"YOU CAN'T GO HOME AGAIN"
海の向こうの見知らぬ町で
薄暗い怪しげなレコードショップで
僕は一枚のレコードを買った
近頃は
CDさえも買うことはなくて
プレーヤーだって持ってはいなくて
どうするって飾るくらいしか出来ないけれど
僕は一枚のレコードを手に入れた
僕が一番初めに立ち止まった棚の一番前
僕を待っていたかのように
ぱっと目に飛び込んできた
チェット・ベイカーを
僕は彼のけだるげなトランペットが好きで
その棚を引っくり返すように探しても
彼のレコードはそれ一枚きりで
何故かどうしても欲しくなって
それは「Should」というより「Must」みたいな感覚で
でも「買ってどうする」という気持ちも強くて
でもやっぱり欲しくて
僕は年老いた彼の目をじっと見つめた
でも本当のところ僕は
迷ってはいなかったかもしれない
店の主人らしい老人が
丁寧に中身を確かめて
大切そうに紙袋に入れるのを見ながら
僕は見慣れないお札を数えた
彼は僕を見送りながら
僕の幸運を願ってくれた
道を横切りながら
「馬鹿な買い物をしたなぁ」と笑ってしまった
それでも足取りは軽やかで
なんだか心嬉しくて
何か良いことが起きそうで
起こらなくても良い気もして
僕は後悔はしなかった
このレコードを
スーツケースの中に隠して
僕の街に帰ろう
この出会いがくれた
この気持ちを抱えて
僕の家へ
帰ろう
―
タイトルはそのレコードのものをそのまま持ってきました。
別段意識はしていなかったのですが、旅先で買うべき題名ではなかったですね。笑
無事帰ってこれてよかったです。