さのゆの
A 作者札幌旅行記念*超番外編
プロローグ
前作からの登場人物であり、物語の象徴とも言える。
こんなにも条件を満たしていると言うのに、何故だ…何故なんだ…
――何故僕が主役じゃないんだ――
彼は自分の掌を見つめ、重く膨らむ疑問と対峙した。
1
空港は暖房が効いており、暑さすら感じた。
現代科学がもたらした季節の混在現象に、思わず顔を歪める。
春休みとは言え、まだ3月上旬である。
Aの『日差しはあるが、風はまだ冷たい』と言う言葉もあり、寒さに備えてしっかり着込んできたのだが…季節外れの雪だるまのような装備は、野外限定で有用らしい。
『暑いわね。』
溜め息に乗せて呟き、マフラーと上着を脱ぐ。
まさか、この季節に北海道で“暑い″と言う単語を使うとは思わなかった。
行き交う人々に目を凝らす。
携帯を使うまでもない。
恐らく、向こうに見える挙動不審な人物がAで間違いないだろう。
――なんてわかりやすい。
『A!!』
私の声に気付くと、実家の愛犬のように駆け寄ってくる。
間違いなく、Aである。
それにしても、彼女の両手を塞ぐ紙袋の山は、一体なんだろう。
『R!おはよう!!』
『うん、おはよう!!そして久しぶり!!』
1年振りの再会に、おはようを用いるとは…ちなみに、今は昼である。
『え~と…“第一回とある星物語合宿in北海道~常識を捨てた俺たち~″とことん楽しもうね!!』
ただの“北海道旅行″では詰まらないと、私が適当に付けた名目だ。
すっかり忘れていた。
『おうよ!!第一回とある合宿in your house~We can fly~楽しんでいこう!!』
ほとんど原型を残さない名目に、Aが笑う。
『あ…そうだ。2時間前に着いちゃって…時間があったから、ケーキとクッキーと……いっぱい買ってきた!!』
Aが、両手の紙袋を掲げて見せる。
どうしたら約束の2時間も前に到着するのだろう。
両手いっぱいの紙袋を見る限り、三食をお菓子にしても、旅行中に二人で食べきれる量ではないのだが。
『あとで一緒に食べようね!!』
無邪気に笑うAを見ると、つい微笑み返してしまうのだ。
* * *
鍵を挿し回すと言う行為は、何度やっても苦手だ。
息を飲み、心を落ち着かせる…が、やはり失敗し、手首が変に捻れた。
隣でRが笑っている。
『鍵の複雑さと人間社会の中での鍵のあるべき姿について、体で表現したのです!決して鍵を回すのが苦手な訳じゃ…』
慌てて付け加えた補足は、火に油を注いだだけだった。
Rの笑いを止めるのは諦めて、開いたドアを支えることに専念する。
『どうぞ、お姫様。』
今日から三日間、利恵ととあるな日々を過ごす。
胸が高鳴りを押さえられなかった。
【次回予告】
主人公になれないジョニーの想いが、お歯黒ジョニーとなってリアルワールドを襲う!
2011/02/17 (Thu) 0:09