういってるような気がした。
だが残念なことに、鋭い刺すような獲物を持っていないんだ。
ウィークポイントの黒子と呼ばせてもらう。後々が面倒だから。
それはすっごく小さくて、ポイントをしっかりつくことが出来ないというか、俺が持ってるのって、竹刀だからウィークポイント以外を押すと…これは、増殖しそうな予感がする。
で、そいつは俺を見てて俺に興味を持って、ぽんぽんと跳ねながらやってくるんだ。
もうこれは、逃げるしかないだろう。
三十六計逃げるにしかずだ。逃げることに決めた。逃げようと思った。
平坦な道じゃだめだ。あいつは丸い。手も足も首も頭もない球体だ。お祭りの出店とかである、ヨーヨー釣りの結び目とゴムがなくなったようなものだ。
もしかしたらボールの方が近いのかもしれない。
走りながらそんなことを考える。だが、足元にも同時に気をつけている。
気をつけているというか、見ている。目じゃなくて意識として。
長い階段がある。階段の幅は狭い。ボールの直径よりも小さければ角度的に逃げ切れるんじゃないかと思った。
が、そうはうまくいってくれなかった。
そうだよな。そうだよな。
物事を単純に考えるから失敗が多いんだといつも怒られているよな。
でもな、こういうときは単純に考えた方が、足が止まらなくて…って、いきなり目の前を横切ったやつがいた。
「ちょっ…あぶねーじゃんかっって、そっちいくな。球体が俺を追いかけてきてる!」
横切ったやつは俺が来た方向へと行こうとしてた。だから即とめた。
「だからそれを仕留めに…って、どこよ?それ」
その人物は足を止めてくれて、振り返った。きれいな黒髪の美女、美少女?
とりあえず今まで見たことのある人じゃないことは確かだ。
「あー…500mくらい先にいる。とりあえず追いかけるスピードは、1回につき跳ねる高さが低いため距離が出ないから、ゆっくりで…って、俺、視能力者だから、見せた方が早いな。ちょっと触るぜ、すまんな」
彼女のまぶたに手をかざし、それを外した後で彼女の手を握る。
「見えるか?その中に黒いちっこい点があるだろ?あれがおそらくウィークポイントだと思うんだが、俺の勘だと余計なところまで巻き込んで突くと分裂しそうなんだよ」
彼女は声を上げそうになってやめた。賢明な判断で助かる。
必要な情報だけ見せて、彼女から離れる。じゃないと、今度は変質者扱いされそうで困る。
「ん、解った。情報ありがとう。でも、貴方の能力、一時借受できる?」
今は俺が接触して彼女に見せることが出来た。つまり、接触しないと黒子がどこにあるかはわからない。
だから何か細い貫くものを持っていたとしても、彼女はその場所を正確に突かない限り、あのボールもどきは増殖してしまうと言うことだ。
で、この場合の能力の借受と言うのは、俺の視覚に長けている能力を一時彼女にまとわりつかせて、ウィークポイントの位置を継続してみることが出来るようにすると言うもの。
「出来るけど、短時間でここから走って突く前に消えるぜ?それでも良いなら」
背に腹は代えられない。自分が纏っている視覚に特化したいうなれば、顕微鏡のようなレンズを彼女に渡す。
レンズの入っていないフレームだけの眼鏡と共に。
「レンズをはめて使うんだ。そのレンズが溶けるまでの時間、ウィークポイントと思われる黒点を見続けることが出来る。情けなくてこの上ないが、助けてくれ」